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166 根城の戦い

 1567年(永禄10年)2月下旬、田名部館を出発した俺達は3つに分かれた。

 

 一つはヴィクトリア率いる別動隊3000。王国軍のみで構成された彼女達は陸奥横浜(むつよこはま)(現・青森県上北郡横浜町)、野辺地、七戸城(しちのへじょう)(現・青森県上北郡七戸町)経由で三戸城へ向かう。

 二つ目は、俺率いる本隊4000。王国軍の一部やアイヌ勢も加わる本隊は、下田(現・青森県上北郡おいらせ町)、八戸を経由して三戸城を目指す。

 残りは田名部領の統治のため、田名部館に駐留する。


「腕が鳴るな五郎! 晴政の首が待ってると思うと、早く戦いたくて仕方のうござる!」


 小川原湖東岸を過ぎ、馬淵川(まべちがわ)を挟んで根城を望む本隊。太平洋沿いの諸城を落としながら南に進軍する。

 田名部領攻略戦では出番のなかった季貞も、体をウズウズさせながら「今か今か」と晴政との対決を楽しみにいている。宗継やアイヌ勢も同様であった。

 もっとも、根城の主は晴政じゃなくて八戸政栄なんだけどな……。


 ただ、政栄が当主を務める八戸南部家はかつて南部宗家だった経歴を持つ名家。それに政栄自身、病気で失明していたものの後世『盲目の軍師』と呼ばれるほど優秀な武将だ。

 実際には、この時代に『軍師』という言葉はなかったけど、油断ならない人物には変わりない。


 でも、戦国時代の八戸家って結構衰退してたんだよな。だからこそ、晴政が当主である三戸南部家に南部宗家の地位を奪われたわけだし。

 それに根城は先月、東政勝と櫛引弥六郎の軍勢に襲われたばかり。史実では襲撃こそ退けたけど、城は損傷が酷かったようだし。


 そして史実通り、根城は至る所でボロボロな土塁や建物を曝け出していた。


「これが城、なの……?」


「政勝と弥六郎の攻勢の激しさを物語っているでありますな……」 


 もともと南部宗家だった一族の城だけあって、規模は田名部館よりは大きかった。だが土塁も櫓も居館の損傷は激しく、修築なしでは軍事施設として役に立ちそうもない。

 それを物語るように、根城には敵性反応が全くなく、俺達は難なく城を占拠した。


 根城を放棄した南部勢。だが彼らに別の意図があるのは明らかだった。

 俺の瞬間兵力検索(セコンドサーチ)が根城の南方、半里(約2km)の丘陵地帯に南部勢2000の存在を捉えていた。


「皆、武器を構えろ! 南から南部勢がやって来るぞ!」

 

 俺の指示で、本隊の兵士が一斉に弓や槍、魔法杖などを手に取り配置につく。同時に南の南部勢が一斉に根城を目指して進軍を開始する。

 

 南部軍狙いははっきりしている。根城をわざと俺達に取らせ、安心した所を南から奇襲して撃退し城を奪い返す。特に根城は三戸城に次いで、糠部郡における南部家の重要拠点。並の将なら占拠した所で警戒を解いてしまうだろう。

 さらに南の丘陵地帯は根城よりも標高が高い。坂を下るエネルギーを利用して一気に攻めかかれば、防御力が下がった根城では防ぎきれない。普通(・・)の大名に対してであれば有効な戦術だろう。


 だが俺達は違う。ここには、魔法を操る王国軍(専門家集団)や、矢の扱いに長けたアイヌ(民族)がいる。なにより、敵の配置や動きを全て捉えられる俺がいる。

 

