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吸血塾  作者: クオン
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マルリックに胡麻化される役人と刑事

「話に出てきたので順番をくりあげますが、あなたがあの地下バーで処置を施した時、二人はどういう状態、症状だったのかね?」

男性刑事の質問だった。

「ふむ、バラバラにされた3人目を食い散らかしたゾンビ状態のスレイブは問答無用で黙らせた。トイレの中に隠れていたスレイブも人間を見た瞬間に吸血衝動を起こしたので銀針を使った。普通噛み傷が一か所のスレイブならまだ処置のしようもあったのだが・・・」

マルリックは自分の義手を見せながら続けた。

「こんな具合にその部分を切断すれば、日常生活を20年程度は続けられただろうが、あそこまで全身を噛まれてしまってはそれも出来ん。麻痺させて凍結か安楽死させるべきだと判断した」

「と、言う事は、あなた以外に現場にいた人物がいたのかね?」

「質問するまでもなかろう。血と汚物にまみれた足跡を消す暇などなかったからな。3人で踏み込んだのは判っていよう」

「・・・で、同伴者の氏名は? 身元は?」

「本庄蓮夏という女子高生だったな。この辺の不動産に詳しいということで案内してもらった。後輩の男は緋波といっていたかな? 一人で私に付き合うのは流石に無用心と判断したのだろう」

七緒はマルリックの言い回しに舌を巻いていた。

状況を少し変えただけで実際のニュアンスが全く違って聞こえる説明だった。

「ほ、本庄? あの本庄家の人間なのか?」

「なるほど、知っているようだな。この辺のかなりの不動産を所持した家系と・・・あれは自慢ではないのか? まあ、そんなことを言っていたな」

「どういう経緯でその娘に案内をさせたのかね?」

「ここの生徒ではないのか?」

マルリックが七緒に振った時、ハンナニーナが緑茶の入った急須を二組、湯飲みを六人分持ってきた。

マルギナータもハンナニーナを手伝って二組の急須からお茶を湯飲みに注いで座っている者に配っていった。

「いえ彼女は、本庄蓮夏はここには冷やかしのようなつもりで出入りしているのでしょう。私が本庄奈津様に借金している事を知っていて、ちょくちょく訪問するのです。まあ、マルリック神父が物珍しかったのでしょう。好奇心旺盛な性格ですから」

お茶が行き渡ってから七緒は返答した。

「それでは、十海七緒さんでしたね? 予定には無かったが質問してもよろしいか?」

「どうぞ」



「あなたは先ほど吸血鬼になって間もないと言われましたが、どういう経緯で吸血鬼に?」

「エディー・フランソワーゼと名乗る吸血鬼を保護して治療したのです。その治療費の代わりにVアメーバという細菌を譲り受け吸血鬼にしていただきました」

「そのエディーという人物は今何所に?」

「逃亡中ですね。ゴリノ・ベルケンバーガーというハンターに見つかって追われていたのですよ」

「そのゴリノというハンターが地下バーで3人を拉致監禁してスレイブにしていたようだ」

マルリックがすかさず引き継いだ。

「ほう? そのエディーという吸血鬼が犯人ではないと?」

「スレイブ達の傷口のVアメーバのサンプルをギリシャ正教会に照会したまえ。エディーとは一致しないはずだ。ロシア正教会がゴリノのサンプル照会に応じるかどうかは疑問だが」

「では、再びマルリック氏に質問を戻しますが――」

「いや、ここからは時系列で話をしよう。私が来日した直後からの説明でよろしいか?」

刑事と今泉は顔を見合わせてうなづきあった。

「どうぞ」

刑事の了解後にマルリックは語り始めた。

来日直後にロード・フィルという吸血鬼に情報提供を受けたこと。

この地方でとエディーフランソワーゼを見つけて、その後ゴリノ・ベルケンバーガーの妨害工作を受け、七緒の連絡で再び東京の大使館からこちらに戻って来たことをマルリック側から知りえた情報を若生や弥生にかかわる部分を巧妙に隠匿しながら説明していったのだった。

流石にゾーイ・ウィリアムスを「処分」した件は洩らさなかったが。



「現在ここで厄介になっている訳は逃亡中のエディーがここに戻ってくる可能性があること。また、ロシア側のハンターが再びこの地域に来るかも知れない。そしてミス十海の監視と保護を兼ねている。しかも私のハンター職の継続が危うくなった経過もあって動くに動けないでいるのだ」

「つまり、あなたは教義のために人間一人を処分しに来たと?」

「この国の法解釈ではそうかも知れんが、欧州・ロシアでは宗教的にも行政的にも偽装パスポ-トを持ったゴミの処分に過ぎん」

「それではあなた自身もゴミなのかね?」

「ゴミだったこともあったな。今はリサイクルされて司祭と言う身分でゴミ分別をしてハンターと言う立場で処分も請け負っているわけだ」

「日本語が達者ですな」

「私は吸血鬼になって以来、自前の歯を使わず間接的に血を譲り受ける交渉を300年繰り返してきているのだ。口も達者になろうというものだ」

「口では負けぬという事ですかな?」

「勝ち負けの問題ではない。こと吸血鬼が絡んだ場合、お前達の不利益にならぬように教示をすることが私の本来の仕事なのだ」

「信徒でない者でもその対象ですかな?」

「この国では宗教法人というものを法的においても誤解しているようだな。信徒ではない者にも救済を施すから宗教は税制でも優遇されているのだ。信徒しか救わぬと言うのならそれはただの営利団体だ」

「耳の痛いお言葉ですな。どこかの政党に聞かせてやりたいものです」

マルリックにはそれ以上刑事からの質問はなかった。

七緒に補足的な質問があった後、今泉とレポートの翻訳の確認作業を仕上げたところで正午に近くなり二人は考明塾から帰っていった。


「うまく説明してくれて助かったわ。ありがと」

七緒は訪問者の姿が見えなくなってからマルリックに礼を言った。

「しかし、あれはこれから逃亡するのが前提のその場しのぎの言い逃れだ。本格的に捜査されるとすぐにボロが出るぞ」

「警察に方便は常套手段よ。前の訴訟騒ぎで嫌と言うほど思い知ったわ」

「若生の父親の件か?」

「ええ、法に疎いと色々損をするものね。ところで島原の乱にロード・フィルが絡んでいたというのはホントなの?」

「ああ、それが真相のようだな。古来飢饉と吸血鬼の発生には密接な関係があることが多いのだ」

パタパタと階段を下りてくる音がして教室に若生が顔を出した。

「その話俺にも聞かせて!」

若生が加わり正午までその話題で盛り上がったのだった。

もっとも、マルリックはその時間で話の全容を語ることはできなかったのだが。


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