ep.4 彼の少女、、、
「あれー?ヴィーゼじゃん!まだいたんだ!どうだった!?能力貰えた!?」
ふわふわした金髪のボブに、コバルトのような蒼い目、白く綺麗な八重歯、黒地に赤のラインの入ったかなり短いスカートと半袖は、彼女の活発な性格を表しているようだ。そして、同じく黒のハイソックス。流石異世界というべきか、元の世界ならウン千年に一人とかそんなレベルの美少女だ。
多分ヴィーゼ君の友達なんだろうけど、、、この状況どう説明すべきか。
「彼ね、能力付与の副作用で記憶を失ってしまったんだ。だから、まず自己紹介してもらえると嬉しいな?」
すかさずスペルギアさんがフォローを入れてくれる。対人能力が終わっている俺の代わりに、、、っ!
ありがてぇ、、、
「そんなことになってたの!?そっか、じゃあ改めて自己紹介するね!私はアラメール=サイルス。ヴィーゼ=ウィンディアの一番の、、、親友!好きなことは、ヴィーゼと一緒に居ること。今日は能力付与をしてもらいに来たよ。よろしく!いえーい!」
「補足すると、彼女は君と同じく僕が引き取った子で、君とは5年前に出会っているよ?年頃の女の子だからね、僕の家じゃなくて、こことはちょっと離れた別の家を渡している感じ。」
本当にイメージの通りの快活な少女といった感じだ。
目がキラキラしてて本当に可愛らしい。もし漫画なら目の中にダイヤ柄が描かれる位だ。
でも、能力をもらいに来たってことは、この少女然している見た目で20歳になってるのか?
よくわからんけど取り敢えず返答しないと。
「うん、よろしく。」
二コリ
なんで俺はこんなゴミみたいな反応しか出来ねえんだああああ!!
いや、確かに元の世界でも暫く人と喋ってなかったし、この世界での俺の立ち位置もまだはっきりしてないし、なんて言えばいいのか分かんないってのもあるからまぁしょうがな、、、くはねぇよなぁ。
「何回か言ってるけど、アラメール君はもう能力持ってるからね?」
俺が自己嫌悪に陥っていると、スペルギアさんが笑顔を崩さずそう告げる。
「いやいやいやいや、そんなわけないじゃないですかぁ!だって私まだ15ですよ?能力が貰えるのって20からですよねぇ。スぺさんはまったく、私を子供扱いして!」
「じゃあもし持ってなかったとしても駄目なんじゃね?」
思わずツッコんでしまう。子供扱いというか、まごうことなき子供である。
「だってぇ、ヴィーゼと一緒に能力もらいたかったしぃ、、、」
アラメールは涙目になって呟く。めちゃめちゃかわいいな!いや、ロリコンではないが。しかも15はロリではないはず、多分。
「まぁ、能力付与は出来ないけど、せっかく来たんだ。クッキーでも食べていかないかい?」
いつの間にかスペルギアさんの手の中にクッキーの袋が!
この人の能力、クッキーを手の中に持ってくる能力なんじゃないか?
「まぁ貰うけどぉ、、、うわ、おいしっ!」
「あ、じゃあ頂きます、、、うわ、うまっ!」
ふんわり漂うバターの香りが口の中を満たす。まるでデパ地下の高級お菓子みたいな味がする。
正直、異世界の料理って黒パンと干し肉位しかないもんだと思ってたが、これは予想外。
「、、、君たちは本当に仲がいいなぁ。もっと食べていくかい?」
またいつの間にか彼はクッキーを持っていた。しかも今度はミルクも一緒だ。本業マジシャンの方?。
差し出されたクッキーを食べながら、俺はアラメールの事について聞いていた。
「私の事を見つけてくれたのはヴィーゼなんだよ!教会の近くの道で倒れている私を運んで、スペさんに"彼女を助けてくれ"ってお願いしたの。かっこいー!」
「あの時は驚いたよ?買い物に行ってくるって行って帰ってきたら、ボロボロの女の子を抱えてるんだから。」
「しかも、アラメール君は今の君みたいに記憶を失っていてね?どうしてそこに居るのか、どこからそこに来たのか、何も分かってなかったんだ。唯一分かってたのは自分の名前位じゃないかな?」
「そんなに大変な状態だったのに、こんなに明るい性格になるの凄いですね。」
昔のトラウマが原因で引きこもってた俺的には、その状態から復活しているのはマジに凄いと思う。
「いやーもう、ここまで諦めずに育ててもらえて感謝感激雨あられだよー!」
アラメールの目がきらめく
「俺と彼女、、、アラメール?でいいのかな、との関係はどんな感じだったんですか?」
それが分からないと、どう接して良いのか分からん
「、、、」
アラメールが喋ると思っていたが、何故か押し黙ってしまった。
ヴィーゼっぽくなかった?
