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4.出会い(聖女視点)

 森をひたすら歩いていると、透き通った水が湧き出ている場所を見つけた。そこで義母が持たせてくれたパンを一つだけ食べ、湧き水で喉を潤した。そしてまた、歩き始める。

 辺りは段々と暗くなっていく。出口の見えない薄暗い森は、私の不安を表しているようだった。少しでも早く森を抜けたいと、疲れで重くなっていく脚を無理やり動かし続ける。立ち止まるともう動けなくなるのではないかと思うと怖かった。


 そうして何とか歩いていると、やっと木がまばらになってきた。地平線に半分隠れたオレンジ色の太陽が見える。

 緩やかな下り坂が続く広い草原に出たが、辺り人家は見られない。義父母に聞いていた隣町は地平線の向こうにあるらしい。

 見通しの良い草原で夜を明かすべきか、身を隠す場所がある森へ戻るべきか、思案に暮れる。

 

 とりあえず、西の方向に町があると聞いていたので、夕日が沈む方向を覚えておこうと辺りを見回した。


 黒い何かが地響きを立てながらやってくる。それは狼のようだけれど、とても獣ではない。私の身長ほどもある体高、長い牙、眉間から伸びる長い一本の角。そして体毛は真っ黒だった。信じられないほど大きい。そして、ある意味美しかった。

 こんな生物がいるなんて聞いていない。まさかこれが魔物なの?

 その生物は大きく唸りをあげると、大きな口を開け、長い牙を見せながらこちらに迫ってきた。


 この世界にやって来てからの五年間が頭を過る。

 今度こそ幸せになりたかった。薬師の勉強をして、村の人の役に立って、穏やかに一生を終える。そんなささやかな夢も叶えられなかった。それでも、町に行けば生きる場所が見つかるかもしれない。私にもできることがあるかもしれない。そう思っていたのに。魔物が現れたことでそんな願いも露と消えてしまった。


 魔物に襲われる最後だけは絶対に嫌だ。それくらいなら自分で終わりにしよう。私は義父からもらったナイフを鞘から抜いた。


 私がナイフを手にしたからか、魔物は十メートルほどの距離で止まってこちらを伺っている。でも、大きな魔物なのでその気になれば一跳びで私に襲い掛かることができるだろう。その前に自分で命を終わらそうと思うけれど、怖くて動くことすらできない。

 そうしてしばらく魔物と睨み合っていた。


「俺が相手だ!」

 魔物の後ろから馬の乗った男性が大声で叫びながら近づいてきた。魔物が私から目線を外して振り向く。

 馬から飛び降りた男性は、剣を抜いて魔物に切りかかる。剣は白く光り輝いていて、これが義父に聞いていた魔法剣なのだと思い至る。

 大きな黒い魔物と、それを討伐する魔法剣を振るう男性。初めてここが異世界なのだと実感させられた。


 茫然と眺めているうちに、勝負は決していた。魔物が霧のように消えていく。まるで最初から魔物など存在していなかったように。でも、忘れることなどできなかった。真っ黒な大きい魔物。風前の灯だった私の命。その記憶はあまりにも強烈過ぎて、目を閉じるとはっきりと思い浮かべることができる。


「大丈夫か? それにしても、若い娘がこんな時間に何をしているんだ。近くには町も村もないだろう?」

 心配そうに私の方にやってくる男性の髪は、この世界では珍しい濃い茶色だった。口調はとても優しく、私の黒髪を嫌悪しているようには見えない。だから、これまでのことを話してしまおうと思った。でも、異世界から来たとは言えない。そんなことを言えば怪しまれるに決まっているから。

「住んでいる村の人が魔物を見かけて、魔王が討伐されたのに魔物が現れたのは私のせいだということになったらしいの。ほら、私の髪や目が黒いから。それで、私を拾ってくれた薬師の義父が隣町に行けって。その方がまだ生き残る可能性が高いからと。だから、村から逃げてきたの」

 これからのことは考えないようにしていたけれど、話しているうちに不安が押し寄せてくる。知らない間に涙があふれ、頬を伝わっていた。


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