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吸血塾  作者: クオン
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事後処理にも関わる本庄蓮夏

エディーは塾に戻って玄関回りのワイヤーだけは取り除いておいて、扉を壊してしまった玄関に入っていった。

吸血鬼の聴覚で七緒たち三人は和室に集まっていることを探知し、そこに向かった。

相変わらず弥生は暴れようとして若生に押さえれていたが、背中の小さな翼は収納してTシャツ・ショーツ姿になっていた。

「ゴリノの死骸は回収しました。ワイヤーの方は無理ですね。広範囲に展開しすぎています」

「私が塾の周りから出来るだけは回収するわ。しかし、問題が山積してしまったわね」

「日が昇れば警察機関も黙っていないでしょう」

「それよりも問題は――」

「本庄ですか? 借金がおありだとか?」

「本庄家というのは、この辺の地主よ。実は私も遠い血縁でね。低利で借金したのはいいのだけれど、返済が滞れば土地は取り上げられることになるわ。この件が刀自殿の耳に入れば一括返済を迫られるかもしれないわ」

「本庄蓮夏、あの少女については?」

「本庄家の一人娘でね。この辺で有名なトラブルメーカーよ」

「若生を苛めていたとか?」

「何それ? そうなの? 若生君」

「・・・最近はそうでもないよ。一時期すれ違いざまには必ず蹴り入れられてたけど、近寄らなければ問題ないってのが分かってきたから」

若生は相変わらず顔を伏せたままそう言った。

「あの子、不良グループのリーダー格でしょ? 集団でイジメにあったりしてない?」

「それは無かったな・・・中央高校の不良って、あいつに付き合ってるだけのポーズだけの不良だからね」

「中々に好奇心の強そうな少女でした。今後も我々に関わってくるつもりでしょうね。ただ、私への応対からは、そう悪い印象ではありませんでしたが」

「と、思って油断してると足元すくわれるわよ」

「なるほど、骨身に沁みているというわけですね」

「余計なことも口走ってくれたようね。あの小娘」



「そして次の問題はベン・マルリックですね」

と、エディー。

「こちらの交渉に乗ってくると思う?」

「まあ、交渉は私の首か身柄と引き換えればテーブルに着いてくれるでしょう。それ以前にギリシャ大使館に留め置かれているという事は、ゴリノ・ベルケンバーガーの策に嵌ったということでしょう。そのまま本国に送還される可能性もあるわけです」

「楽観的ね。ここは悲観的にに想定してもらわないと対応にならないわ」

「例えばゴリノを消去したことについて何か通達が入るシステムがあればマルリックのアリバイは成立するわけで、早ければ本日午後にでも拘束が外れ夜間にはこちらに来るというパターンが最短の予想でしょうか?」

「本気で若生君にハンターの仕事を手伝わすつもりなの?」

「そうは言ってみたものの、マルリックは一匹狼ですからねえ。こちらの話に乗ってくるかどうか? ただ、先刻の電話を拝聴した限りでは彼は若生のことをかなり気に入っているようでした。私さえいなければ十分交渉の余地はあるでしょう」

「マルリックがあなたを執拗に追うのは懸賞金がかかっているからという理由だけなの? エルダー専用と言うからにはあなたは対象外なのでは?」

「私がゾーイ・ブルー・ウィリアムスの眷属だからです。そしてゾーイを眷属にした吸血鬼こそがマルリックをスレイブにし自ら両腕を切り落とした彼を、なお眷属に仕立て上げた本人なのです。系譜の延長線上にいる私は彼の復讐の最後の対象になるのです」

「なら、私や弥生さんも安泰ではない訳ね」

「気休めかもしれませんが、マルリックはフェミニストと自認しているようですから。それに女性吸血鬼を狩ったという実績も聞いたことはありません」

不意に携帯の音が鳴り響いた。

入り口の横の冷蔵庫の上においてあった七緒のスマホからのコール音だった。



エディーが弥生を抑える役を代わるのを見て、七緒はスマホを手に取った。

「もしもし」

『俺ー、っかる?』

「本庄蓮夏・・・」

『えへへ、さっきオメーの携帯から俺のナンバー発信しておいたんだよー』

スマホは認証済みのままにしていたのだ。

「用は何?」

『調子、ど?』

「お蔭様で・・・」

七緒は低い声で返した。

『ワイヤーはこっちで掃除しておくぜ。ただなー、あの折れた電柱周りは誤魔化し切れねーかもな。どっかの族が事故ったことにするにもバイクや車の痕跡は出ねーだろーし』

「それはつまりさっそく本庄家に御中進したということ?」

『いやー、お袋にゃ、俺が一方敵に巻き込まれたことにして、あんた等の事は言ってねーし。動いてくれてるのはお袋ん配下の清掃業者だよー。婆あにゃまだなーんも言ってねーけど、警察の出方次第じゃ釈明しなきゃなー。場所がさ、そっから近過ぎんだよねー。で、どーよ? そんときゃ、どこまでぶっちゃけちまっていーんだー?』

「警察より先なら、見たまま聞いたまま全部話しなさい」

『警察が先に来たら?』

「あの男子生徒とよく打ち合わせしておくのね。話が食い違うとあなたの立場が悪くなるわよ」

『そんときゃ、どっかに逃げるってか』

「そうしたいけれど、弥生さんがあの調子ではそれも無理ね」

『なるようにしかならねーってか。ま、なんか情報入ったら連絡するわ』

七緒は通話の切れた携帯電話をしばらく眺めた。

「聞いていたわね?」

確認して七緒はスマホをわきに置いた。

「代わるわ若生君。エディーと一緒に休みなさい」

そう言って七緒は弥生の髪をなでた。

「もう眠る必要はないんだろ?」

「それでも休息は必要よ。体の力を抜いて横たわるだけでいいから」

「姉さんを手荒に扱わないで。俺たちと比べて、かなりひ弱だから」

若生はエディーから七緒に手引かれていく弥生を見ながら言った。

「血を飲む? あなたのがまだ冷蔵庫に残っているわ」

「うん、我慢出来なくなったらでいいよ」

若生はエディーを伴って医務室へと向かった。

よく、よくも耐えていられるものだ。

戦闘を終えてから七緒は激しい飢えと渇きに苛まれていた。

あの本庄蓮夏に一々つっかかっていたのは、過去の経緯からだけではない。

あの娘が人間だからだった。

あの娘の体のどこでもいいから食い破って血をすすりたいという欲求を抑えるストレスから平常心ではいられなくなっていたのだ。

しかし、若生の飢えと渇きは七緒のそれとは比べ物にならないレベルのはずだった。

どれ程の渇きに苛まれているのか?

どれ程の飢えを耐えているのか?

「私のせいだわ」

他にいくらでも選択肢はあった。

なのに吸血鬼になるなどどいう選択が若生を、あんなことになるまで追い込んでしまった。

そして目の前の弥生だ。

生きているというだけで全てを失ったに等しい。

記憶だけでなく自我まで失くし吸血という欲求だけで生きている存在にしてしまった。

人の記憶が無くなるということが、その死と同等の喪失感であることを七緒は実感していた。

本日の投稿はここまでです。

ご覧になってくれた皆様の感謝します。

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