ep5. 一狩り行こうぜ!
「知らない、天井だ。」
気が付いて起きると、知らない天井どころか知らない部屋にいた。
まぁ天井を知らないのだから当然か。
ここは、、、多分スペルギアさんの家かな。
アラメールが帰ってからどうしてたのかあんまり覚えてないけど、多分腰抜かした俺をスペルギアさんが家まで運んでくれたような、そんな気がする。
部屋を見回す。
ベッドの他には、木刀や、盾、綺麗でカラフルな石なんかが置いてある。
こりゃあ多分ヴィーゼ君の部屋だな。確か、彼は戦闘の訓練をしていたはずだ。
それらしいものが沢山ある。
しかし、それ以外の物がなさすぎるな。
いや、現代日本人的感性からパソコンがとか、ゲームがとか言っているんじゃなくてだ。
棚やら机やら普通の部屋には置いてあるような物が置いてない。本当に戦う用の物しかない。
多分、、、あのキラキラした石も触ったら爆発するとかそんなんかな。
魔族への復讐つってもストイックすぎんよ。俺だったら、、、どうだろう。
家族が殺されてたとしてどこまで復讐に費やすか。費やせるか。
いや、何も出来ないかもな。
俺は、能力にもある通り”臆病者”だ。
誰かの為に行動することなど出来やしない。出来たとて何も変えられない。
「さて、と。」
柔らかいベッドの反動を使って起き上がる。
くだらない事考えてないで、取り敢えず部屋から出ないと何も始まらないな。
今日はやりたいこともあるし、さっさと動こう。
金属製のドアノブに手をかけ、扉を開ける。
ふわり、と外の空気が鼻を通り抜ける。
すっげぇいい匂いするんだけど!
焼きたてのパンが出来た時の香りだわ、これ!
部屋から向かって右側にある階段を駆け下り、その嗅覚で匂いの出所を確かめると、
木で出来たテーブルの上にスペルギアさんが目を引くピンク色のエプロンを付けて、焼きたてらしい湯気を纏ったパンと瑞々しいサラダを並べている。
「おはよう。昨日はよく寝られたかい?」
「はい、おかげさまで。」
正直寝ていたというよりも気を失っていたという側面の方が強いんだが。
それはそれとして滅茶苦茶目を引くのが、
「なんかめちゃくちゃ可愛いエプロンしてますね。」
「あぁ、これ。これはアラメール君が日頃の感謝にってくれたんだよ。こんな大人が着てるとちょっと変かな?」
彼は爽やかな笑みでそう答える。
、、、そんないい人感溢れるアラメールがああまでキレるのか、いやぁマジで次会いたくねぇ。
「いや、全然変じゃないですよ。むしろ似合ってます。」
実際、お世辞でも何でもなく、温厚そうな雰囲気にかなり似合っている。というか、元々の素材が良すぎるからかな気もするが、何を着ても似合いそうだ。
「そうかい?それは嬉しいね。、、、と、さて食事にしようか。今日はパンを焼いたからそれと、あと庭でとれた野菜だね。」
「頂いていいんですか!?ありがとうございます!」
「今日からこの家に住むんだから当たり前だろう?好きなだけ食べるといいよ。」
テーブルの前の椅子を引き、座る。
「じゃあ、いただきます!」
「、、、そのいただきますって何だい?」
彼もまた椅子に座りながらそう尋ねる。
「あー、えっと俺の故郷で食べ物やそれを作ってくれた人に感謝を込めて言う挨拶みたいなもんです。まぁ、別に言わなかったからどうとかはないんですけど、言っておかないと気持ち悪くて。」
しばし、彼は啞然とした表情でこちらを見つめてくる。そして、肩を震わせると、
「素晴らしい!そんな慣習があったとは、やはり感謝の気持ちというのは大事だね?
、、、そうか、いただきます、か。是非、今日から見習わせてもらうよ!はは、今まで私たちにそういう文化がなかったのが恥ずかしいくらいだよ!」
別に自分が作った言葉じゃないけど、ここまで褒められるとちょっと嬉しいなぁ。
「「それじゃあ改めて、いただきます。」」
椅子の目の前に置かれているパンを手に取る。
柔らかい上、もちもちしていて美味い!元の世界の物と勝るとも劣らない味だ!
