1 プロローグ
プロローグはやや鬱展開です。
とりあえず挨拶から。
どうも不破武親です。
戦国武将みたいな名前をしてますが、れっきとした現代日本に住む高校3年生です。
っと、堅苦しい感じはここまでにして、親と言うのは自分の子供に希望を込めて名前をつけるものだ。
親は両方とも戦国武将好きだったから、なるべくそれっぽい名前をつけた結果が「武親」だ。
だが、人の人生とは名前の通りにはいかないのが世の常。実際、俺の人生も「武親」という立派な人名からは程遠い。
まず「武力」の「武」。
残念ながら俺には、喧嘩したりスポーツで活躍したりするような身体能力は皆無。
もともといじめられっ子だった俺は、おかげで同じ学校の人間だけでなく、他校の生徒にも日常的に当たり前のように集団リンチされる。金も奪われる。
ついに堪忍袋の緒が切れて警察に通報したら、仕返しに家に放火された。
消防士の活躍むなしく、見事に全焼。
俺はなんとか脱出できたけど、両親は一酸化炭素中毒で死亡。
放火犯はとっつかまったからいい気味だったけど、そこからの暮らしは大変だった。
そして「親睦」の「親」。
俺は積極的にみんなと仲良くなろうと思って、学校では明るく社交的にクラスの話題に乗りかかってきたにも関わらず、まず人間扱いしてもらえず、クラスで村八分。
リンチに関わらない生徒もことごとく俺の陰口ばかり叩く。
近所にも迷惑行為を一切行ってないはずなのに、近所からお門違いな罵声ばかり飛んでくる。
「出る杭は打たれる」という諺に倣って、あまりでしゃばらないように参入したはずなのに、一体なんなんだよ。そんなに俺のどこが嫌だって言うんだ。
一週間前には脅迫状が届くし、もうこの社会には居られねえ。
そんな中での、いきなりの1人暮らしは苦労の連続。
アルバイトはしなければならない、慣れない家事はしなければならない。何より醜い人間ばかりが跋扈する社会に足を踏み入れなければならない。
最後のやつは本当に辛かったよ。環境のせいで、強制的に社会不適合者にさせられた俺にとって一番の苦痛だった。
忙し過ぎて大好きなゲームや漫画、アニメなど、殆ど触れることが出来なかったし。
両親は俺に一縷の望みを託していたに違いない。両親もまた親戚じゅうに嫌われ、絶縁されたからだ。
だけど、良い名前をつけてくれた両親の期待にも全く応えられず、俺は仏壇に手を合わせながら、毎日常に後悔と己の不甲斐なさに涙した。
はぁ、誰でも良いから、こんな俺を助けてくれ……。
◆◆◆◆◆
気がつけば、俺は立ち入り禁止になっている学校の屋上にいた。
俺は自殺したくてたまらなかったが、イマイチ屋上から飛び降りる勇気が持てなかった。
だが自殺という行為を止めようとはせず、何回も何回も、死ぬ直前の妙に清々しい空気をふんだんに吸い込みながら、この世を去る決心を固めている。
(……お父さん、お母さん、すみません。俺、もうすぐそちらへ向かいます。もし会ったら、昔のように楽しい話にでも花を咲かせましょう……)
そして俺は手すりに乗っかり、ついに飛び降りた。
学校を死に場所に定めたのは、今まで散々俺を虐げてきた連中に、これまで奴らが行ってきた数々の愚行を死を持って訴えるためだった。
時刻は午前8時40分。朝礼で全校生徒が整列している時間だから、ちょうどよい。
さすがに俺が文字通り死ねば、奴らの顔も慌てふためくに違いない。
普通なら恐怖に苛まれるはずの瞬間を、俺は不気味な笑顔で迎えた。一方、眼下の生徒たちは、そんな俺の様子を見てざわつく者もいれば、絶叫しだす者もいる。
死ぬ間際でいい眺めだな、ホントに。
そのまま頭を真下にグチャッと、聞くものにとって嫌な音を立てて地面に激突し、俺は18年の人生の幕を自らの手で下ろした。
◆◆◆◆◆
―――だが、名前の通りにいかないのが人生ならば、自分の思った通りにいかないのも、また人生だ。
根拠は、死んだはずなのに、俺には依然として意識があったからだ。
いつもと違う点があるとすれば2点。それは俺の体が言うことを聞かないことと、目がよく見えないということ―――