ep.6 もしくは、、、
部屋から飛び出し、一階にある玄関から外に出る。
日本で言う春のような陽気と人の雑踏、屋台か何かの香り、そして何よりまるで中世の世界かのような光景に圧倒される。
引きこもり時代には殆ど活躍の機会がなかった五感をフル活用して、今自分が異世界に居ることを再確認した。
だが、昨日のような不安感は薄れている。むしろ今は手にした能力がもしかしたら使えるかもしれないという期待の方がはるかに大きい。
スペルギアさんが教えてくれた道を辿って道なりに進むと信じられないほど大きな門が見えてくる。
元の世界で言う凱旋門位だろうか?
ていうか、今思うと異世界って建設技術が他の文明より圧倒的に発展してることが多いよなぁ、、、。
やっぱ魔法とかが関係しているのだろうか。食べ物を美味しくする魔法とかあんま聞かないし、文明の発展に魔法というものの性質が向いていないのだろうか?
だって、棘の形をした炎とか氷とか地面とかを出す魔法とかって完全に何かを傷つけるために存在してるもんな。
と、そんなことを考えていると門の足元に辿り着いた。
「門から出るときに検問とかあったりするんだろうか。聞いとけばよかった。」
ここまで来たのに自分の無計画さにうんざりする。
戻るべきか、門の前にいる門番らしき人に声をかけるべきか門の前をぐるぐるしていると。
「おぉ!ヴィーゼじゃねぇか!昨日はどうしたんだ、珍しく来なかったじゃねぇか。」
向こうから声をかけてきた。
「ぇ、、、と、ぁはい。」
、、、一つ言い訳をさせてほしい。答えるつもりはあった。本当さ。でも、突然話しかけられたんだ、こんな終わっている返答になるのも致し方ないのではないだろうか。
「おいおい、元気ねぇなぁ。なんだ、またアラメールの奴に付きまとわれてたのか?モテる男は大変だねぇ、、、同情するぜ。」
俺の肩に手を置き、頭を振りながらそう言ってくる。
「え、、、?」
もしかしてアラメールって結構ヤバいストーカーだったりする?
いや、別に不思議でもないけど。
「まぁ、今日はここまで来たんだ。ストレス発散も兼ねてじゃんじゃん魔物倒しってってくれや。」
あっとそうだった。
「ちょっと待ってな、、、っと」
門番が彼の後ろにあった石板に手をかざすとその大きな門が開く、、、ということはなく門を支える柱に付いた小さな扉が開いた.
そりゃあ、人ひとりの為にそんな大仕掛け動かせないか。
「うし、、、じゃあ気を付けていって来いよ!」
「ありがとうございます!」
怪しまれる前にそそくさとその場を立ち去る。
今開いた扉と、小さめの空間をまたいで反対にある扉をくぐって外に出ると、そこには鮮やかな緑が一面に敷き詰められた美しい草原が広がっていた。
「こんな景色、見られるなんて思ってもみなかったなぁ。」
雄大な自然に圧倒され、暫く立ち尽くしていると遠くの方に小さな影が見える。
「多分あれが魔物かな?」
細心の注意を払いながら《宇宙駆ける臆病者》を発動し、一気に近づく。
丁度いいところにあった岩影から間近で見てみると、、、どうやらネズミのような魔物らしい。
「しかし、なかなか怖いな。」
サイズが元の世界の5倍はあろうかといったネズミと戦うと思うと温室育ちとしては多少尻込みしてしまうものがある。
「でも、、、やるっきゃねぇよな!」
岩陰から弓を引いて狙い撃つ!
仮説①”直接攻撃”が駄目なら遠距離攻撃なら通る説
、、、矢はそのまま行けば当たる軌道だったにも拘わらず、ネズミを回り込み、避けるようにしてネズミがいなかったらそこに落ちるだろうという場所に突き刺さった。
駄目、、、か。
「チュウ!?」
ネズミが撃たれた事に気がついて辺りを見回す。
幸い、ここにいることはまだバレていないようである。
なら、バレる前に
仮説②爆発物なら巻き込める説
キラキラ光る石をネズミに投擲する。
そう、門に行く途中小耳にはさんだ情報によるとこのキラキラした石は爆発して炎を出すらしい。
石はまたもネズミを回り込み、着弾する。
だが、ここまではいい。問題は次だ!
