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男女の友情は失恋と共に崩れ去る

作者:

 九月の始業式が終わり生徒達が一斉いっせいに体育館から押し合いへし合いながらぞろぞろと出て各々が自分たちの教室へと向かう廊下ろうか

 

 「お、松村まつむらじゃん。久しぶり」


 そう声をかけたのは、首元のボタンを外し、寝ぐせがついている放漫ほうまんな男子。

 呼び止めるために肩に手をかけるも振り払われてしまう。


 「……誰?」


 呼びかけられたのはくせのない長髪を真っ直ぐに伸ばした清潔感のある女子。

 胸に手を当て警戒するように眉をひそめた。


 「おい忘れたのかよ。中学の時同じクラスだった三宅みやけだよ」


 大げさな手ぶりでそう言うと、思い出したのか雰囲気が和らぐ。

 

 「どうしたの三宅君。ナンパかと思ったわ」


 「見かけたから声をかけただけだよ。今も漫画書いてるのか?」


 「ええ、書いてるわ。それが何か?」


 松村は周りを見渡してから少し怒ったように語尾を荒げる。

 しまった。と三宅は思った。

 もしかして高校では秘密にしているのかもしれない。

 中学では休み時間によく漫画の話をしていたから考えがおよばなかった。

 さいわいにもこちらの会話に気をかけている生徒はいないようだ。


 「よかったら、また見せてくれないか?俺、結構気に入ってたんだ」


 失敗を取り返そうと、松村の機嫌きげんを取るようにへつらう。


 「ふ~ん……。実は新しいの書いているの。それでよかったら見せてもいいわよ」


 「やった!じゃあ、昼休みそっちのクラスに行くよ」


 「んー……。まあ、いいけど。待ってるわ」


 少し悩む素振りをみせながらもうなずいた。

 

 昼休みになり三宅は急いで松村のもとへ行くと、中学の時と変わらず人付き合いが苦手なのか一人机に座っていた。やけに視線を感じて振り返ると、すみで集まっている女子がこちらを見ながら小さな声で話し合っている。

 

 「だから嫌だったのよ。変なうわさされそうだし」


 変な噂。

 その言葉に三宅の胸がはねた。


 「そんなの無視すればいいよ。それより今はどんな漫画書いてるんだ?」


 そんな感情を隠すように三宅は興味なさげに本題を切り出す。


 「恋愛漫画書いてるのよ。年の差恋愛」


 「へぇ、おもしろそうじゃん」


 松村は机の中から一冊のノートを取り出して机の上に置いた。

 三宅は近くの椅子を引っ張ってノートを広げる。


 「ちょっと、ここで読むつもり?」


 「いいじゃん。そのほうが直接感想も言えるし」


 「まぁ……」


 ノートには女子生徒と男教師の恋愛模様が描かれていた。

 試験中に消しゴムを落としそれを教師に拾われるところから始まるラブストーリー。

 消しゴムの余白に相合傘あいあいがさ。そこには女子生徒と男教師の名前が書かれている。

 秘密を知られた女子生徒は泣き出して教室を飛び出す。追いかける教師。

 保健室のベッドで押し倒されたところで話は終わっていた。


 「無理ありすぎだろこの展開」


 あまりに唐突とうとつな流れに三宅は腹を抱えて笑う。

 

 「うるさい」


 松村はほおを赤らめてふくれ顔。

 

 「ねぇ、ねぇ、さっきからこそこそと何話してるの?もしかして二人は恋人同士とか?」


 突然、一人の女子生徒が歩いてきて松村と三宅に向けて声をかけてきた。

 三宅が教室に入った時に隅にいた女子グループの一人。

 

 「ただの友達」


 三宅が口を開く前に松村はぶっきらぼうに答え、ノートを机にしまう。

 

 「え~ほんと?それにしてはいい雰囲気だったけど?」


 語尾を伸ばした甘ったるい声。

 からかいに来たのだとすぐに分かった。


 「俺ら中学からの友達だよ。同じクラスだったんだ」


 「でも~、男女の友情とか眉唾まゆつばだって雑誌にのってたよ。君も実は松村のこと好きなんじゃないの?」


 「はっ?馬鹿言えよ。そんなわけないって」


 顔が赤くなり、あせって否定する三宅。

 対して松村は無表情。なぜか胸が痛い。

 

 「ほら、もういいでしょ?」


 「は~い。お邪魔しました~」


 そう言って離れていく女子生徒。

 

 「もういい?」


 松村は冷たい視線でき放すように三宅に声を飛ばす。


 「もういいって何が?」


 「だから、漫画。もう見たでしょ。これで終わり」


 「なんだよ。久しぶりだってのに冷たいじゃねえか」


 その時、がらっと教室のドアが開き男教師が入ってきた。

 

 「ゆい。手伝ってほしいことがあるからついてきなさい」


 担任の田中先生が松村を呼ぶ。

 

 「唯って名前呼びされてんのか?おいおい、まさか~」


 三宅は先ほど読んだ漫画から冗談まじりに松村を見ると、松村は顔を赤らめていた。


 「……はい。先生」


 三宅を無視して立ち上がり嬉しそうに走って田中先生の元へ。

 田中先生は三宅に一瞥いちべつをくれてから松村の肩に手を置いた。


 「ちょっと、先生……」

 

 松村は自らの手を田中先生の手に重ねてゆっくりと肩からはがす。


 教師と生徒。男と女。年の差恋愛。田中先生。松村唯。黒と青。

 そして三宅のそばから松村はいなくなった。あるのはただ空虚くうきょな痛み。

 友達だと言った。そこにあるのは興味か無関心の二択だった。

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― 新着の感想 ―
あ、↓BSS(僕、先、好き)でした。ごめんなさい。
中3卒業から高1?の9月まで会わなかったのだから、恋愛どころか友情と呼べる段階ですらないと思うよ、三宅君。 BBS(僕が先に好きだったのに)と言うには、あまりにも基礎が足りてない。この結末は普通に当然…
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