ep.3 宇宙駆ける臆病者
自分がここに居る理由を探るという目的をほっぽり出して、異世界を楽しむ事にシフトした、俺こと草原颯人は今、一世一代の大勝負(2回目)に挑もうとしていた。
俺がここにいる理由は後で確認するし、大丈夫大丈夫。
「じゃあちょっとここで待っててね?」
俺はめちゃくちゃデカいステンドグラスの前に立ち、奥の部屋に準備をしに行ったらしいスペルギアさんを見送る。
改めて見てみると、今更ながら、この教会の荘厳さに圧倒される。教会自体も学校の教室8つ分位のサイズ感があり、その細部に黄金の細工が施されている。特に、女性の横顔の形に切り抜かれた物がステンドグラスとは真逆、つまり入口らしき扉の上に設置されており、その美しさは他と一線を画していた。
引きこもしていた時には絶対関わることがなかったこういった物を見ると、異世界に来た実感が湧いてくる。
しかも異能貰えるって最高すぎないか?
「いやー、しかし絶対チート能力貰えるよな〜!だって俺転移者だし。やっぱ異世界転移・転生は最強スキルとか貰って初めて始まるみたいなとこあるし。もし選べるなら重力系とか強いイメージあるからめっちゃ欲しいな!後は、時間操作系とかか?『時よ止まれ!』とか人生で一度は言ってみたいセリフだろ!」
「でも、デメリットってマジでなんなんだ!正直それが怖すぎるんだが!?どんな!?使ったら3日以内に死ぬとかですか!いや、でも俺のキラキラ☆異世界ライフにはここで得られる能力は必須と言える。取らない訳にはいかないだろう!もし戦闘面で強いの出たら、居るか知らんけど魔王とか討伐してウハウハライフルートかぁ!?」
頭をグワングワンさせ、期待と不安を混ぜた情緒不安定すぎる挙動をしながら一人でそんな事を呟いていると、
苦笑いしながら分厚い本と、ハンドベルサイズの鐘を携えたスペルギアさんが入ってきた。
恥ずっ。
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「、、、最後に確認しておくよ。この能力付与は一度付けたら戻すことが出来ない上、酷い能力が常時発動し続けることもあるんだ。例えば、聞いた話だと、《一生あらゆる痛みが10倍》とかね。だから能力を自ら持たない選択をする人もかなりいる。それでもやるかい?」
スペルギアさんが真剣な眼差しをもってそう聞いてくる。
当然YESだッ!怖くないと言えば噓になるが!
「はい、お願いします!」
自分の口から出たとは思えないハキハキとした声が出る。
彼は、その返答に満足したような笑みを浮かべると、
「分かった。じゃあ儀式を始めるよ。でも、君は特に何もしなくていいよ?」
その手に持った本を開きつつ、鐘を胸の前で小さく振る。
カァ─────ン
動かした幅のわりに大きすぎる音が響く。
と、同時に胸の中がじんわり熱くなる。神様が魂の方向性を調節するらしいけど、今がその状態なのだろうか。
「我らが聖神イル・サリスよ、神の音を聴き、自らの目標の為にこの場に参じた二つの面を持つもの、彼の新しき目覚めによる加護を、恵みを──恩寵を。」
胸の熱が、その本来の姿を取り戻す。
表出していた燻る炎は姿を消し、胸の奥に灼熱の火球が宿ったように感じられた。
「さて、これで能力付与は終わりだよ。こんな事神父の僕がいうのもなんだけど、教会の、神との繋がりという権威を保つ為に、本当はもっと長い儀式をするんだけど、颯人君は正直興味ないだろう?
引き出された能力とその名前は何となく自分でわかるはずさ。」
地味に有難い気遣いをされつつ、その”何となく”とかいう漠然ととした能力の外形を探る。
《宇宙駆ける臆病者》
自らに掛かる重力を0~1倍の間で調節出来る。
ただし、直接的に攻撃が出来なくなる。ただし、これらの効果は永続である。
、、、なんというか微妙。
いや確かに嬉しいよ?すげえ嬉しい。でもなーんか渋いよなぁ。自分の重力を操るとこまではいいさ、進〇の巨人の立体機動装置みたいにアクロバットな動きをしながら敵を屠るみたいなね。
んでも、直接攻撃できないんじゃどうしようもねえや。弓みたいな遠距離攻撃なら通るとか?
