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吸血塾  作者: クオン
11/43

猟師と獲物たち

弥生は七緒に頚動脈から吸血されて20度の冷水に浸されていた。

半身浴状態で湯船に横たわっている弥生を見下ろしながら三人は押し黙っていた。

「今夜中に来るのかしら? あのハンター」

七緒が沈黙を破る。

「こちらに時間を与えず攻めるつもりなら今夜。準備を整えて万全を図るのなら明日でしょうか?」

「弥生さんを動かせないと向こうが考えるのなら明日ということになるのかしら」

「マルリックも一緒に来るってこと?」

「いえ、このやりようから見てマルリックの共闘はないでしょう」

「二人がかりなら、あのハンターを返り討ちに出来る?」

「五分五分以下でしょう。あちらはプロで、七緒はまだ完全な眷属ではなく、私は右足が動かないまま。あのニードルガンが単発式なのは別に何か武器を持っているはずです」

「何か策はないの?」

「あの爆薬は大量に作れるのですか?」

「・・・時間があれば。これは窒素化合物と炭素化合物を目標地点で融合させて爆破させる、まあニトログリセリンみたいなものだけれど、体外では時間経過で変質してしまう可能性があるわ。直接当てるのが確実だけれど先刻見てのとおり簡単に避けられてしまったわ」

「トラップとしてなら十分に有効です。直接使う時は『とどめ』として使ってください。眷属の死に間際の抵抗は言語を絶するものがありますよ。詰めが肝心になります」

「詰めるところまでもっていければいいのだけれど・・・」



若生は突然、部屋を飛び出した。

出たところで携帯を使ってマルリックのナンバーをコールした。

二回ほどコール音がしてから切られてしまったが若生はそのまま携帯を持って待ってみた。

期待通りすぐに着信音がして若生は通話キーを押す。

『マルリックだ』

「僕だ! 若生だ」

『うむ、用は何だ?』

「姉さんがハンターの吸血鬼に襲われた! あんたの仲間か?」

『そういうことか。私の仲間ではない』

「なら、止められないのか? そいつと連絡は取れないのか?」

『私は今、東京にいる。ギリシャ大使館で足止め状態だ。多分その吸血鬼ハンター、ゴリノ・ベルケンバーガーの仕業だな。襲われたお前の姉はスレイブになっていたのか?』

「あ、ああ」

『お前もか?』

「いや、俺は違う。まだ、人間のままだ」

『悪いことは言わん。お前だけでも逃げろ。すぐに軍に、いや、この国では警察か。そこに保護してもらうのだ』

「出来ないよ!! 姉さんや先生を見捨てて!」

『あの女医もスレイブか?』

「・・・いや、もう眷属になってる」

『ゴリノ・ベルケンバーガーというハンターはワイヤーで結界を作る。私の結界と違って中の者を逃がさないタイプだ。とにかく囲まれないように移動し続けるのだ』

「だめだ! 姉さんは今動かせない! 先生とエディーは戦うつもりだけど」

『姉の事はその二人に任せるしかあるまい。お前がそこにいても足手まといだ』

「でもっ―」

『女! そこで聞いているな?』

七緒は廊下で若生の方を見ながら立っていた。

吸血鬼となった七緒なら十分電話の音を聞き取れる距離だった。

『相手はワイヤートラップの使い手だ。結界の中では圧倒的に不利だぞ。戦うつもりなら今すぐ外に出るのだ! ゴリノは今、ワイヤーで結界を張り巡らそうとしているはずだ。そのワイヤーを逆にたどるのだ。そして奴はニードルガン以外にも武器を持っている。恐らく体のどこかをブレードに変形させることが出来るはずだ。すまないが、今はこれぐらいしか支援はできない。許せ』

電話は切られた。



「エディー!! 私が出るわ! あなたは弥生さんを守って」

「いえ、二人がかりで無ければ勝てません。先制してここに近づけさせないようにするのがベストです。それにワイヤーの逆探は複数がいい」

エディーにも携帯電話の声は聞こえていたようだった。

「若生君! 弥生さんがこの状態の間はハンターにも探知されにくいわ。あなたは逃げなさい」

「何言ってるんだよ!」

「今は、逃げなさい。最悪でも周囲を爆破して騒ぎを起こせばゴリノのハンティングは出来なくなるわ。そうなってから戻ってきなさい。弥生さんを連れて逃げれるようになるまで時間は稼ぐから」

