表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/206

157 南部晴政との会見

 恐山を下山して4日後。

 俺達は三戸城の近く、名久井城(現・青森県三戸郡南部町)周辺で鎧兜を来た武将や足軽の姿を発見した。


「狙うは、八戸政栄(はちのへまさよし)が首ただ一つ!」


「おおおおお!」


 規模にして数百人。全員が全員、殺気立ちながら太平洋のある東側へと進軍を開始した。


「あ……あれは、どこの軍勢なのですか?」


「名久井城主、東政勝(ひがしまさかつ)の軍勢だろう。どうやら史実と同じく、櫛引城主の櫛引弥六郎(くしびきやろくろう)と一緒に根城(ねじょう)の八戸政栄を攻めに行ったのだろう」


 南部領各地には南部氏庶流の一族の城や居館が点在している。

 一つ一つの城館は大きくないが、領内では地方の在地領主である国衆(くにしゅう)――簡単に言えば世襲の村長――の力が強く、内紛が頻発していた。

 「三日月の丸くなるまで南部領」と呼ばれる広大な領地を持つ南部家だが、当主・晴政の統治力は絶対的なものではない。


 そして俺達が名久井城で見た光景も、数ある内紛のワンシーンに過ぎない。


 1567年(永禄10年)正月、櫛引弥六郎は東政勝と共に根城を攻撃した。

 当時、根城の城主だった八戸政栄は実父、新田行政(にいだゆきまさ)の葬儀に参加しており城を留守にしていたが、その隙をついての攻撃であった。

 根城そのものは陥落しなかったが、八戸氏と櫛引・東氏の関係は悪化。1571年(元亀2年)に政栄は櫛引城に逆襲し、領地を奪取。櫛引氏は衰退の道を辿った。


「嘆かわしいでありますな。その者達は南部の血筋に連なる人物のはず。身内同士で争うとは、まさに戦乱の世というもの」


「征服した暁には、聖女神様のお導きが必要ですね」


 史実では南部家の中央集権化が進んだのは、晴政の養子・信直の代に入ってから。一族内部の争いがある以上、俺達の付け入る隙は必ず存在する。


 その代わり、この歪んだ世界においては信直に代わって、俺達がその担い手になる必要がある。領地経営も決して楽じゃない。


 さて、早いところ晴政に書状を届け、カレルヴォの計画を阻止しに行くとしよう。



 ◆◆◆◆◆



 翌々日。三戸城についた俺と宗継は、いよいよ南部晴政と対面した。

 

「蠣崎家家老、不破五郎武親と申します」


 まずは礼儀にと、頭を深々と下げつつ、南部家家来衆の様子を伺う。


 ちなみにアストリッドとビルギッタは、晴政とは会わずに三戸城下で布教活動とカレルヴォの消息調査を行なっている。

 アストリッドいわく「攻略予定の在地領主に今すぐ会う必要はない」とのこと。

 人見知りの激しいビルギッタが敵方の戦国武将に囲まれて正気でいられるとも思えないので、彼女の判断は正しいと言える。

 

 とりあえず、三戸城の評定の間には、カレルヴォらしきエルフの姿は見当たらなかった。今は出かけているのだろうか?


 それはさておき、俺は慶広に言われた通り、安東家旧領の返還をはじめ書状に書かれた要求を晴政につきつける。


 当然、安東家配下のいち領主に過ぎない人物の要求に、烈火のごとく怒りを顕わにするだろうと覚悟していた。

 だが、晴政は書状を丁寧に元通りに折り直し、俺に返した後に笑ってみせた。


「はっはっは! こんな書状を送り届けるとは、実に滑稽で片腹痛し。そんなに領地が欲しいなら、檜山屋形(安東愛季のこと)の下を離れワシにつけば良い話であろう」


「さよう。約100年前、田名部領を治めていたのは蠣崎。そして当時の蠣崎の主は我らが南部。まさに殿の申す通りでござりまするな。はははは」


 晴政につられ、爆笑や冷笑をする南部家家臣の面々。書状の内容など、気にも留めない雰囲気を醸し出していた。

 さらに晴政は俺達を挑発する言葉を口にする。


「そんなにワシらと戦したければ、好きに攻めてくるがよい。いつでも胸を貸すぞ。所詮、敗北して領地をワシらに差し出すことになるだろうがな。はっはっはっ!」


 そう言って、刀の鞘で俺の頭をポンポンと叩き、再び大声で笑う晴政。

 怒鳴られることはその後も無かったが、殊更に蠣崎を過小評価する南部家に、俺と宗継はやりきれない思いでいっぱいだった。



 ◆◆◆◆◆


 

 三戸城での会見の後、俺達は城下の茶屋で南部煎餅を食べていた。

 特に会見で大いにストレスがたまった俺と宗継は、茶屋にある全ての煎餅を喰らい尽くす勢いで、口に運んでいた。


「ああ! 書状を送っただけであんなに笑われるとは! ある意味、怒られるより腹が立つ!」


「晴政め! もし戦場で会ったら、拙者が首を搔っ切るであります!」


 バリバリと盛大に音を立てて煎餅を頬張る俺と宗継。

 その音に、周囲の通行人から鋭い眼差しで注目が集まるが、それを気にする余裕はどこにもなかった。


 本来、憎くて南部家を攻めるつもりじゃなかったが、あの会見で俺の彼らに対する印象は一気に悪化した。


「結局、カレルヴォさんも三戸城下にいらっしゃいませんでしたからね……。聞いたところでは、比内郡のほうに移ったとか」


「私めとしては、聖女神様を信じる者が増えてなによりですが」


「カレルヴォめ、比内郡にさっさと逃げるとは。そんなに俺達のことが恐いのか? 晴政もろとも、徹底的に叩きのめしたくなってきた」


「あ、あの……お、落ち着いて……」


「落ち着けるか!」


「ひぃっ! ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 俺の八つ当たりの怒声に怯み、土下座を繰り返すビルギッタ。

 やばい、八つ当たりする相手を間違えたか? そもそも八つ当たりって、最低な行為だよな……。


「ご、ごめんビルギッタ。どうしても晴政のことが許せなくて」


「うぅ、心臓に悪かったですよ……」


「やはり、あなたにも聖女神様の有り難い御教えが足りないようですね。再び説教して差し上げ……」


「宗継、宿に向かおう。こんな日はさっさと忘れてしまうに越したことはない」


「そうでありますな」


「って、あなたたち! 私めの話を聞きなさい!」

 

 俺達に変わり激怒するアストリッドを尻目に、俺達は城下の宿へと向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