3.魔物討伐
全く魔法が使えなかった俺だが、不思議なことに、魔王の器になって以来魔法が使えるようになっていた。しかも、その魔法は白い。勇者一行が使う魔法と同じだったのだ。
さすがに筆頭魔術師のように魔法を飛ばして攻撃することはできないが、騎士団長のように剣に魔法をまとわりつかせて戦うことができた。
なぜ魔王が使う黒い魔法ではなく白い魔法が使えるのか理解できないが、使えるからには有難く利用させてもらうことにした。
こうして、魔法を使いながら冒険者として生きてきた。剣技自体は騎士団で嫌というほど鍛えられていたので問題ない。ただ、あまり目立つと勇者たちに見つかってしまう恐れがあるので、畑を荒らす害獣討伐や薬草採取などの小口の依頼を受けていた。それでも、一人で生きていくには十分な報酬を得ることができた。
ある程度の金が貯まった頃、座席の背もたれを倒すとベッドに変わる小さな幌馬車を手に入れ、旅をしながら聖女を探し続けた。
しかし、聖女は何処にもいない。勇者たちが聖女を見つけたとの噂も聞かない。
魔王が復活した五年前に聖女がこの世界に来ている筈なのに。どうして、今回だけ現れないのだろうか?
聖女は慈悲深い女神の恩恵だと語られている。滅びそうなこの世界を哀れんだ女神が聖女を遣わすのだと。俺たちは女神に見捨てられてしまったのか?
そんなことを悩んでいる暇はなかった。害獣の討伐で訪れた森の中で魔物を見かけたのだ。昨夜野営したときに魔王が出てきたのに違いない。幸い生まれたての魔物は強くないので、魔法剣ですぐに倒すことができた。
しかし、このままでは危険だ。俺がいる場所の近くで魔物が生まれるのならば、人の多いところにいては危害を与えてしまう。
それからは、なるべく見通しの良い人の少ない場所を選んで夜を明かすことにした。
こうして魔物を討伐しながら、存在するかもわからない聖女を探す旅を続けている。
そう遠くない未来に俺は完全に魔王になってしまうのだろう。それならば、今魔物を狩っても無駄なことだ。世界の終わりはすぐそこに迫っている。今魔物に殺されなくても、人々はやがて死に絶えることになる。
それでも、俺は足掻きたい。自分の手で終わりにしたかった。
数日前から人里離れた森の近くに幌馬車を止め、森で食料を確保しつつ、見つけた魔物を討伐していた。
今日も馬に乗り草原を見回っている。日が地平線に沈む頃、遠くにかなり大型の魔物の姿が見えた。慌てて近づいてみると、なんと魔物は小柄な女性を襲っているところだった。女性はナイフを握りしめて魔物と対峙している。とてもじゃないが、あんなナイフで大型の魔物を倒せるとは思えない。
「俺が相手だ!」
少しでも早く女性から魔物の気を逸らしたくて、俺は叫びながら馬を駆けさせた。