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吸血塾  作者: クオン
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スレイブになるのは・・・

「あなた達の来日目的は何だったの?」

緋波若生が訊く。

「私達と言うより、マスター・ウィリアムスはこの地の古い知人を頼ろうとしていたのです。日本の吸血鬼ですね」

「日本の吸血鬼? 聞いたことある?そんなの」

若生は七緒や弥生に向かって確認してみた。

七尾は両手の平を上に向けて知らないとジェスチャーした。

「そうでしょうね。何百年も表に出ず静かに隠れ住んでいると聞いています。私達はそれに習って、この地で隠遁生活を送るつもりだったのです」

「良い話じゃない! なんで邪魔するかな? あの神父!」

弥生は憤慨しながら言った。

「虫の良い話とも言えます。私達は欧州で眷属とスレイブを作りすぎ、結果コントロール出来なくなり一族を滅びに導いてしまいました。多くの人間を巻き込んで死なせました。いまさら穏便に生きるなど無理なのでしょう」

「この日本がそんなことになる可能性はあるの?」

「ロード・フィルが生きていり限り有り得るでしょう。そもそも彼を日本に手引きした組織の目的は彼の血である可能性が高い。もうスレイブと眷族を作っているかも知れません」

七緒、若生、弥生は黙ってしまった。

と言うより次に何の質問をするか分かっているのだが、切り出せないでいたのだった。

若生は七緒に向き直って聞こうとする。

「じゃあさ、七緒先生――」

若生の口元を手で制する振りをして七緒はその質問を中断させた。

「ゴメン若生君、その前にエディーさんに確認しておきたいことがあるの。輸血用の血液や冷凍血液を飲む事は出来ないの?」

「良い質問です。身体維持と言う点では代替に問題はありません。しかし、どうしても補えないものがあります。吸血鬼の本性であり、本質の部分になるのですが、私達は耐え難い飢えと乾きを持っています。それは生きた人間の皮膚を噛み破って血を吸わなければ癒されないものなのです」

「七緒先生、これ無理じゃね?止めとこうよ?」

若生は本当に心配になった。

「想定内よ。問題はその欲求と渇望を凌げる目的があれば、探求出来るものがあり続ければ、破綻する事は無いと思うのよ」

「あ、じゃあ、本気なんだ。やっぱ」

若生はため息混じりに言った。

「反対意見があれば聞くけど?」

七緒は腕組みしながら姉弟に向き直って訊いた。

「意見というとこれぐらいしかないけど、賛成するにはリスクが大き過ぎないかな?」

と、若生。

「私は先を越されるのが嫌だなーって理由で反対だけど、まあ、ワッくんが反対してるから眷属譲るけど、逆に言えばだから反対しないんだけど」

弥生はちょっと猫背になって頭を縦に振り振りしながら意見にならない意見を述べた。

「なんだそりゃ!全然わっかんねーよ!!」

案の定、若生が突っ込みを入れる。

「あははははー!論理的には分からないけど、感覚的には分かり易いニュアンスねー」

その後、七緒と弥生は部屋を出て別の個室へ行き、若生とエディーは残って話をすることになった。



「個別懇談の時間にしましょう」

七緒はそう言っていたが、二人きりにされると流石に緊張した。

「もう話は聞いていると思いますが――」

エディーから話をし始めた。

「私はあなたに血を頂きたいのです。昨日ドクトワ・・・ドクター十海がしたようにグラスに移し変えて飲ませてもらえればいいのです。1杯でいいのです」

いきなり本題かよと、若生は思ったが、予想はしていたことだし回答は用意してたので驚きはしなかった。

「ああ、いいですよ。ただ、ペースってか、何日毎に血ぃ採られることになるのかな俺?」

「私の場合、普段なら月に2回でいいのですが、ドクターがスレイブになってしまうと、もっと短期間に提供してもらわないといけないかもしれません。その時は一度の量は小さい注射器1本程度でいいのですが」

「やっぱり勃起してしまうんですか?」

「はい、御恥ずかしながら、足の骨がつくまではそんなことは無かったのですが、昨夜左足が動かせるようになると、もう大きくなってしまって・・・」

照れながらそんなことを言うエディーを見て若生は思った。

120歳の癖に可愛いじゃねえか?

