197 万千代の制御装置(リミッター)
阿曾沼領への進軍を翌日に控えた1567年(永禄10年)9月9日、俺は田鎖城下の教会を訪れた。教会とは行っても、史実の南蛮寺と同じように既存の仏教寺院をそのまま活用した建物である。
しかしながら、そこはパトロヌス教の教会、内部に入ればもともとあった三尊形式の仏像に隣接する形で北欧神話のアース神族やギリシャ神話のオリュンポス12神などに相当する神々の神像が祀られ、一番後ろには最高神メルティーナ・カエキリアと思しき美しい女性の絵が描かれていた。
先日、万千代の装身具の中に制御装置機能つきのものがあるかを確かめるため、俺達は万千代を教会に送った。果たしてあれから、調査に進展は見られたのだろうか?
「……結論として……万千代様の装身具に……制御装置の類は……ありませんでした……」
「そうだったか……」
「……万千代様は……いくつかのアクセサリーを……纏っています……。……が……その多くは……身体強化……魔力強化のためのもので……全て壊れていました……」
装身具はあるが、その効果は制御装置とは逆のものばかりか。やはり、ウ゛ィクトリアの仮説は間違っていたのだろうか?
「……ですが……制御装置と思しきものは……発見しました……」
「え? でも今、万千代の装身具で当てはまるものは無いって……」
「……装身具ではなく……万千代様の体内です……」
ビルギッタに案内され、俺は教会の礼拝室へ入った。すると部屋の中央に置かれた魔法陣が描かれているベッドに万千代は寝かされていた。おそらく、万千代の魔力を暴走させることなく調査するために置かれたものだろう。
「……万千代様……失礼いたします……」
そしてビルギッタは、なんといきなり万千代の口を手で大きく広げ、喉の奥を見せつけた。
「ちょっ……ビルギッタいきなり何をして……え?」
万千代の喉の奥、そこには白く輝くルーン文字らしき不自然な模様がでかでかと浮かび上がっていたのだ。
「ビルギッタ、まさかこれが……」
「……まだ……完全には断言できません……。……ですが……これが……制御装置だと……考えられます……」
この輝くルーン文字が万千代の制御装置なのか? でも……
「待て待て。制御装置って、何かしら形のあるものじゃないのか?」
「……制御装置の本質は……能力を制御すること……。……形がなくとも……制御できていれば……問題ありません……」
これは盲点だったな。
ウ゛ィクトリアの解説を聞いたからか、俺は制御装置といえば必ず装身具の形をとるものだとばかり思っていた。だから、体内に埋め込まれているなんて考えもしなかった。
だが「制御装置は装身具の形をとる」のは、あくまで『ミズガルズ』の常識。万千代のもといた世界では別の形をとっていたとしても不思議じゃない。
「……制御装置が……装身具の形をとるのは……能力解放を行いやすくするため……。……万千代様の世界では……別の方法で……オンオフを切り替えている……かもしれません……」
「なあ、これって解除できないのか?」
「……私も試してみました……。……しかし……術式が複雑に絡み……一つ一つの術式も……複雑な暗号と……化しています……。……解除は……不可能です……」
「マジかよ……」
簡単には解除できない制御装置か。一体、万千代のいた世界の住人は、どうやってこの術式を組んだり外したりしていたのだろうか?
いや、そもそも他の人間には解除できないよう、わざと複雑な術式を使っているとも考えられる。もしそうなら、万千代の能力を封印しなければならない何かしらの理由があるということだが……。
「……武親さん……これは仮説……なのですが……万千代様の制御装置は……一定の条件で制御が緩くなる……可能性があります……」
「一定の条件? 何だそれは?」
「……わかりません……。……でも……武親さんが参照した……ステータスの項目……『強さ』の段階表示……これはおそらく……制御装置の強さが……数段階に分けられている……それを示唆する証拠……だと思います……」
「つまりその条件さえ判明すれば、万千代を成長させることができるというわけか」
「……おそらくは……」
制御装置解除の条件か。ゲームのレベル上げと同じように、経験値を一定量積めば一つ弱い段階に移行するとかだったら良いんだけどな。
「……しかし……あくまで仮説……。……これから万千代様を……松前の……アストリッド大司教に……送ります……。……大司教様やウ゛ァルなら……解除できるかもしれません……」
「ちょっと待って。これから俺達は遠野十二郷の征服に向かう。そこで万千代の初陣を飾るつもりだ。彼の魔法データを少しでも集めたいから、松前に送るのは少しだけ待ってもらえないかな?」
するとビルギッタは、あからさまに嫌な顔をこちらに向けた。
「……また、戦ですか……。……仕方ないこととはいえ……どれだけの血が……流れるのでしょうね……」
「……」
嘆きも交じったビルギッタの嫌味。しかし彼女に何と言われようとも、世界征服は必ず達成しなければならない。
俺は万千代が起きるのを待ち、彼を連れて田鎖城へと戻ったのであった。