いや、不自然な所はなかったはず。記憶がなくなった者としての至極普通の対応。
まぁ、そもそも別人である事がバレても説明が死ぬ程面倒なのと、アラメールが恐らく、めちゃくちゃ悲しむこと以外なにも起こらないと思うが。だとしても流石にかわいそうだ。何か策を考えてから話がしたい。
彼女が話さない事を察すると、スペルギアさんが話だす。
「ヴィーゼ君とアラメール君の関係か、、、正直、僕も深くは知らないんだけど、とても仲のいい親友といった感じだね。年はまぁまぁ離れてたけど、特に気にしている様子は見られなかったよ?」
「例えば、、、2人で木刀を使って模擬戦をしたりしていたね。二人共剣術のセンスがあったから、中々見応えのある勝負になっていたよ?衛兵団の人が近くによった時なんかは『二人にはいつか入って欲しいなぁ』なんて言ってたね。」
思ったよりヴィーゼ君凄かったんだな!
いや、衛兵団の人たち、、、まぁ警察みたいなものかな?の強さが分かんないからお世辞かも知れないけど、実際、この世界に来てから有り余る力が爆発しそうだぜ!って感じだし多分ほんとに凄かったんだろう。
攻撃が出来なくなった今となっちゃ剣術などあってもまともに使えないのだが。
「まぁそんなとこかな?」
「、、、」
「あー、もう暗くなって来ちゃったね。私、晩御飯の用意もしないとだし、もう帰るね!」
アラメールがそう告げ、走り出す。ステンドグラスを見ると、確かにその美しい虹の光が弱まっている。かなり長いこと話していたようだ。
「っと、その前に」
急停止をかけ、俺の傍に来て、耳に口元を寄せてくる。
「明日も会いに行くからね?」
背中に冷や汗が流れる。
、、、今なんて言った?いや、わかる。わかっている。わかってしまった。
「この偽物が、、、」
って言われたんだろ?
親友にかける言葉にしては冷めきっている。いや、初対面の人にだってあんな声色は出さないだろう。まるで、親の仇に憎悪をたっぷり込めた言葉を放つかのような、恐ろしいものだった。
もし俺が別人であることがばれたらアラメールが悲しむ?説明が面倒?俺はアホか!?
親友が、、、いや、あの口ぶりからするとただの友人とも考えにくい。おそらくアラメールはヴィーゼに恋していたのだろう。そんな人を別人に乗っ取られて平静でいられるはずがない!
あのセリフには、、、いつでも俺を殺してやるという気概があった。
その呪言を残すと、彼女はそのまま走り去っていった。
「なんなんだよ、、、俺にどうしろってんだよ、、、」
俺はそのまま教会の床にへたり込む。
「──────」
スペルギアさんが何か声をかけているようだったが、俺の耳は今、右から左への直通便しか運航していない。
こんな突然異世界に送り込まれて、ただこの世界について聞いてただけなのに理不尽すぎやしないか?
不可抗力だし、回避不能。
そもそも、ただの引きこもりのニートがこんな殺伐した世界に送られる事自体間違っているんだ。
元の世界にいた時の俺なら、『ちょっと切れられただけで何を言ってんだ』とか言うかもしれないが、そりゃマジに殺気の籠った言葉を聞いたことがなかっただけだ。
あは、は。明日が怖え、、、。
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