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145 護衛と式場準備

 突然の縁談話から、ヴィクトリアとの婚約した俺。

 だが、父・ヨアキム1世の崩御から日にちが経っていないことと、縁談に至った事情から婚約発表と挙式は当分先のこととなった。

 そして縁談話があった翌月の1564(永禄7年)12月、俺とヴィクトリアは蝦夷地・宇須岸館に渡った。


 宇須岸館で俺達は蠣崎家臣や王国軍士官に迎えられた。


「五郎、お勤めお疲れでござった」


「武親殿が不在の間も、こちらは何事もなかったであります」


「ああ。皆、留守役の務め、本当にありがとう」


「皆さん、ご機嫌麗しゅう」


「王女殿下、お久しゅうございます」


「殿下、父君崩御の件におかれましては、その心中お察しいたします……」


「……ええ。今、我が国は大変な時期を迎えてますが、このような時こそ平素と変わらず自らの任務を全うしてくださいまし」


「ははっ!」


 第2師団の面々に、不審な動きを見せている者はいない。

 彼らはヴィクトリアのいわば近衛師団。ここにはいないが、ベアーテもアストリッドもブレンダも、彼女に対する忠誠心は篤い。

 王女姉妹が彼女の”避難先”として蝦夷地を選んだのも頷ける。


 一方で、ここでもヴィクトリアが父の死を本気で悲しんでいる様子は見られない。

 けど、その件に関して何か企んでいる素振りを見せているわけでもない。

 何か裏事情はありそうだが、彼女が意図的に父の死に関与している線は薄そうだ。


「では、武親殿、ヴィクトリア殿。中のほうへ」


 俺達は宗継に続いて、館の中に入っていった。 



 ◆◆◆◆◆



「異国の姫の命が狙われている、とな?」


 俺は一同を自室に集め、王国の情勢とヴィクトリアの護衛に関して話し合っていた。


「ああ。だから、彼女の身をこの宇須岸館に置いておくことにした。これは慶広――殿の命でもある」


「よろしくお願いしますわ、皆さん」


「りょ、了解ッス! 殿下の御身は、自分が全力でお守り致します!」


「世を乱す不届き者の成敗は、この南条宗継にお任せあれ!」


 蠣崎家臣と王国軍士官。

 最初こそ敵対関係であったが、蝦夷地で苦楽を共にするうち彼らの関係はすっかり蜜月状態となっていた。


「それとこれはまだ内密にしてほしいことなんだけど……」


 そして俺は皆に、ヴィクトリアとの婚約についても伝えた。


「なんと! 家老殿と殿下が夫婦(めおと)になられるとは!」


「殿下、ご家老様。おめでとうございます……」


「しかし、いつからそんな関係になったでちゅか?」


「ま、まあ成り行きで……」


 魔導師3人組からの祝いの言葉と質問攻めに、俺は思わずたじろいてしまう。

 正直「いつからそんな関係に~」と言われても、ねぇ?


「何にしても、祝着至極であります! それで、祝言は?」


「それなのですが、今このような状況で結婚式を挙げるのは不謹慎の極み。早くても来年の夏あたりになるかと」


「そもそも王族のウェディングは長い準備期間を経て行われるもの。それまでゆっくり穏やかに過ごされるとよかろう」 


 逸る宗継の言葉を抑え、老魔導師ヴァルデマルの言葉に一同大きく頷く。

 王族の結婚式は半年から1年の時を要する。前国王崩御のほとぼりが冷めるまでの時間を考えると、来年夏の実施というのも結構早いのではないか。

 あまり期間が空きすぎて、横槍が入るのも頂けないけどね。


「あ……あの……そうなると一つ気になるのは、どちらの国の形式でやるか……ですが」


 他方でビルギッタの質問ももっともであった。結婚式もそれぞれの文化で形式が大きく異なってくる。

 日本人である俺に合わせ、屋敷の中で厳かな雰囲気でやるのか。それとも王族たるヴィクトリアに合わせて、教会で盛大に華々しく行うのか。

 だが、俺の中で方針は決まっていた。


「その件なんだが、俺は両方の形式でやろうと思っている」


「りょ、両方でちゅか?」


「せっかく日ノ本と王国の架け橋の象徴となるわけだから、2つともやるのはアリだと思う」


 実際、前世の俺の両親は神前式と教会式の両方を挙げており、その時の写真を見せてもらったこともあった。

 もっとも、それは21世紀の世界だからこそ普通なのであって、こっちの世界では初めての試み。だからこそ、第一人者としてその象徴的な意味はグッと増す。 

 

「面白い提案ですわ。王族の結婚式は、夫婦の誓いを立てる場所であると同時に、国威を示すための場所。お父様の死と後継者争いという暗い雰囲気を飛ばす格好の機会ですわね。

 わかりました。その提案に是非とも乗らせて頂きましょう」


「祝言となれば、酒も大盤振る舞いにござろう。これは楽しみ楽しみ……」


「殿下護衛の件、忘れてないッスよね?」


「も、勿論にござる」


 そして明くる1565年(永禄8年)2月。慶広とイングリッドそれぞれの口から、俺とヴィクトリアの婚約が正式に発表された。

 と同時に、イングリッドの女王即位も発表。これらに関して一部の王国貴族からは反発もあったが、武力衝突や他国に寝返る者はなく、予想に反して一連の手続きは着々と進行していった。

 親ヴィクトリア派が諦めたのか、それとも別の狙いがあるのか。さすがに現時点では読めない。

 

 そして結婚式を6月に行うことも決定され、各地で式場整備が急ピッチで進められた。

 なお、日本式の人前式は宇須岸館で、そして教会式はクヌーテボリ宮殿とクヌーテボリ大聖堂でそれぞれ行うことになった。

 日本史上、そして王国史上初めての事なので双方からいちゃもんが出ることも考えられたが、「両国の文化を尊重した讃美すべき決定」ということで大方の賛同を得られた。 


 一方でイングリッドの戴冠式はヨアキム1世の命日である10月の開催となった。

 父親の命日に式を行うことで、自らの正統性を国内の貴族にアピールする狙いがあるのだろう。


 あとは、結婚式と戴冠式で惨劇が起こってしまわないか。そこが気がかりであった。

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