「面白いわ。みんな、矢を放って!」


「攻撃魔法もどんどん放ってみよ~!」


 丘の上に南部鶴の旗を掲げた軍勢が見えたところで、俺達も矢と魔法で応戦する。

 まずアイヌ軍が得意の弓矢で南部勢の意識を上に向ける。当然ひるむ兵士が出てくるので、相手の隊列が乱れたところで今度は地属性魔法で南部兵の戦力をさらに削ぐ。


噴き上がる大地(ブラーゼン・ボーデン)!」


 王国軍兵士の呪文とともに坂から大量の岩が噴き上がり、南部兵が次々と宙に舞う。同時に空中でアイヌの矢の餌食となり、生き残った兵も矢が刺さったまま地面や岩に激突して戦死する。

 未知の攻撃に混乱状態の南部軍。高所の利を生かして向こうも弓矢で応戦するが、狙いが定まらずこちらには命中しない。それどころか、レスノテクは自分の矢で南部兵の矢を次々と撃ち落とす離れ業を見せる。


「南部家の人、矢の扱い方が下手くそね」

 

 得意気に笑みを見せるレスノテク。正直、矢で矢を撃ち落とすそのテクニックには脱帽する。

 それでも一部の兵は城の直前まで鬼の形相で迫ってくる。ここは俺達和人の出番だ。


「くひっ……酒がいい感じに回ってきたでごじゃる。これで敵兵と一戦交えられよう。の~? 南条殿」


「私も万事整っているであります」


「よし、行こう!」


 門を出てすぐの所で、俺達は迫る南部兵に向かって名乗りをあげる。


「我こそは、不破五郎武親なりぃ!」


「厚谷備中守季貞!」


「南条宗継! いざ参らん!」


 門を突破せんと襲い掛かる南部軍。土塁の前に空堀があるため、城に入るには門を通るしかない。その門にしても傷だらけで(かんぬき)も折れており、敵の侵入防止には全く役に立っていなかった。よって、南部兵は城内に簡単に入れると踏んでいたようだ。

 が、それこそが俺達の狙い。アイヌと王国軍の援護射撃を受けながら、和人兵と俺達は冷静さを欠いた敵兵を薙ぎ倒していく。


「さあさあ! 俺とやり合える奴はいないのかあ!」


 さすがに高い戦闘能力を持つ俺の後ろに進める将兵はなく、一刻(約2時間)を越える頃には南部勢は潰走。半分弱にあたる約1000人の戦死者を出して、三戸城と久慈方面に撤退した。

 対して連合軍の死者は30名程。味方の完全勝利であった。


 

 ◆◆◆◆◆



 戦後、根城近くの寺院で首実検が行われた。

 討ち取った首は多くが八戸氏や久慈氏ゆかりの人物であった。その中には、八戸政栄の祖父・新田盛政(にいだ・もりまさ)や久慈氏当主・久慈治継(くじ・はるつぐ)の首級もあった。

 首級の身元確認は捕虜となった親族にさせていたが、その首が本人のものと分かった時に泣き崩れる親族の姿は心に刺さるものがあった。

 

 戦をする以上、将兵が死ぬのはやむを得ないが、懸命に戦った相手を辱める真似はしない。首実検後、討ち取られた首級は寺で丁重に葬った。


「やっぱり今日の南部勢は政栄が率いていたのかな……。八戸一族関係者の首も多いし」


「されど政栄の首が無いとなれば、奴は三戸城に逃れたでござるな」


「久慈一族の首もあるということは、久慈や閉伊からも兵が集まっていたのでありますな」


 八戸氏や久慈氏を討ったことで八戸周辺を得た蠣崎家。このまま南下して久慈郡と閉伊郡を獲りたいが、本拠地・三戸城の攻略が先だ。晴政さえ負かせば両郡の征服は容易いことだろう。

 三戸城には晴政を始め、南部一族や重臣が数多く集う。攻城戦を優位に進めるため、地盤を固めつつ別動隊と歩調を合わせ攻略に当たりたい。

 

「ヴィクトリアさんから知らせは来てる?」


「ううん、まだだね~。それよりお城をちゃんと直そうよ~。晴政に攻められたら落ちちゃうよ~」


 俺達は別動隊による七戸城陥落の報告を待ちつつ、根城の修理を始めたのであった。

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