「若生。今必要なのは判断する勇気です」

そう言って車椅子のままエディーは玄関に向かった。

外開きの扉を開けようとして止める。

「ワイヤーです! 七緒は2階から外へ!」

七緒は階段を駆け上がる。

エディーは背中から複手を出して車椅子から立ち上がった。

「若生! 私が飛び出して一分後に外に出なさい」

外開きの扉を強引に内側に引っ張ってドアを蝶番ごと外し、車椅子を外に向けて投げ出した。

車椅子はワイヤーに引っかかりながらも外に飛び出したが、空中で不自然な形に浮き上がったまま静止した。

ピウン!

ジャキン!

同時に車椅子にワイヤーが絡みついた音がした。

「ワイヤーを無理に通過すると捕縛されてしまうようですね。この建物の周りだけだといいのですが。しかしこれでは、あなたを逃すことは出来ませんか・・・中で待っていなさい! 勝って戻るしかないようです」

エディーは外に飛び出した。

七緒に確認を取らず若生を塾に引き止めたことは後で責を受けるかもしれないが仕方あるまい。

夜のワイヤーは吸血鬼だから目視できるのであって、人間の場合は容易にトラップに引っかかってしまうかもしれないのだ。

エディーはすでに自分が囮になる覚悟は決めていた。

七緒はまだ眷属として完全ではない。

足が遅く、再生力の強い自分が斥候を勤めるべきだろう。

エディーはワイヤーの束が集まっている箇所を発見して複手で引っ張った。

ワイヤーはギターの弦より細いようだった。

上下から別のワイヤーが通過した。

予想していたエディーはそれをかわす。

電柱を利用していますか!

電線を地下に埋設しないで、地上に設置させる日本の都市整備とは。

しかし、それならそれを利用させてもらおう!

エディーは片足だけの跳躍で電柱の先に飛び上がった。

まずはトラップを少しでも減らしておかなくてはならない。

「ウォオオオオオォォォォー」

エディーの叫び声で大気が共鳴し、ワイヤーを振動させる。

各所でワイヤーが弾け飛ぶ音がした。

一瞬、静まった後にワイヤーが何かと交錯する音がした。



エディーの思惑とは裏腹にすでに七緒はワイヤーを束ねて、それを武器にゴリノと戦っていた。

ニードルガンの初弾を持ち出した原付用のヘルメットで叩き落したまでは良かったのだが、そこからは後手に回ってしまった。

あるパターンではメリケンサックのように殴って巻いたワイヤーを使い、ある時は鞭のように振り回してけん制した。

しかし、吸血鬼のスピードは七緒の想像を超えていた。

七緒は剣道初段、空手黒帯(少年部)の心得がある。

しかし、この戦いは間合いの範疇からが大きく違っていた。

人間が拳を突き出すスピード、竹刀を打つスピードで数メートルの距離を一気に詰めてくるのが吸血鬼だった。

目視できるから何とか致命傷にならずにすんでいたが、防戦一方でダメージが蓄積しつつあった。

「しかも、こちらはかすり傷一つ与えることが出来ないなんて・・・」

しかし、何としても手を緩めるわけにはいかない。

ニードルガンに次弾を装填させたら更にこちらの分が悪くなる!


[運がいいねえ](ロシア語)

七緒に初弾をヘルメットで受けられた事に対してのゴリノの感想である。

ニードルガンは普通の狩猟用空気銃に銀製釘を装填できるように改造したものである。

そのままだと小動物を殺傷できる程度の威力しかないが、吸血鬼のスピードで突進しかつ発射のタイミングにあわせ瞬時に腕を突き出すことによって、三倍以上のスピードと威力で相手の深部に貫通させることができるのだ。

しかし、あの女吸血鬼は窓から飛び出し瞬間、空中で予想不可能なバックをしながらヘッドギアのようなものでニードルを叩き落した。

まあ、それならそれで地道に叩くだけのことだ。

手合わせしてみればゾーイの眷属が来るまで余裕で遊べる程度の相手だった。

ゴリノは一撃離脱で蹴りやパンチを七緒に入れ続けていった。

「ウォオオオオオォォォォー」

その時エディーの衝撃波が周囲のトラップを破壊した。

[早く来い! 眷族! まとめて相手してやる!]

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