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119 農地開発 その3 消去法

 歩くこと3日。滞在先での豪華な宴を挟みつつ、俺達はカル地方山間部の玄関口の村に到着した。

 ヴェーテ村から北に3里(約12㎞)。2つの村は山を挟んだ位置関係にあった。


「此処も田畑が広がったいるでござるな」


「深い谷間での農耕も絶景でありますな」


 そしてこの村も、川沿いの狭い土地を利用した畑が続いてた。

 そんな風景を臨む俺達。しかし問題が1つ。


「さて、カル地方に着いたは良いが、魔導師は何処で暮らしていることやら」


「え、住所とか知らないんですか?」


「知っていれば、名前も即座に判明するのではありませんかな?」


「え、まあ……」


「反論の余地無きにて候」


 つまり、エイヴィンもハーコンもざっくりした情報しか持ってなかったのか。

 「カル地方の山間部に住んでいる」、それしか知らなかったなんて……。こうなると、その情報すら本当なのか疑わしい。

 

「仕方ない、この辺りの全集落で聞き込みするしかないわね」


「え~? そんな~……」


「骨の折れる仕事でありますな……」


 レスノテクの提案に嫌々な表情を見せる一同。勿論、提案者本人も表情は固い。


「されど、最後に姿を現したのは50年も昔の事。この聞き込みに意義があるとは思えぬが……」


「あたしだって、これで有力な情報を得られるなんて思ってないわ。むしろ得られなかった(・・・・・・・)という結果が重要なのよ」


「む? 何故に左様な事を申すのか?」


 レスノテクの返答に混乱の極みの季貞。しかし宗継やリシヌンテは得心したように彼女の意図を汲み取った。


「なるほど。情報を得られなかった、即ちその地に魔導師はいなかったということでありますな?」


「そうやって、ドンドン探す範囲を狭めていくってことだね~」


「そうよ。そして結果的に最後に残った場所に目的の人物がいるってわけよ」


「上手く考え抜かれた策にて候」


 詰まる所、大規模な消去法による探索か。非常に手間と時間が掛かる方法だが、現状そうするしかなさそうだ。


「総員! 付近の村で聞き込みを開始せよ! もし居場所の特定に繋がる情報があれば直ちに報告だ!」


「了解!」


 ハーコンの指示で護衛部隊の兵も一斉に動き出す。だが上官の命令だから動いているという人も多く、季貞達同様、渋々な表情の兵も多い。


「しかしながら、そもそも万が一カル地方にいなかった場合、この方法は徒労に終わるのですがな……」


 そんな中、エイヴィンは意味深な発言を残して村の中に入っていった。

  


 ◆◆◆◆◆



 それから1週間後。やはりと言うべきか、有力情報は1つも見つからなかった。

 地元民も、クヌーテボリで2人が語った以上の知識は持ち合わせていないらしい。

 俺としては嬉しい誤算も期待していたが、望むべくも無かった。


「残るは北東部のカーネ村だけとなりましたな」


「まさかここまで見つからないとはな」


「もうヘトヘトだよ~……」


 目立った成果が得られず、疲労困憊の俺達。

 そこで、これまでの疲れを癒し明日に向けて英気を養う為、カル地方北東部のとある村で宴に参加していた。企画者は勿論ハーコン。


「さあれ! 飲んで歌うのだ! 最後に美しい女性を抱いてフィニッシュだ!」


「ういぃ~、酒が足りぬぞ酒が! 某が全て飲み干してくれようぞ!」


 数人の女性とダンスに興じるハーコンと、ワインを樽ごと飲み尽す勢いの季貞。これまでの苦労を忘れようと普段以上に享楽に走る。


「宴ばっかり盛り上がってもな。肝心の任務を果たせないんじゃ税金の無駄な気もするんだが……」


「心配ご無用。宴の費用はすべてユングリング中佐の私費ですから」


「何と!? この10日間宴続きだったので、国費を投じているものだとばかり思っていたでありますが」


「侮れなき者にて候」


 驚愕の事実が判明。さすがに国税を使うのは憚られたのか、

 でもハーコンの家の財産は大丈夫なのか? まさか領民を搾取した金で遊んでいるんじゃないだろうな?


「一体、どこからそんなお金が出てくるのよ? 自分の所の民を虐げていたら承知しないわよ」


「お~! そうだぞ~!」


「やれやれ、一から事情を説明しなければなりませんかね。いい加減僕も休みたいのですが」


 鼻にかけるような言い方をしながら眼鏡を直すエイヴィン。そしてハーコンの意外な凄さが明かされる。


「ユングリング中佐は、王国中部を治めるユングリング公爵家の次期当主。このユングリング家というのも大変高名な家柄でしてな」


「如何なる趣旨にて候か?」


「元々公爵家はユングリング公国という、ミュルクヴィズラント王国とは別の国を持っていました。それが今から30年程前、中佐の父、ルードヴィク・エルランド・ユングリングと若かりし頃のヨアキム1世陛下が話し合い、公国は王国に併合。その結果、我が国の力は一気に高まりました」


「反対は無かったでありますか?」


「それが大きな反対運動も無く、国民の大半が併合を支持したそうです。その功もあり、今でも王国領の3割強がユングリング家の土地。肥沃な土地と豊富な鉱産資源も相まって、王族に次ぐ経済力を保持しているのですな」


「な、なるほどね……」


 得意げに語られたその内容に、一同一斉に押し黙る。同時に何も知らない季貞と遊興に耽る美形の青年が遠い存在に感じられた。


 前回の使節団でミュルクヴィズラント王国の面積を計算したことがある。

 その時の総面積は約110万平方キロメートル。その3割強と言うことは、ユングリング家の領地は少なくとも約33万平方キロメートル。

 21世紀の日本の面積が約38万平方キロメートルだから……天下統一を果たして、やっと並び立てるレベルか。


 世が世ならハーコンは「次期国主」だったわけか。本人はそんな人物には見えないが。


「お嬢さん、一緒に朝まで楽しまないかい? 君となら素敵な一時が過ごせそうだ」


「ハーコン様……」


 俺達の様子に気づくことなく女性を口説くハーコン。季貞もそれに乗っかる。


「どうだ? お前も某と共に愉しまぬか?」


「いえ、お断りします」


「ふむ、残念にござる……」


 しかし、にべも無く断られ酒をかっくらう季貞。

 一方のハーコンは両手に花とばかりに、彼に見せつける。


「見ろ厚谷卿! 我が力で虜にした女性達を! 羨ましいだろう?」


「負けん、負けぬぞハーコン。某とて本領を発揮すれば……」


 変なところで闘志を燃やす季貞。そのエネルギーを内政や戦に注いでほしいものだ。


「一瞬尊敬できる人物に見えましたが、やはり勘違いでありましたかな?」


「うん、あたしもそう思う」


「同感にて候」


「慶広の方が100倍領主らしいな」


 そんな2人を俺達は呆れた視線で見つめる。


「ね~ね~皆。ボク達ももっと遊ぼ~よ~」


 リシヌンテは1人俺達を遊びに招くが、連日の仕事と宴で体力の限界が近づいていた。


「そろそろ遊び疲れたであります」


「寝床に参り候」


「おやすみ、リシヌンテ」


「む~」


 不満げの表情のリシヌンテであったが、俺達はそそくさと滞在先の宿に戻っていった。

 そしてまだ外で宴が続く中、深い眠りへと入っていったのだった。

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