あ、それあるな。今度試そう。
「どんな能力だったかな?」
スペルギアさんが笑顔で聞いてくる。
なんともいえねぇ、、、
「うーん、まあそういう事もあるさ。切り替えていくのは難しいかもしれないけれど、悲観することはない。僕たちには神様がついているからね?いつ何時でも善行を積んでいれば、彼の神はいずれ救ってくれるものさ。」
何にも言っていないのに、いかにも神父らしいセリフで励まされてしまった。完全に顔に出てるな、、、あ、そうだ。落ち着いたら思い出した、俺の来た理由がこの能力付与にあるかもしれないんだったか。
「すいません、この能力付与が俺がここにいる理由になるかもしれないというのは、、、?」
「あぁ、元々はその話だったね?結論から言うと、君は能力のデメリットそのものかもしれない。」
は?
俺が、デメリット?いやいや、確かに家では穀潰しと言われたことはあったけど、ここで言うデメリットってそういう事じゃないだろ?
「つまり、その体の持ち主であるヴィーゼ君が何かの能力を行使した時の代償が、”人格が誰かの物と入れ替わる”というものだった可能性さ。細かいところまでは分からないけどね?」
俺がデメリットそのものってそういう事かよ、、、
まあ、でも、あれだ。今の俺にはどうしようもないってことが分かっただけでも収穫だ。
「ほかに何か聞きたいことはあるかい?」
「よくよく考えてみると儀式を受けたってことは、もうヴィーゼ君も20歳なのに保護者とかいるんですね。」
「ほんとは今日で成人してるから独立するものなんだけど、君、今すぐ独立出来ないだろう?」
あ、そりゃそうか。マジで有難い気遣いだわ。
他に聞きたいことは───
「さっき言ってたデメリットについての伝承って何なんですか?」
「伝承についてね?えーと、どこから話すべきか、、、よし。昔々、我々人類の信仰する聖神と、魔族が信仰する邪神がいました。最初、両者の治める土地は殆ど同じ大きさでした。ですが、邪神は大変な暴れ者で、人類が住む土地の作物を枯れさせたり、水を毒液に変えたりと、聖神の土地にちょっかいをかけ、奪い、気が付いたら大きさが倍も違っていました。ある日、邪神の暴挙に我慢がならなくなった聖神は、邪神と戦うことにしました。結果は引き分け。ですが、彼らの力は圧倒的で、その戦いの時に、大地はめくれ上がり、砕けました。両者ともに領土は大切に思っていたので、流石にそれは良くないと思ったのでしょう。両者とも自らの代わりに、自らを信仰する人間、もしくは魔族を遣わして戦わせました。」
「聖神はその際に、強力な異能を人類に与える魔法を作り出しました。その祝福は強力で、元々力や生命力の高い魔族と互角以上に戦えるようになる代物でした。邪神はその存在を鬱陶しく思ったのでしょう、聖神の作った魔法に、それを使う上で最悪な副効果を付ける術式を施しました。元あった魔法に複雑に絡み合った術式は聖神を持ってしても解くことが出来ませんでした。さらに、邪神は聖神の作った魔法を複製し、強化し、自らの魔族にも施しました。ですが、魔族はその様な卑劣なことをしたツケが回って来たのでしょう。強力すぎる魔法に耐えきれず、自分の元の体の形を保てないものが多く現れました。それが今の魔物なのです。」
「って感じだよ?」
彼はふぅ、と息をつくといつの間にか持って来ていたミルクを口にする。
、、、つまり邪神とかいう魔王みたいなのがデメリットを付けたと。デメリットについての伝承っていうか魔物のルーツについてのものだった気がするがいいでしょう。
ただ、気になることがひとつ
「その、聖神や邪神はその後どうなったんですか?」
「聖神は寿命で、邪神は”勇者”に討たれて死んでいるはずだよ。」
勇者!?気になるワードすぎるな!
「えーと、勇者ってn「すいませーん!!!まだ能力付与の受付ってやってますかー!?」
金色のボブを揺らしながら、物凄い勢いで一人の少女が入って来る。
「あれー?ヴィーゼじゃん!まだいたんだ!どうだった!?能力貰えた!?」
「取り敢えず、この話はまた今度になりそうだね?」
スペルギアさんは肩をすくめてそう言った。
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