後日譚2
若生の父親、緋波隆は死んだ。
スレイブになり吸血されないまま拘置所で傷口を壊死させて、病院には運ばれたが最後は出血多量のショック死だった。
原因は姉の弥生が外を出歩いていたところを隆に見つかり、噛み付こうとする弥生と連れ戻そうとする隆で、もみ合いから暴力沙汰に発展するどさくさに弥生の牙が隆の腕にに傷を付けたらしい。
弥生を殴打している隆は巡回中の警官に現行犯で逮捕され、留置所から拘置所に移される途中で腕の出血が始まった。
スレイブであることなど認知される訳もなく、敗血症の疑いで病院に運ばれたが、症状は急激に悪化し死亡してしまったのだ。
病院に若生が呼び出された時には既に父親の意識は無く危篤状態になっていた。
最後には集中治療室で処置中に死んでしまったのだった。
若生が再び呼ばれた時には既に脳波や心拍は停止してしまっていた。
若生は父の死に何の感慨も沸かなかった。
ただ、父を殺したのが結果的に姉であるという事実は不安ではあった。
将来姉が平静を取り戻し、意識を持つようになった時、その事実を知ったら暗澹となるか嬉々として騒ぐのではないかという危惧だった。
弥生は他にも何人かに噛み付いて回ったらしいが、隆以外には歯形が軽く付く程度にしか噛み付いておらず、吸血にはいたっていないようだった。
噛む力はむしろ人間より弱く犬歯も短いため吸血は難しいことが実証されたようなものだが。
更には、近所からは痴女か変質者として認識され「噛み女」などと呼ばれ見つかり次第塾に連れ戻されるようになった。
世間もかなり弥生の扱いに慣れてきたのは不幸中の幸いか。




