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121 農地開発 その5 後退、そして発見

 その後、俺達は生死の狭間でもがき続けた。


「邪悪に与する者よ、死して償え。絶命に至る閃光(クオレマ・サラマ)


「……! 全員伏せろ!」


「ぐっ……!」


 夕闇の森の中、光の刺客が容赦なく俺達を襲う。

 一時も休む暇を与えない。体力の限界に追い込むように、しつこくしつこく付き纏う。

 瞬間兵力検索(セコンドサーチ)を使う余地すら全く与えなかった。


散弾(リーユーホーレイラ)


「な、隙間なく光の弾が……うわあああああ!」


大弾スーレット・ブーレット

 

「巨大な光の塊が、ぬおおおおお……!」


 殺意の篭った連続攻撃。勿論全部を防ぎきれるわけも無く、全員がどこかかしら負傷済み。

 二告退却地点のカーネ村は依然遠い。その上、限界が目前に迫りみるみる走る速度が落ちていく。

 

「も、もうダメ……」


「レスノテク?」


「せ、拙者も限界であります」


「宗継くん!?」


 とうとう走るどころか歩けなくなる者まで現れ、退却の脚が止まった。

 必死の激励も効果なし。ここにきて俺達は窮地に追い込まれた。 


命の終焉(エラマ・ケプト)


 弱り目に祟り目。先に逃げていた4人にトドメの一撃が降りかかる。


「もはや、これまでにござるか……」


「無念。切腹して果てる所存にて候」


 絶望の4人。季遠に至っては観念したのか、胡坐をかき刀を抜いて切腹の用意を始めた。


「やめて! やめてえええええ!」


(間に合え。間に合ってくれ……!)


 冗談じゃない、こんなところで犬死してたまるか。

 俺達は何のために再び王国を訪れたんだ? 蝦夷地を、故郷を豊かにするためだろうが! ここで死ぬわけにはいかないんだよ……!


 諦めの悪い俺は、両手の刀に力を込めて4人の元へ一心に駆けていった。 


「斬……葬!」


 一か八か、電気を帯びた巨大な黒い球を空中で切り刻みに行く。

 一歩間違えば俺が死にかねない特攻。だが皆を救う為、恐怖を押し殺し立ち向かった。

 

(やったか……!?)


 後ろを振り返ってみる。すると「ドガン!」という轟音と共に、魔法の黒い球は空中爆発を起こし消滅した。


「うわああああああ……!」


「きゃああああああああ……!」


 ただ爆風も物凄く、他の5人も周囲の木々もろとも方々に吹き飛ばされていく。

 

「み、皆っ!」

 

 ホッと息つく間もなく、俺は散り散りになった皆の元へ駆け寄る。


「だ、大丈夫ですか?」


「少し負傷したが、これしき何ともないでござる」


 爆風で全員怪我を負ったが、幸いどれも軽傷。少し経てば歩けるぐらいに軽く済んでよかった。


 今度は森の奥に視線を向けてみる。どうやら攻撃魔法のラッシュが止んだらしく、ようやく瞬間兵力検索(セコンドサーチ)を使用することが出来た。

 すると――


「……! これは……」


 半径15㎞圏内の敵性反応はただ1人。俺達から遠ざかるように、北方の山へと退却していく。

 元凶はコイツか! きっと難民キャンプを襲撃したのも同一人物だろう。通りかかった俺達を予告なく攻撃した件と言い、何て奴なんだ。


「……もう攻撃される心配はなくなったみたいです」


「そうか、一安心にござるな」


「死ぬかと思ったわ……」


「吉兆にて候」


 俺の報告に安堵の表情の季貞とレスノテク。季遠も切腹する必要が無くなって何よりだった。


「は~、怖かったよ~……」


「リシヌンテ、無事だったか?」


「う、うんっ。それより宗継の怪我のほうが心配だよ~」

 

 リシヌンテと共に一番重傷の宗継の元に近寄る。


「うっ……ぐっ……」


 爆風の影響か、傷がさっきよりも深くなっている。宗継、俺とリシヌンテが治療するからあとちょっとだけ辛抱しろよ。


治療(ハイルング)


