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『私は青い鳥と申します。以後、お見知り置きを』

 青髪の少女がそう言ってくる。

 俺の手元に置いておくため、黒犬を宮廷魔法使いの推薦をしたら、何故か、この少女まで付いてきた。

 黒犬の師匠である赤犬が弟子を宮廷魔法使いにする為の条件として挙げたのがこの少女を宮廷騎士にすることだった。

 俺は黒犬を独占したかった。だから、黒犬が慕うあの少女は邪魔者でしかなかった。その為、宮廷騎士の試験だけ受けさせて、不合格にするつもりだった。

 だが、この少女は試験を合格して、目の前にいる。黒龍がいろいろな策を講じていたと言うのに、まだこの城にいる。

 この少女がいる限り、黒犬は俺のモノにならない。しかも、それだけでなく、黒犬が俺の元から離れていくような気がしてならなかった。

 どうしたら、あの少女を目の前から排除できる?

 どうしたら、黒犬は俺の方に向いてくれる?


***

 紅蓮さんによるスパルタ講義は夕日が沈み、幾多の星や月が姿を現した頃に終わりを告げた。その頃には黒龍さんの訓練とは別の意味で、俺の体力は激しく減っていた。

 一人、食堂に向かうと、当然の如く、数人くらいしか姿は見当たらなかった。見知った人はいたが、俺は青い鳥と違って、誰とでも仲良くなるといった芸当を持ち合わせていないので、城の中では親しい友人と言える友人はいない。

 それは巷で、俺が黒龍さんのお気に入りと言われているのが主な原因だろうと思うが………。

 いつも思うことだが、俺は誰かの特別になりたいと思っていない。だが、俺も人の子なので、人の温もりを求めることはする。一人でいることは思っていた他、寂しいものだと、宮廷魔法使いになって、思い知った。

 それを思うと、青い鳥のことを思う。あいつは一人でいることが寂しくて、虚しいものだと知っているから、人の中に入りたいと思うのかもしれない。

 実は、あいつは人に幸せを運んで、その見返りに人のぬくもりを貰おうとしているのではないだろうか。

 あいつがそこまで考えるほど思慮深い人間だったら、俺が苦労することはないとは思うが………。そんなことを思っていると、

「………黒犬」

 と、突然、声を掛けられた。反射的に振り返ると、宮廷騎士の証でもある赤と白を基調としためでたい軍服を着て、顔の大部分を隠す青年がいた。彼は王の側近として仕え、宮廷騎士の中では勿論トップだが、国随一の剣士でもある。通称・翡翠の騎士と言われているが、それは表向きのものであることが最近知った。

 その正体はエイル三世陛下自身である。本人曰く、形式だけのものらしく、実質上の王は彼ではなく、違う人物らしい。青い鳥はその人物が誰なのか知っているようだが、明かすことはなかったし、彼もそこまでは教えてくれなかった。

 口ぶりからすると、彼にとって大切な人であることは確かである。

「この時間帯で貴方と会うのは珍しいですね」

 俺はそう返す。宮廷騎士である彼と宮廷魔法使いである俺は生活サイクルが違うので、朝会うことがあっても、夜、しかも、この時間帯で会うことは滅多にない。

「そうだな。それより、青い鳥を見なかったか?」

「……青い鳥、ですか?朝以外会っていませんが、あいつ、また何かしでかしたんですか?」

 青い鳥とは弁当を催促しに来た以来会っていない。とは言え、あいつと一日も会わない日も結構あるので、別に珍しくはないが……。

 仮面の所為で彼の表情をみることはできないが、それを聞いた途端、険しい様子を浮かべているように見えた。

「そうか。お前の所に行ったのではないとしたら、あいつは何処へ行った?」

 あれほど、城内では自分勝手な行動を慎むように言ったはずだが、と悪態をついていた。

 武道大会以降、俺達と彼の関係は良好で、俺達の計画の協力者でもある。それだけでなくとも、俺としては、あいつの奇行の後処理出来る時間がないので、彼がその役をしてくれるのはありがたいことである。

 彼がそこまであいつを気にかけているのは黒龍さんがあいつを消そうとしていることも関係している。彼曰く、黒龍さんは近いうちに、あいつを消すつもりである。もし俺の手札からあいつと言う切り札が消えた場合、その時点で俺達の計画は頓挫する。

「………俺も一緒に探しましょうか?」

 あいつを探しているなら、手分けして探した方がいいと思います、と俺がそう言うと、

「それは助かる。だいたいは探したから、俺は訓練施設をもう一度見に行こうと思う。お前は中庭の方を頼んでもいいか?」

「分かりました。あいつを見つけた時点、連絡します」

「頼む」

 彼はそれだけ言って、食堂から出ていった。いつも冷静な彼があそこまで慌てるのも珍しいことだろう。まあ、それは当たり前かもしれない。なんせ、探している鳥は恐ろしい龍に狙われている。しかも、彼はその龍の恐ろしさを目の当たりにしたことがあるのだから、なおさらだろう。

 今日、黒龍さんがあいつを殺すことはないと思うが、万が一と言うことがある。俺は食べ終わった皿をカウンターに戻し、中庭へと向かうことにした。


 俺が中庭へ向かう途中、何人かとすれ違ったが、ここは夜と昼とでは全然雰囲気が違う。流石に、夜、一人で歩くものではないだろう。あいつを早く見つけて、とっとと寝どころへ帰りたいものである。