爆炎が迸る。砕けた石の破片はまるで虹のよう。巻き込んだ者を傷つける点を除けば一見の価値があると思える。
しかし、着弾地点から湧き上がる火炎の奔流はまるでネズミを抱きかかえるかのように包み込み、一切の傷をつけることがなかった。
「チクショウっ!これも失敗か!」
そして、今度こそ気付かれたようである。
矢を撃ち、爆発物を投げ、それでもなお自分の事を仕留められない愚か者が隠れる岩を視界に捉え確実にこちらのことを睨みつけている。
しかし、これは好都合だ。
仮説③罠ならいける説
罠と言っても簡易的な物であるが、さっきの石を地面に敷いて上着を上からかける。
見た感じ、大した衝撃じゃなくても爆発するようだし、あのサイズの生き物が踏み抜けばまず間違いなく起動するだろう。
準備が終わったので、能力を使い、罠から離れつつ警戒態勢のネズミに無防備な体をさらす。
「ヂュウゥッ!!」
突然の相手の動きに驚いたか、これを好都合と見たかネズミがミサイルのよう速度で駆けだす。
うわーまずいーこーろーさーれーるー
だ、け、ど、
再三攻撃されて頭に来ていたのか、足元の罠に気付かず綺麗に上に乗り罠を起動させる。
、、、さぁどうだッ!
先ほどと同じく、爆発した石は破片と豪炎を散らす。
だが、さっきと違うところが一つだけ。
「ヂュ!?ヂュウウウウウッッ!」
ネズミの断末魔が青空に響き渡る。
「よっしゃあ!」
この能力、罠には適応されないぞ!
これで最悪何かと戦う羽目になっても何とかなるかもな。
、、、もうこの能力を使って積極的に戦う道は残っていなかった。
今日ここに来る時まで持っていた異世界無双の夢は儚く散っていたのである。
別に普通の人でも用意できる程度の罠しか仕掛けられないし、そもそも罠って受動的だしなぁ。
「っと最後に、、、これやっとくか。」
腰につけた鞘から剣を引き抜き、両手で持つ。
一応近接攻撃の挙動も知っておきたい。
まだギリギリ息があるネズミに向かって剣を一閃全力スイングする。
まぁ何というか、想像どおり、剣先がずれてその一撃を地面に叩きつけることになる。
「んまぁそんなもんか。」
剣先の土を払いつつ帰る準備をする。
「ちょっと遠くまで来てたから、走って帰るかね。」
能力を発動して駆けだす、、、と同時に後ろからネズミの体がぶっ飛んで真横を通りすぎる。
「、、、っえ!?」
「ブルルアァァァァァァ!!!」
恐らくネズミを飛ばしたであろうバカでかい猪が唸り声をあげる。
「なんっでこんなのが近づいてきてるってのに今の今まで気が付かなかったんだッ!」
いや、そんな事は後だ!
既に発動していた能力を使って全力で駆けだす。
「とにかく町までたどり着ければなんとかなるはずだ!」
少し距離がある門を見据える。
能力を使えばここをこのまま直進して直ぐ、、、ん!?
ガツガツという蹄の音、バンバンと棍棒を地面に叩きつける音が立体音響で響き渡る。
マズ過ぎる、進行方向にゴブリンの群れが!
石とか剣の音で引き寄せちゃったのかよ!?
横っ飛びをして進む先を急遽変更。
とにかくこいつらを撒かないとヤバい!
ゴブリンは群れを成し、猪は地面を砕きながら迫って来る。
「くっそぉぉぉ!油断したぁ!」
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もうどれだけ走っただろうか、めちゃくちゃに走りすぎて門が、町がどこにあったのかも分からない。
だが、歩みを止めることは出来ない。
もし止めたならその代償は手痛い形で支払われることになるだろう。
いつの間にかゴブリンはいなくなっていた。
時々背後から悲鳴が聞こえていたことから、恐らく猪にひき殺されたり疲労でついてこれなくなったりしたのだろう。
もっと早い段階で居なくなってくれていればすぐに戻ることもできたのに。
もしくは、もっと沢山石を持ってくれば。
もしくは、周りにもっと注意を払っていれば。
もしくは、門番にこのあたりの魔物について聞いていれば
もしくは、、、
「あぁ、くそ。足も腕も何もかも痛ってぇ!」
叫びすぎて喉も痛くなってきた。
それでも、叫ばずにはいられない。
「畜生ぉぉぉぉっ!もっと異世界って楽なもんなんじゃねぇのかよぉぉぉぉ!」