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吸血塾  作者: クオン
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死闘にかぶせられる死闘

エディーは電柱を足場に跳躍しながらゴリノを七緒と挟み込む位置に降り立った。

ゴリノは二人から真横を向く形でカメレオンのように両目を別々に動かして大口を空けて牙をむき出しにして笑い、そして両腕を広げた。

ゴリノの腹部は極端に細くなっており、そこには直径30センチほどの円筒形の物体が腹巻きのように巻かれてあった。

それが回転しながらワイヤーを左右に発射する。

エディーは難なくその二本を避け、七緒はなんとか二本をかわした。

次の瞬間、ゴリノの腹の円筒形は急停止し逆回転し始めた。

左右計四本のワイヤーが巻き取られて、いや、既に周囲に仕込んであったワイヤーまでが巻き取られていった。

予想の出来るスピードではなく何本かがエディーと七緒に絡んでいく。

七緒は何とかそれを解こうともがき、エディーはワイヤーに逆らわずに、そのままゴリノに突進していこうとした。

次の瞬間、ゴリノの腹でスパークが走った。

「しまった!!」

エディーの体に巻きついて接触していたワイヤーからも火花が飛び出る。

電撃!?

エディーは地に倒れこんでしまった。

意識はあるのだが体が動かない。

ゴリノの腹部の円筒は糸巻の機能ではなく発電機のコイルの役割を担っていたのだ。

コイルの回転数とワイヤーを巻き取った量が増加すれば、それだけ高電圧が発生する。

七緒はワイヤーを殆ど解いていたので左腕からしか感電しなかったが、それでも半身が麻痺してしまった。

ゴリノが肉薄するが、何も出来ない。

七緒は右胸を蹴り上げられて民家の塀に叩きつけられた。

肋骨が右肺に突き刺さる。

うつ伏せに倒れたところを今度は背中から左胸を踏みつぶされた。

その時になってゴリノの目的が呼吸器官の破壊であることに気づいて七緒はもがいた。

電撃で麻痺した体では苦痛も半減するが、呼吸機能をつぶされる苦しみには変化がない。

七緒は喀血し咳込みながら、のた打ち回った。


ゴリノは振り返り七緒から離れた。

エディーが体を起こしたのだ。

ゴリノはバックステップで5メートルを一気に詰める跳躍をし、エディーに迫り振り返りながら下から自分の右手を振り上げた。

右手はブレードと化していた。

それをエディーは大型ハーピーナイフで受け、複手をゴリノに突き出すが避けられる。

マルリックの助言がなければ、深手を負っていたところだった。

ゴリノは受けられた反動で右手を相手の膝に切り付けた。

左膝を傷つけられたエディーはバランスを崩し前に倒れこむ。

ゴリノの次の狙いは四本の腕のうちのどれかだろう。

エディ―は複手の爪で攻撃を試みたが、ブレードで弾き飛ばされ左複手の肉を縦割りにざっくり削り取られてしまった。

ゴリノのブレードが斜め下からエディーの首にせまる。

避けきれない!

しかし、ブレードは寸前で空を切った。


ゴリノが後ろによろめいていた。

右足のアキレス腱から上にかけてズボンが破れ、血が滲み足首が力なく妙な方向に向いていた。

ゴリノは後を振り向いた。

エディーはゴリノのアキレス腱がごっそり噛み取られているのを見た。

七緒はまだ倒れたままだった。

ゴリノがニードルガンを取り出そうとした時、七緒の前に不気味な影が滑り込んだ。

地面を影が這うようにそれは現れた。

ゴリノのアキレス腱周辺を咥えた、それは、ぐちゅりと音を立てて飲み込んだ。

影は更に地面を這ってゴリノに迫った。

胴から細く長い腕が上体をM字のように支え、下半身から地面水平に足を動かしている。

四足の獣などではなく、トカゲか虫の動きだった。

ニードルガンに装填は間に合わないと察したゴリノは右からブレードを振り下ろすが目前でかわされ、切り返す間もなく左下から顔面をつかまれた。

そのまま、道路の左に引っ張られ、ブロック塀に叩きつけられた。

ブロック塀に叩きつけられたまま、顔面を押し付けられたまま、後方へ強烈にもって行かれた。

そのまま、数メートル以上顔面を塀に押し付けられ、頭蓋骨を削られながら電柱に激突した。

激突と同時に電柱はへし折れ、上部は電線にぶら下がる形で地面にぶら下がり、下部は斜めに傾いた。

その傍らに腕が一本地面にボトリと落ちた。

「ぬぎゃあああ」

叫び声はゴリノのものだった。

今になって、脳漿が零れ落ちるほどに削れた頭蓋骨の激痛が顔面を襲ってきたのだ。

その時になって、腕を切り落とされたのが若生であることを七尾とエディーは認識したのだった。

―若生君―

しかし、気管が詰まっている七緒は声に出す事はできなかった。

ゴリノは絶叫しながら若生に右ブレードを一閃しようと振り上げた。

その右肘に若生が噛み付き顎の力で骨を砕き腕を引きちぎった

しかしゴリノは左手で若生の首にワイヤーを巻きつけ、倒れた電柱を支点に引っ張り始めた。

若生の首にワイヤーが食い込んでいく。

そのゴリノに七緒が突っ込んでいった。

ただ体当たりしただけではない。

ゴリノの左脇肋骨の隙間にぶつかりながら手刀にした右手をもぐり込ませる。

空手の抜き手という技だが、吸血鬼補正で指関節を補強した状態で無理やり突き刺したのだった。

肺を突き破って心臓を掴み取る感触を得た七緒は背筋をフルに使って右手を引き抜いた。

今度はゴリノが喀血する番だった。

七緒は距離をとって抜き取った心臓を道路に叩きつけておいて口から二種類の爆薬を落として、それを爆破焼却した。

ゴリノは握っていたワイヤーを離して七緒とは反対側に跳躍した。

若生は首と右腕にワイヤーを巻きつけたままゴリノの消えた方向に走った。

片方に巻かれてあった傾いた電柱が若生に引っ張られ、地面から引き抜かれた後、ワイヤーが解けたのか二三回転がって止まった。


まだ逆転できる。

そのための『保険』があるのだ。

しかしアレは何だったのだ?

グールにしてはスピードとパワーが有りすぎる。

眷属の暴走か?

このタイミングで?

馬鹿な!

間が良すぎる。

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