 中庭へ出ると、暗くて分からないが、花達がきれいに咲いているはずである。もし、誤って、花達を踏んでしまった日には庭師に怒られることだろう。

 俺は足元を注意して、進んでいくと、かすかに、声が聴こえて来た。これは声と言うよりは歌といった方がいいかもしれない。

 そう、聞き覚えのあるメロディーが俺の耳に届いていく。


むかし、むかし、あるところに、少女がおりました。

むかし、むかし、あるところに、少年がおりました。

少女の傍には少年がおり、少年の傍には少女がおりました。

少女は人々に幸せを運ぶ青い鳥に会いたいと思っていました。

少女は尋ねました。

『どうしたら、私は青い鳥に会うことが出来るのか』、と。

少年は答えました。

『探し続ければ、青い鳥は見つかるよ』、と。

少女はその言葉を信じ、青い鳥を探す旅を始めました。


 俺はその唄に誘われるかのように歩いていく。


南から北へ。東から西へ。

少女は青い鳥を求めました。

でも、青い鳥は見つかりませんでした。

それでも、少女は諦めませんでした。

どんなに悲しくても、どんなに辛くても、少女の傍には少年がいました。

どんなことがあっても、少年は離れませんでした。

どんなことがあっても、少年は見捨てませんでした。

だから、少女はどんなことがあっても、逃げませんでした。

少女は信じていました。

いつか、自分たちの前に青い鳥が現れることを。


 俺達が王に謁見した王宮の中へとはいっていく。普通なら、俺みたいな宮廷魔法使いが許可なしに入っていいようなところではない。

 だが、あの声、あのメロディーが聴こえたのだから、十中八九、あいつはここにいる。

 俺が入ると、侍女は勿論誰一人も姿はなかった。いけないと分かっているが、このまま帰るわけにはいかない。


ある日、少女は少年と喧嘩しました。

二人は別々の道へ行きました。

少女は少年と別れ、森の方へ入って行きました。

少年は少女と別れ、山へ登って行きました。

少女は一人で森を歩いて行きました。


 そのメロディーを頼りに進んでいく。すると、奥の部屋に突き当たった。どうやら、ここにあいつがいるらしい。

 俺がノックしようとした時、恐怖を感じてしまうほどの魔力が溢れ出す。そして、次の瞬間、ドアが吹き飛び、突風が吹き荒れ、俺を襲う。とっさに、俺は歯で指を切り、流れてくる血に魔力を込め、その風を防ぐ。だが、その風の威力が桁違いだった為、俺を守っていたバリアが壊され、俺は吹き飛ばされ、壁に激突する。

「………うっ」

 その衝撃でさきほど食べたご飯達をリバースさせてしまいそうになったが、ここでそんなことをするわけにもいかないので、手を押さえる。

 どうにか吐き気を堪えた時、首元に冷たい何かが触れる。恐る恐る、顔を上げると、案の定、剣が俺の首筋に当てられていた。無許可でここに来たのだから、そうされても、おかしくはない。ただ、剣を持っていた人物が意外だった。

 純白を基調としたフードを着た人物は俺の知っている限りでは一人しかいない。あの風の威力を考慮すると、彼の仕業でほぼ間違ない。だが、彼が剣の心得を持っているとは知らなかった。

 この人は剣と言った武器がなくても、たくさんの人達を地に伏せさせることができるのだから。

「………黒龍さんって、剣も扱えるんですね」

 この場で殺されたくないので、なるべくフレンドリーに接してみようと試みる。

「………流石に、ジェイドや何処ぞの鳥ほどではないが、並みには扱うことはできる。疑うのなら、その腕前を見せてやってもいいが……」

 彼はそう言って、剣の平で俺の首を撫でてくれる。

 それを見た瞬間、俺はこの世界にいない存在になりませんか?

「………まあいい。てめえはどうしてここにいる?」

 答えによってはただではおかないが、と彼はそう言ってくる。

 普通考えても、俺がここにいるのはおかしい。だが………、

「………翡翠の騎士にでも頼まれて、私を探しに来てくれたのだと思います」

 奥の部屋から青眼青髪の少女、俺達が探している“青い鳥”ご本人が現れる。

 俺はあの歌でこいつがここにいることが分かったが、こいつは俺と同等にここにいるのはおかしい存在である。

「たまたま、近くを探していたところ、あの唄が聴こえて、ここに寄ったのだと思います」

 彼は私が詠っているところを聞いたことがあります、とあいつがそう言うと、黒龍さんは舌打ちをし、

「………なら、侍女共を帰すんじゃなかったか。あの野郎の勘が良すぎるのも厄介だな」

 そんなことを呟いてくる。

「翡翠の騎士を敵にしてしまったのが貴方の失策だと私は思います」

「ふん。てめえがそれを言うか?」

 彼はつまらなそうに言う。

「まあ、どちらにしろ、あの野郎のことだ。すぐに飛んで来るだろうな。別に、やましいことしてたわけでもねえから、別に構わねえが………」

 彼は奥の部屋の方を見て、

「………王、どうしますか?」

 いつもの彼なら言わないだろう口調で話し掛ける。

 当然と言えば、当然だ。ここは王宮だ。そして、彼が丁寧口調になる相手と言えば、ここにいる人物はだいたい誰だか分かる。

「………帰せ」

 威厳のある声が聴こえてくる。すると、黒龍さんは剣を首筋から離して、

「………この鳥を連れて、ここから出ろ」

 黒龍さんはそれだけ言うと、奥の部屋へと向かって、歩き出す。途中で、彼と青い鳥の目があったが、何もなかったかのように目を逸らし、バタンと扉を閉める。

 俺はポカンと口を開けて、その部屋を見つめる。

 翡翠の騎士と同じ顔をした彼がその部屋にいることは分かっている。

 翡翠の騎士や黒龍さんがこれほど大切に思っている“彼”は一体何者なのだろうか?

感想、誤字・脱字などがありましたら、お願いします。

次回投稿予定は12月22日となります。

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