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 俺達が少年を拾ってから、いつも俺達は三人一緒に行動していた。俺はこの二人と一緒にいるだけで良かった。

 例え、母親が俺のことを見てくれなくても、父親が俺のことを我が子だと思わなくても、彼とあの少年だけがいれば良かった。

 だけど、その願いは叶うことはなかった。

 俺があの少年と出会ってから一年が経った時、あの男は突然やってきた。

 どうして、滅多に来ることがなかったあの男が来る気になったのか分からなかった。どうせ、気まぐれで来たのだろうとさえ思っていた。

 あの男がどういう理由で来ようと構わなかった。だが、あの男があの少年に目を付けてしまったのが問題だった。

 男は少年に言った。

『俺の元に来い』と。

 だが、少年は断った。すると、男の表情はがらりと変わり、護衛に命令し、俺の屋敷の使用人達を殺していった。

 男は言った。

『お前が頷くまで殺していく』と。

 その時の男の行動は狂気の沙汰としか言いようがなかった。同じ人間である彼らを躊躇いなく、殺していけるのか、分からなかった。

 俺はそんな光景を見てられなくて、もう止めてくれるように懇願した。俺はこんな光景を見て入られなかった。

 だが、男は俺の言うことを聞いてくれなかった。それだけでなく、男は俺を殺そうとした。

 いつか、この男は俺、俺達を見てくれると信じていた。あまり会ったことがなくても、時間が短くても、そこには切っても切れない絆があると信じていた。

 なのに、この男は俺を殺そうとしていた。使用人たちのように、躊躇いもなく………。

 その時、少年はとても辛そうな顔をして、俺を殺さないのなら、貴方の元にいくと言った。

 その日、俺は大切な人を奪われ、信じていたものを壊された。


***

 俺は青い鳥のお弁当を作りに食堂へ行き、その足で、黒龍さんとの訓練と紅蓮さんの講義を終わらした後、俺は青い鳥に言われた通り、自分の部屋で待っていると、ドアをノックする音が聴こえた。どうやら、青い鳥がやってきたようである。俺はドアを開けると、そこには青い鳥の姿はいなかった。その代わり、翡翠の騎士が俺の部屋の前にいた。

「………翡翠の騎士、俺に何の用ですか?」

 俺はそう尋ねることしかできなかった。彼がここを訪ねる理由が思いつかない。

「青い鳥に頼まれて、迎えに来ただけだ」

 彼は簡潔にそう答える。どうやら、青い鳥が彼に頼んだらしいが、肝心の青い鳥がいないのはどう言うことだろうか?もしかして、青い鳥は目的地にいるというのだろうか?

「青い鳥は今回、席を外している。準備が出来ているなら、ついて来い。案内する」

 彼はそんなことを言って、スタスタと歩いていく。彼が何処へ連れて行こうとしているのか分からないが、今は彼の後についていくしかない。俺は急いで、彼の後を追うと、

「………お前は俺の妹に会ったことがあるか?」

 彼は突然そんなことを尋ねてくる。彼は王の側近である宮廷騎士であると同時に、エイル三世陛下でもある。なら、彼の妹と言えば、“深淵の姫”でもあるイヴァラント姫のことを言っているのは分かる。

 昨日、偶然的にも、俺は彼女と会ってしまった。だが、黒龍さんに口止めされている。そのことを言っても、彼が黒龍さんに告げ口するようには見えないが、それでも万が一と言うことがある。言っていいものか、と俺が悩んでいると、

「………どうやら、あいつはお前と会ったようだな。お前は訓練場であいつと会ったことが偶然だと思っているかもしれないが、お前が訓練場にいると教えたのは俺だ」

 彼はサラっとそんなことを言ってくる。それには驚くしかなかった。彼なら、俺が黒龍さんと訓練をしている時間帯や場所を知ることは可能だし、彼女にそれを伝えることもできる。俺はてっきり、黒龍さんが彼女にそのことを話したとばかり思っていた。

「あの男はお前があいつをに会うことを快く思っていない。お前とあいつが会ってしまえば、あの男のプランが崩れてしまう恐れがあると思ったからだろう」

 だから、あの男はお前のことを日常的範囲でしか話していないはずだ、と彼は言う。

 俺と姫が会うことによって、彼の計画、おそらく、城のシステムに関わることだと思うが、それが崩れることになるのだろうか?

「なら、貴方はそんなことしても良かったのですか?」

 黒龍さんがそのことをしたと知れば、何をしでかすか分からない。最悪の場合、殺されるということだってあるかもしれない。

「あの男からの信頼は無くなると思うが、それでも、俺を口封じの為に殺すことはできない。俺の死はすなわち、あの男の作り上げたシステムに致命的打撃を与えるからな。もしお前達がシステム破壊に失敗した場合、俺の命を盾にするといい。そうすれば、青い鳥の命は助かるかもしれない」

 彼はそんなことを言ってくるが、青い鳥はそれを望まないだろう。それは彼も承知のことだろう。だから、このことを青い鳥ではなくて、俺に話した。

 俺もそうしたくない。だが、最悪の場合に陥ってしまった場合、俺は翡翠の騎士より、青い鳥の命を選ぶことだろう。その後、青い鳥に非難されても、罵倒されても、甘んじて受けることになるだろう。俺は青い鳥に死んで欲しくない。自分で認めたくはないが、何だかんだ言いながら、俺が青い鳥のことを必要としているのだから………。