いかつい女顔というのだろうか、頬がこけて尖った鼻と顎だが、うまくバランスされて整った顔で照れられるとモテるだろうなと若生にも想像できた。

「七緒先生とは、えと、あの、その・・・」

この男とあの七緒が絡むとシーンは刺激が強すぎて口に出すのは憚れる16歳の若生だった。

「ええ、もしスレイブになったドクターには出来る限り早く眷属になってもらいます。ああいう美しくて聡明な女性ですから日が経つと間違いなく肉体関係になるでしょう。スレイブにするということは精神もある程度同調させてコントロ-ルしてしまうので中々理性的な関係でいるのは難しいのです」

つまりエディーが七緒に好意を寄せると七緒もエディーを好きになってしまうということか。

肉体的な欲求を抱くとスレイブもそれに同調してしまうということになる。

もっとも、吸血鬼の肉欲・性欲がどんなものか若生には想像できなったが。

「それでさ、エディーさんって、お金どれくらい持ってる? 日本円」

「・・・円は7万円ほどでしょうか?100ユーロ紙幣なら50枚以上ありますが」

エディーは若生が金の話をしてくるのが意外だった。

「それ、七緒先生に渡してあげてよね?この病院、いや、塾は多分借金あるから。赤字経営だから」

「なるほど、当然対価は支払うべきですね。ユーロは早めに円に換えたほうが良いでしょう。円安で推移中なのは痛いですが」

納得したようにエディーはうなづいて言った。


一方、緋波弥生と十海七緒は別室の薬品貯蔵室だった小部屋で対面していた。

入室して回転椅子に腰掛けるや弥生は速攻で切り出した。

「十海先生が吸血鬼になったら私をスレイブにして!」

「・・・いいけど。願ったりだけど。すぐに? 2~3年待てない?」

「ダメ!! 吸血鬼になったらすぐじゃなきゃ!」

「必死なのね。スレイブなんかにならなくても、あなたがその気になれば、あのお父様から離れることは難しくないのよ」

「!、やっぱり知ってたのね? 若生から聞いたの?」

「簡単に想像できたわ。なぜ、若生君だけネグレストであなたが無事なのか? まあ、本当はあなたの方が無事ではないのだけれど。若生君があなたの事を隠そうとすればするほどバレバレだったわね」

「若生はあいつに殺されるわ。私が逃げたら、若生が捕まったら、殺されちゃう。あいつ若生に保険かけたって!保険かけてもう1年経つから殺してもいいんだって、昨日・・・」

弥生の目から涙がこぼれた。

「そう? それはブラフ、嘘の脅しね。でもそんな脅し方で自分の娘をね・・・余計に悪質だわ」

「先生がスレイブにしてくれないなら私が先に吸血鬼になる!!」

「条件があるわ。もし、私がスレイブになる前に若生君が眷属になりたいと言ってきたら、私は吸血鬼を諦めるわ。その時はあなたはエディーさんのスレイブになりなさい。そして私は若生君のスレイブになる。いいわね?」

「でも、それって、男と女の組み合わせになるじゃん?」

涙をぬぐいながら不思議そうに弥生は訊いた。

「そう、たぶんお互い肉体関係になっちゃうわね」

「えええ~先生とワッ君があ~?」

「あら? なに? 私が妹じゃいけない?」

詰め寄る七緒に弥生はたじろいだ。

「あはははは~泣いたカラスがなんちゃって~! でもね吸血鬼にしてもスレイブにしても年の差が無効化されちゃうじゃない? それがあったから今までは全然意識してなかったけど、年齢ギャップが無くなって、お互い男女でスキンシップ以上の[血縁]関係になったりしたら歯止めは効かなくなるわよね。吸血鬼だけに」

くそう~うまいこと言いやがってと弥生は思った。

その後、エディーを診察室に残して若生が薬品保管室に合流して食事を取った。

若生はエディーに注射器一本分の血液を与えて「買い物に行く」と言って考明塾を出た。

本日、もう一度投稿します。

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