「っ……」


 回復魔法の効能で、少しだけ傷の状態が良くなり血が止まる。だが完治する為にはハーコン達に治療してもらうしかない。

 そこで全員が歩けるまで回復するのを待ち、「治療(ハイルング)」を騙し騙し使いながらカーネ村を目指した。



 ◆◆◆◆◆



 それから一刻(約2時間)後。カーネ村に到着した俺達は、治療を受けながらハーコン達に事の顛末を伝えた。その結果、明日は付近の軍拠点に出撃要請をしつつ、部隊全員で森の中を再捜索することに。

 護衛部隊は総勢700人。新興の山賊なら単独でも討伐は可能だが、ディンケラ山賊団並みの大規模集団を相手取ることは出来ない。


 現時点で確認できた敵はただ1人。だが、テント内の書置きから集団であることは間違いない。


「ところで……エイヴィンはどこ行ったんだ?」


「姿が無いでござるな」


 一方、ハーコンの命令で村に留まっていたはずのエイヴィンが見当たらなかった。

 まさか、命令違反を犯して村の外で捜索活動しているんじゃ……。いや、小物のエイヴィンがそんなことをするのか?


「ウルリヒ卿なら、ミュルダール卿の実家にいるが」


「ラウラちゃんの家に? なんで?」


「なんでも、ミュルダール卿の家だけは是が非でも守り抜きたいそうだ。今も完全武装で犯人を待っているかもしれんな」


 らしくないことしちゃって。無理して徹夜続きにならないか心配だ。


「気持ちは察するが不破卿、これはウルリヒ卿なりの意地なのだ。同じ男同士、その意地を認めて応援するのが筋というものだ」


「……」


 しゃあない、ここはハーコンの指示に従って見守ってやるとするか。思いを寄せるラウラの為なら、小物のエイヴィンもそれなりに踏ん張ってくれるだろう。


「而して、目的の魔導師発見し候か?」


「いや、まだ報告はない。ただ、それらしき家を部下が発見した」


「誠にて候か?」


「特に荒らされた形跡は無く、古代魔法に関する本や魔法薬の研究道具があったそうだ。場所は東の山の中腹」


 肝心の住人はいなかったってわけか。でも荒らされた形跡がないと言うことは、外出中に犯人に遭遇したのかもしれない。


「何にせよ油断は禁物。総員、明日は最大限注意を払って行軍せよ」


「おおおお!」


 夜も更け、睡眠時間に入った俺達。

 だがラウラ達が心配なあまり、寝ては起き、寝ては起きる繰り返し。結局疲れが残るまま朝を迎えることになった。

 


 ◆◆◆◆◆



 翌日昼頃。重傷の宗継を村に留まる兵に預け、俺達は再び血生臭い難民キャンプを訪れた。

 昨日に比べ腐臭も強まる環境下、遺体の実況検分を行うハーコン達。その結果「断定は出来ないが、カーネ村以外の住民も混じっている」という判断に至った。

 

 根拠は、数人の遺体の耳にある特徴的な星形のピアス。

 ハーコン曰く「これを身に付けるのは、カル地方北方に隣接するスタール地方南部の住人」とのこと。カーネ村では一般的でないらしい。

 あの書置きの内容は本当だったってことか……。


「村の住民が全滅したわけじゃないのよね?」


「ああそうだ。仮に遺体が全てカーネ村の住民だとしても村の全人口には届かない。まだ希望はある」


 とは言え、殺された住民の絶望ぶりは想像に難くない。何故犯人は罪無き村人を虐殺したのだろうか?

 被害者の中にはドワーフ族やホビット族などもいることから、第4師団のような「人間だから憎い」という理屈は当てはまらない。「他の種族が全て憎い」なら話は別なんだが……。

 

「種族間闘争と言うよりかは無差別殺人と見るべきだろう。手あたり次第虐殺して回っている印象だ」


「とすれば、他の民が危のうござる。直ちに探し出すべきにござらんか?」


「そうだな……」


 実況検分も終わり、捜索活動を再開させようとする俺達。そこに1人の偵察兵が現れた。


「隊長! ミュルダール中尉と思しき人物を発見しました!」


「何だと? それは何処だ?」


「北方10㎞先の山小屋です」


「わかった、すぐに向かう」


 割と近い場所にいるな。待ってろよラウラちゃん、すぐに助け出してやるからな。

 でもなんなんだ、この胸騒ぎする感じは……?


「総員、進軍だ!」


「了解!」


 悪い予感がする中、俺達は北へ歩を進めることにした。 

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