「あの男はあいつの為なら、どんなことだってする。あの男が先代の王、つまり、俺達の父親のことだが、奴に仕えたのも、あいつの為だ。そして、教会側と通じて、先代の王を暗殺したのもそうだ。あいつのためなら、あの男は喜んで、悪魔でも何だろうと命を売ることだろう」

 あの男はあいつを第一と考えて、行動している、と彼は言う。俺はそれを聞いて、疑問が浮かぶ。黒龍さんが忠誠を誓っているのは王、つまり、エイル三世陛下の仮面をかぶって、この国を動かしている人物であって、イヴァラント姫ではないはずだ。

「俺とあいつとあの男は二年間だけだが、一緒に暮らしたことがある。あの時は楽しかった。あいつはいつも屈託のない笑顔を見せていたし、あの男もあそこまで非道なことをする奴ではなかった。出来ることなら、あの時に戻りたいと思う」

 それができれば、決して、あんなことを起こさせはしなかった、と彼は怒りが籠った声で言う。

「………あいつは父親に殺されかけたことがある」

「え?」

 俺は彼の告白を聞いて、俺はぜ絶句するしかなかった。

「奴には俺達以外に10人の息子と8人の娘がいた。だが、奴にとって、娘、息子達なんて、幾らでも替えが利く。だから、あいつ一人いなくなっても、困ることはなかったのだろう。まあ、その前に、俺達は他の子供とは違って、母親が貴族出でなく、庶子と言うことも理由の一つだったかもしれない」

 その為か、俺達は城ではなく、町はずれの屋敷に住まわされていた、と彼は言う。

 もしその話が本当なら、エイル三世陛下、つまり、彼が5年前にやってきたと言うことも納得できる。だが、それと同時に、どうして、5年前、彼を城に上げたのだろうか?

 彼は俺の言いたいことが分かったのか、苦笑いを浮かべ、

「………俺、いや、エイル三世陛下、そして、あいつが城にいることが不思議みたいだな。簡単な話だ。あの男、黒龍が口添えしたからだ。俺やあいつは切り捨てても、痛くも痒くもないが、あの男を切り捨てるわけにはいかなかった。だから、奴はあの男の言うことは聞くしか手がなかった。まあ、奴はあの男を手に入れる為に、あいつを殺そうとしたのだしな」

 それを聞いて、彼らが味わっただろう想像に絶する過去を垣間見たような気がした。

「どちらにしろ、深い傷を負ったあいつを癒すことは俺にはできない。堕ちていくあいつと一緒に堕ちてやることしかできなかった。それが間違っているとは知っていた。俺、いや、俺達にはそうするしか道がなかった。だが、お前や青い鳥を見ていると、お前らなら、何とかしてくれるのかもしれないと思ってしまった」

 人任せにするなんて、兄失格なのは分かっている、と彼はそう言って、中庭を抜け、とある建物の前に立ち止まる。

「お前を酷い目に遭わせようとしているのに、こんなことを頼むは筋違いだとは分かっている」

 彼はそう言って、その建物に入っていくと、侍女たちや使用人達は誰もいなかった。俺がキョロキョロと見回していると、

「………俺が侍女達を下がらせたし、あの男は青い鳥が足止めしてくれているはずだ。しばらくの間はここには来ないだろう」

 俺は彼の言葉を聞いて、目を見開く。青い鳥が黒龍さんの足止めをしている?そんなことをして、あいつは大丈夫なのだろうか?

「とは言え、青い鳥がどこまで足止めしていられるか、保証はできない。なるべく、早く済ませてくれ」

 彼はそう言って、奥の部屋の前で止まり、俺に入るよう促してくる。俺は彼を見る。彼がどうして、ここまで連れて来たのか分からない。だが、一つ言えることはここに俺が求めていた答えがあると言うことだ。

 俺はノックすると、

「………黒龍?遅かったじゃない」

 昨日、この部屋から聞いた男の声ではなく、聞き覚えのある女性の声が聴こえて来た。これはどう言うことだろうか?俺は戸惑いの表情を見せていると、翡翠の騎士が扉を開いて、中へと入っていく。

「………兄さん?貴方がここに来るなんて珍しいわね」

 部屋の主は彼に刺々しく言ってくる。

「たまには、お前に顔を見せておかないと、忘れ去られてしまうかもしれないからな。それよりも、今日はお前に会わせたい奴を連れて来た。きっと、お前も気にいるはずだ」

 入って来い、と彼がそう言ってくるので、俺は促されるまま、入っていくと、その部屋にいるはずの王はいなかった。

「………どうして」

 彼女は眼を見開いて、俺の姿を見ていた。

 俺は彼女の姿を見て、疑問が氷解した。流石の鈍感な俺でも、これを見させれば、嫌でも納得する。

 俺の目の前に昨日会った姫がいる。ここは王宮であり、王以外入ることは許されない場所………。

 そんな場所に、王がいなくて、姫がいる。それが意味することは………、

「一日ぶりですね、姫。それともこう言った方がいいでしょうか?」

 エイル三世陛下、と。

ギリあけましておめでとうございます。

前の日曜日投稿できなかったので、今日、投稿させていただきました。

今年の三月まで忙しいので、この物語を完結して、三月まで休載させていただきます。

ご理解の程よろしくお願いします。

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