2 異世界転生? それともタイムスリップ転生?
1章、スタート。
見えない。動けない。
俺は体をじたばたさせたが、自力では寝転がることすらままならない。俺は誰かに捕縛されたのか?
いや、俺はあの時確かに自殺に成功したはずだぞ?
今でもあの表現のしようのない、それよりも思い出しただけで身震いする、落下時の激痛の記憶がしっかりあるし。
一体、俺の身に何が起こったって言うのか?
しかし目や体の自由はきかなくとも、耳だけははっきり周囲の声や音を捉えていた。
だが、周囲の声は今まで聞いた覚えのない、見ず知らずの他人の声。
◆◆◆◆◆
「ほう、でかした! さすワシの妻よ」
「いいえ、全てはあなた様のご助力があったからこそです……」
訂正。耳だけではなく、皮膚も触れているものの感触を捉えていた。
今、俺は何か柔らかく暖かいものに、優しく包まれているのを直に感じている。
次第に白い光に覆われた視界も、徐々に周囲の風景を的確に映し出している。そして俺は、この柔らかく暖かいものの正体を掴んだ。
それは――
(女性の――胸!?)
大きいな、オイ。
こんな大らかな大地を彷彿とさせる、母なる豊満な巨乳を、たかが俺ごときが触れちゃっていいのか? えへへへへへ……。
む? いやいや、この胸、デカすぎて巨乳どころの話じゃないぞ。
この女性、そもそも体の大きさ自体が俺より遥かにデカい。俺は確か身長が170センチ足らずだったから、この女性の身長は目算で……ご、5メートル!?
オイオイ、もしかして巨人族に連れ去られた系?
「よ~しよし、私がお母さんですよー」
「某がお前の父親じゃ。すくすく育つ姿が、目に浮かぶのう」
ったく、俺の気持ちも知らずに、2人とも子供扱いにしやがって。俺はもう18歳だぞ、国によっちゃもう成人扱いなんだぞ。
犬、猫にしてみれば一生を終えている頃合いだ。
俺はまだまだ精神は子供だってのかよ。
―――子供? 待てよ、この人たちは自分たちのことを、さっきからお父さんだの、お母さんだの言っているけど、マジでこの人たち見たことがないぞ。
それに、さっき俺が2人の身長を目算5メートルなんて見積もってたけど、それは俺の身長が170センチという前提があってこそだ。
そうじゃないと仮定すると、例えばもしこの女性の身長が160センチ足らずとしたら……俺って50センチちょい?
それって……赤ちゃんの大きさそのものじゃないか!
それにこの2人の態度、とても嘘や偽りでとっているようには思えないな。誘拐してきた、は有り得なそうだな多分。
あと医学的見地から1つ。
俺は視力1.2くらいのはずなのに、2メートルしか離れていない物体が、すでに輪郭が判別できないほどぼやけて見える。
どっかの医学書で見つけた話なんだけど、人間が成人クラスの視力を獲得するのは、だいたい3歳前後だそうだ。
つまり今はまだ、その領域まで俺は達していないらしい。
だとすれば、以上のことから導き出される結論はただ1つ。
―――『俺は、転生したんだ』――――。
だが、ここで疑問。
俺が赤ん坊となって転生した場所って一体、どこなんだ?
転生ものの定番といえば、それはもちろん所謂「剣と魔法の世界」。すなわち中世ヨーロッパ風の異世界だ。
だけど、この狭い視界では判断しかねるが、父親を名乗るこの、おそらく40代後半のオッサンの顔つきや、髷を結った髪型、そしていかにも武士が身につける袴などを見るに、戦国時代の日本にタイムスリップ転生したとも思える。
これまたぼんやりして判然としない視界の中に、現代日本では当たり前のテレビやパソコン、冷蔵庫に電子レンジといった家電も、それらしき家具は見当たらなそうだし。
まあ、別に俺は両方のパターンの作品を読んできたことだし、どちらの世界にも興味はあるから別に構わない。便利な家電がないというのもある意味テンプレだし、それはそれで良いんだ。
つか、あんな腐れきった現代日本を離れられたんだ、それだけで万々歳だよ。
なんならこの世界で、自分のやりたいようにやるしかねえ!
とりあえず今は、この女性の胸でぬくぬくと顔を埋めよう。それにしても人に愛されるって、こんなにも心地良いものだったんだな………。パ○オツ柔らかけぇ~。
「えっ、ちょっと……よしよし、いい子にしてくださいね」
俺は、ひさしぶりに親からの愛情を噛みしめた感動と同時に、かつて前世で何者かに焼き殺された、前世における両親のことも思い出したからか、目から溢れでんばかりの涙を浮かべていた。
まさに大和撫子を思わせるおそらく20歳前後の母親は、俺がぐずったと勘違いしたのか、不慣れな手つきで小さな俺を必死にあやしている。
嬉しいことではあるが、きっとこの気持ちのすれ違いは、しばらく続くことになるのだろう。
今は一時、長らく経験することのなかった幸せを、心ゆくまでじっくり味わっていこう。
◆◆◆◆◆
――後の話にはなるが、この世界は俺が提唱した2つの世界を、他の要素も交えて融合した世界観となっていることを知る。
他の要素? 例えば、魔法……とか?
今回、不破一族と言っても織田家には仕えません。そこはご注意を。