4kの彼女、24フレームの僕
初の短編投稿です!
放課後、誰もいない教室。
夕日に染まった窓際で、学園一の美少女・佐藤 陽葵さんが、僕を呼び止めた。
陽葵さんの髪は一本一本がさらさらと風に揺れ、肌には柔らかな光が宿っている。どこからどう見ても、この世界に実在する「生身の人間」だ。
対する僕は、黒いマジックで縁取られたような姿の「絵」である。
名前は、鈴木 慎一。
僕が驚くと、頭の上に大きな「!」のマークがボコンと飛び出した。
「鈴木 慎一くん、私と付き合ってくれないかな?」
陽葵さんの言葉に、僕の顔面は一瞬で真っ赤なバケツをひっくり返したような色に染まった。
「……陽葵さん、正気? 僕はご飯を食べてもお腹の中で消えちゃうし、泣いたら目から青い玉が出るような『描き込みの薄い男』だよ?」
陽葵さんは優しく微笑んで、僕の「描かれた手」を握った。
「そんなの関係ないよ。慎一くんのその輪郭は、誰よりも真っ直ぐで綺麗だもの」
付き合って初めてのデート。僕たちは街の公園で待ち合わせをした。
佐藤 陽葵さんは春らしいワンピースを着ていて、その布の質感は驚くほどリアルだ。
ところが、運悪く雨が降り始めてしまった。
「大変! 慎一くん、濡れたら色が落ちちゃうんじゃ……!」
彼女が慌てて傘を広げる。
「大丈夫だよ、陽葵さん。僕は油性だから、少しくらいの雨じゃ落ちないんだ」
でも、本当は少し怖かった。
雨粒が僕の体に触れるたび、そこだけ色が少しだけボヤけてしまう。彼女に「完成度の低い姿」を見せたくなくて、僕は必死に背筋を伸ばした。
彼女は僕の肩に寄り添い、自分のハンカチで僕の頬をそっと拭った。
「あ、見て。慎一くんの青い色がハンカチについちゃった。これ、私たちの思い出の色だね」
彼女が笑うと、僕の周りには勝手にキラキラした星が飛び散った。感情が自動的に飾りになって出てしまうのが、絵である僕の不便で、幸せなところだ。
ついに、彼女の両親に会う日がやってきた。
玄関を開けると、そこには画質の高い、立派な体格のお父さん・佐藤 剛さんが腕を組んで立っていた。
「……娘を、こんなペラペラ男に任せられるか! 慎一とか言ったな、お前、横から見たら厚みが数ミリしかないじゃないか!」
剛さんの怒鳴り声は重低音で響き、家の空気を震わせる。
僕は震えた。震えすぎて、自分の輪郭がガタガタと波打ってしまう。
「お父さん、やめて!」
陽葵さんが叫ぶ。
僕は一歩前に出た。
「お父さん。僕は確かに、横から見たら紙のように薄い存在です。でも、陽葵さんを愛する気持ちだけは、どんな高級なカメラでも撮りきれないほど深いんです!」
僕はその場で、自分の一番大切な「お守り」を取り出した。それは、僕を描いてくれた作者からもらったと言い伝えられる、古びた消しゴムだった。
「もし僕が彼女を悲しませたら、この消しゴムで僕自身を消してしまっても構いません。それくらいの覚悟で、佐藤 陽葵さんの隣にいます!」
剛さんは僕をじっと見つめ、やがてふっと息を吐いた。
「……消しゴムなんて物騒なもんを出すな。鈴木 慎一。お前のその、はみ出しそうなほど熱い赤色は、嘘じゃなさそうだな」
それから数年後。
僕たちは小さな家で、「鈴木」の表札を掲げて一緒に暮らしている。
朝、鏡を見ると、実写の鈴木 陽葵と、絵の鈴木 慎一が並んで歯を磨いている。
陽葵の肌には少しずつ「生きてきた証」である細かなシワが増えてきたけれど、僕の姿は出会った時のまま、一切老けることがない。
「ねえ、慎一くん。私がひいおばあちゃんになっても、あなたはそのままなの?」
彼女が少し寂しそうに笑う。
僕は彼女の肩に手を置き、鏡の中の自分を少しだけ「修正」した。
わざと目元に、彼女と同じような「笑いジワ」を黒いペンで描き加えたんだ。
「当たり前だよ、陽葵。君が変わっていくなら、僕もそれに合わせて自分を描き直す。僕たちの思い出が増えるたび、僕の絵はもっと深みのある色になっていくはずだから」
窓から差し込む光の中で、本物の人間と、描き出された絵。
二つの異なる世界は、今日も幸せに混ざり合っている。
もし人気になったらこれの連載版作ろうと思うので応援お願いします!