この前クッキーを食べた時も思ったが、この世界の料理のレベルかなり高いな。
やっぱ料理無双とかは難しいかー。
まぁ、もとより料理なんて出来ないが。
「そういえば、君は何処の人なんだい?さっき故郷と言っていたけど、少なくとも僕の知っている中で、”いただきます”という挨拶がある国を知らないんだよ。もしよければ教えてくれないかい?」
よくよく考えると名前以外自分のことについて殆ど喋っていなかったな。
さて、どう説明するべきか。
「えーと、俺は”日本”という国から来ていて、突然この、、、ヴィーゼ君の体に精神だけ入っちゃった感じです。これはただの予想なんですけど、多分元々俺がいた世界とこの世界は別の世界なんじゃないかなって思ってます。」
「颯人君、君はもしかするとすごい人物なのかもしれないよ?」
「と、いうと?」
「この前話してたけど、途中で終わってしまった勇者の話の続きをしようか。簡単に纏めると、その勇者という人物は彼曰く”日本”という国から来たといい、その絶大な力を持って魔神を倒したという話があるんだ。しかも、君と同じように、他の人に憑依しているんだ。多分君はそこ出身なんだろう?もしかすると他の人にはない圧倒的な何かを持っているのかもしれないよ。」
、、、絶対それ転生者だろ。
でも、出来れば会って話をしてみたいな。
「その勇者は今どうしているんですか?」
「魔神を倒すと同時に元の世界に帰って体は元の持ち主に返ったらしいよ?まぁ魔神の所なんて、行くことすら常人には出来ないから、真相は分からないんだけどね。」
もう帰っちゃったのかよ!
「ちなみにそれってどれくらい前の話なんですか。」
「大体、200年前位かな?」
じゃあ、なにかまかり間違って帰ってなかったとしても絶対死んでるじゃないですか!
折角同じ日本から来た同士として話出来ると思ったのになぁ。
まぁ、この世界の平均寿命とか分らんけど。
、、、気が付いたら卓上に置いてあったパンやサラダが無くなっていた。
集中しながら話を聞いていたせいで気づかぬ内にたくさん食べていたらしい。
スペルギアさんが机に手を置き立ち上がる。
「さて、美味しかったかい?」
「はい、とてもおいしかったです!ご馳走様でした。」
「それもまた、君の国の挨拶なのかな?今度も、食べ終えた食材や作った人への感謝なんじゃないかと思うんだけど、どうかな。」
「その通りですよ。食べる前のいただきますと食べた後のごちそうさまでワンセットです。」
「なるほどね?じゃあ、僕もごちそうさまでした。」
元の世界との交流の機会を惜しみつつ、今日やりたかった能力の詳細の判明に挑戦していきたい。
俺の予想というか、前の世界での知識だが、、、
「すいません、スペルギアさん。この近くに魔物がいるところってありますか?」
「この家を出て、左に真っすぐ行けば大きい門があるからそこを通って草原に出ればゴブリンとか弱めの魔物がいるはずだよ。昨日の能力を試したいのかな?ゴブリンだって弱いとは言え、結構殴られたら痛いんだから、気を付けるんだよ。」
やっぱり、始まりの町の近くには弱い魔物が付き物だよなぁ!
「ありがとうございます。それと、あと部屋の中にあるものって持って行ってよかったりしますか?」
出来ればああいうのをがあると嬉しいんだが。
「うん、まぁそうだね。持って行っていいんじゃないかな。一応君もヴィーゼ君なわけだし。あの武器達だって使ってくれる主人がいた方がうれしいだろうからね?」
「ありがとうございます!じゃあ、早速今から行ってきます!」
「うん、行ってらっしゃい。くれぐれも怪我と、能力で周りに迷惑をかけないようにね?」
スペルギアさんがそのセリフを言い終わるころには俺は既に階段を駆け上り、部屋の前に着いていた。
「ヴィーゼ君、君の装備借りてくぜ。」
部屋に入り、目に付いた武器を拾っていく。
剣、弓に矢、あとなんか光ってる石。
仕上げに枕元に置いてあった如何にも冒険者という感じの皮で出来た服を着て、、、OK。
「じゃあ、一狩り行こうぜ!」