続・ヒロインはあなたでしょ!
彼氏いない歴=年齢だった私、氷室真綾。それはひとえに、幼なじみを好いていたことが理由である。
隣に住む幼なじみのあっちゃんは、私と同じ歳の弟を持つ身としてもだが、子供好きで面倒見が良かった。小さい時からあっちゃんの弟のこうちゃんも交えて、よく遊んでもらった。
あっちゃんのことはもちろん、小さい頃から大好きだったけど、恋愛対象として好きになったのは10歳のとき。
母が私に家庭教師をつけると言って、選んだのはあっちゃんだった。あっちゃんはその当時大学生で、高校教師を目指していたため、母の頼みもすんなり受けた。
家庭教師をしてもらってる内に、優しさや夢に向かう姿勢に惹かれていった。
フられた今なら、憧れている面が強かったと思い直す部分が大きいけど、私の中では確かに恋だった。
そして、今隣を歩く彼について思い出す。
思い返すと、瑠衣と友達になってからやたら男の子と喋る機会が減った気がする。男の子と喋りたかったってことでなく、本当に激減したのだ。
高校に入学して、平凡でも垢抜けたらしい私は一応、一年のときには2回ほど告白されたりすることもあったのだ。一年のクラスでは、それなりに男の子と交流を交えたし、休日にこうちゃん含めた男子グループと合同で遊んだりもした。
それが、本当にめっきりなくなった。あれは、もしかして瑠衣が何かしていたのかな…?
それに、奴は私にだけスキンシップが多かった気がする。たおやかな彼女だったが、私には女子高生らしく抱きついたりした。
そういえば、体育の着替えの時、あいつの横で平然と下着姿になってたよね。上半身だけだったけど、なってたよやばい思い出した。恥ずかしさに今なら死ねるかも、いや、耐えるけど。
思い出さない方が良かったかな、なんて思ってたら、現実に無理矢理引き戻される。
実は、今日は初デートを体験していたりします。場所は、近場で人気の遊園地。乗り物の順番待ちをしてる最中、解説混じりに思い出を振り返ってたのですが、横に並ぶ彼にいきなり首を横に向けられた。すごく痛い。
「ちょっと、俺と居るんだから俺のことだけ考えてなよ。」
「瑠衣のことを思い出してたんだよ。」
一応彼について思い出してたし、セーフだよね?そう言うと、一瞬にして不満げに尖った唇が弧を描いた。アーモンド型の瞳が、陽光に反射してキラキラ輝く。
「どんなこと?」
「っえー、あー、うーん、…学校で男子と喋らなくなったのは瑠衣が居たからかな、って。」
躊躇してから、そう答えると彼は益々笑みを濃くした。
「もちろん、だって真綾と2人の時間を邪魔してほしくなかったし。俺は野郎と語り合う趣味は持ち合わせてないから。」
以前の女装姿の彼からは考えられない言葉が返ってくる。本来の彼と付き合うようになって分かったことは、結構毒舌であること。完璧を目指していたのか、いつも笑みを称えた聖女のようで、口ぶりも上品だった。でも、本音は絶対口にしない。そんな感じだったのに対して、今は毒を吐くという形だが、本音を話してくれるようになった。私は、純粋にそれを嬉しいと思う。
「そうそう、瑠衣ってばこうちゃんのことフったんだよね。」
「会長のこと?」
そう、私のもう1人の幼なじみであるこうちゃんこと、檜山宏基。彼もあっちゃんのいる学校を選んで私と共に入学し、瑠衣と同じく一年から生徒会メンバーだった。三年で生徒会長になったこうちゃんも、教師で兄のあっちゃんもとても人気があった。
生徒会メンバーやそこそこ人気のある男子も瑠衣に夢中で、無論、こうちゃんもその1人。結城瑠衣、恐るべし。
こうちゃんとは性格も似てるためか、考えることは一緒だったみたい。卒業にかこつけて私があっちゃんに告白している間、彼も瑠衣に告白していたのだ。フられた報告をその夜、朝まで延々と語られた。あの日の出来事のせいか話半分にしか聞けなかったが。
「俺は真綾しか見てないからね。そもそも、俺もあっちも男だよ。」
苦笑しながらも、またまたこっぱずかしい台詞が瑠衣の口から飛び出す。それまで顔を合わせて話していたが、反対側に背けて、顔に集まる熱を手のひらで仰いだ。そんなことをしても赤面が治まることはなく、耳まで赤くなる私を笑いながら瑠衣は茶化す。
後ろで、ひそひそと小さく喋る女の子たちの声が聞こえた。
「ねぇねぇ、前に並んでる男の人、かっこよくない?」
「だよね、かっこいいっていうか、美しいっていうか…。」
そんな彼女たちの声に、クスリと笑みがこぼれる。以前までは、目が覚めるような美少女だったのにね。隣にいる瑠衣は聞こえているはずなのに、涼しげな表情だ。
毛先がウェーブした長いミルクティー色の髪は、前髪が長めの短髪に。制服のスカートから覗く脚は、ストレートのデニムに隠れて見えない。膨らみのあった胸も、今は普通の男の子と同じ。
大きな茶の瞳も、小さめな鼻も、桜色の唇も、顔は変わっていないのに。姿はまるきり、男の子に変わった瑠衣。
意識を改めた、というのだろうか…。男の子だったのだと、理解する。同時に、もうあの姿は見れないのかと思うと寂しい気がした。
ちらり、とまた横から瑠衣を覗くと目があった。笑顔はやっぱり、別人のようでそうじゃない。私も微笑み返すと、後ろの女の子たちは、急に大きな声を出した。
「あんな彼氏とデートしたいよねー!!」
「いいなー、隣の彼女。」
驚きと、恥ずかしさと、嬉しさと。ごちゃごちゃと混ざった感情が、こみ上げてきた。彼女たちの言葉に照れてしまって、繋いだ手に汗が少し滲む。ん?と不思議に思って、彼を再び覗くと、今度は瑠衣が頬を赤くしていた。
「ちゃんと、恋人に見えるってさ。」
ふんわりと笑った彼が、私に幸せを運んだ。列の進みに合わせた歩が、ゆっくりと私たちを推し進めた。
前作がランキングに入っていたのが嬉しくて書きました!
読んでくださった方々、ありがとうございます。
二つのお話をとりあえずシリーズにまとめたのですが、このお話を連載にするか少々迷っております。
連載にする際は、前話の『ヒロインはあなたでしょ!』に前後を付け足そうかと思っております。要するに、3話くらいの連載にしようかな、ということです。そうなると、多少お話が変わる可能性がありますが、皆さまの意見をお聞きできるなら参考にしたいと思っています。感想など、お待ちしてます!