10 作戦会議
翌日。
蠣崎軍の陣中では、勝山館奪還のための軍議が行われていた。
そこには、本来家督を嗣げる可能性が低く、「家臣の五男坊」という重要視されない立場のはずの俺も出席していた。
「皆の衆、作戦会議を始める」
昨日の活躍が功を奏した結果なんだろう、きっと。
にしても、蠣崎家って結構武将がいるものだな。某歴史シミュレーションゲームだと、家臣が殆どいないイメージが定着しているけど。
「さて、勝山館の攻略についてなんだが、意見のあるものは進言せよ」
最初に進言したのは、猛将として名高い長門広益であった。
「攻略には、高所の利を活かしたほうが宜しいでしょう。勝山館は夷王山の中腹にあります。山頂さえ奪取出来れば此方が優勢となります。ここは某にお任せを!」
夷王山とは、現・上ノ国町にある標高159メートルの山である。
そして勝山館は、夷王山の東の中腹に存在している。
俺達は海岸線伝いに南から進軍し、現在は勝山館の西に陣取っている。だから、直接勝山館を狙うよりは近道になる。
しかし――
「長門殿。名案だとは思うが、蝦夷は強力な“武器”を持っているのだぞ」
「むっ、越中守殿……」
そう反論したのは、忠臣として有名な南条守継。越中守とは彼の官職である。
「蝦夷の軍勢は弓兵主体だ。下手に山頂を目指すだけならば、たちまち矢嵐の餌食になる」
そうだ。実際、昨日は矢でやられたんだ。
しかも、アイヌの矢はタダの矢じゃない。先端に“毒”が塗られている、強力なヤツだ。一度当たれば、毒が回って犠牲が増える。
「ならば、どうすれば良かろうものなのか! 越中守殿!」
「それは……」
「“陽動”、これこそが良き作戦に御座りましょう」
「兵部少輔殿?」
兵部少輔とは、父・武治の官職である。
「先んず、一方が城下町から館を攻め、兵が寄ったところを手薄になった山頂を獲る。そして山頂からも館を挟撃する。これが某の作戦にございます」
一方がおびき寄せ、もう一方が全力で受け止め、最後に挟みかかる。作戦としては良い線いっているのかも。
とは言え、アイヌの軍勢はいまだその多くが健在。昨日の後半、一方的な勝利をおさめはしたが、おそらくあれは主力じゃないだろう。
俺の見立てでは、少なくともまだ4500人以上は温存されているはずだ。
しかも蠣崎軍で現在戦力になるのはせいぜい750騎。分散したら、こちらも手薄になるんじゃないのか?
「その作戦は危険が大き過ぎやしないか?」
「それは重々承知しておりまする。そこで某は、陽動部隊を越中守殿に、山頂部隊を長門殿と、そして某の倅の五郎にあてるのがよろしいかと」
「なっ?」
いやいやお父上、いきなり俺にそんな大役やらせるなよ。俺はこれが初陣なんだぜ? 戦場経験の薄い俺にやらせるって、どゆこと?
「あ、あのー……」
「納得がいかぬ!」
ここで広益が、年端もいかない俺と同等に扱われたのが気にくわず、憤慨して立ち上がったようだ。
「なぜ某が、この若造と行動せねばならんのだ!?」
「両人とも武勇に優れたる者。某は適任と考えたまで」
「こんな若輩者ごときと……」
いやいや、確かにチート能力のお陰で腕に自信はありますよ? でも、指揮能力とかマジで皆無なんすけど。
ヤバい。広益のゴツい顔が、俺を睨みつけている。
ちょっと俺の立場を考えてくれよ……。こんなオッサンに恨まれるとか、マジでイヤなんですけど。
するとここで、季広さんが仲裁に入った。
「双方とも止められよ」
「お、お館様……」
「話はわかった。ここは越中守と五郎を陽動部隊に、山頂部隊を広益にやらせるとしよう」
「さすがお館様! 某のことを良く理解しておられる!」
季広さん、ナイス! このままいったら、オッサンにどこまで小言や陰口叩かれて、嫌な思いするのは必定だったからな。
広益も手を叩いて喜んだ。自分が高く評価されたことが嬉しいんだろう。
ある意味、単純と言えば単純なお方なのだろう。
「さて、作戦開始は明日だ。皆の衆、用意を怠るな! 以上!」
そして武将たちは各々自らの持ち場に戻り、勝山館攻略の準備を始めたのであった。
一般に、南条守継は「南条広継」の名のほうが有名ですが、話の展開上こちらの名前で通します。




