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デメリットは異世界を進む!  作者: かあきどん
第一章 宇宙駆ケル臆病者
1/7

ep.1 間に合わない!

これが人生初めての小説になります。

色々拙い所もあると思いますが、暖かい目で見てもらえると嬉しいです。

コメントなんかしてもらえたら嬉しすぎて泣きます。

では、楽しんでいただけると幸いです。

「畜生ぉぉぉぉっ!もっと異世界って楽なもんなんじゃねぇのかよぉぉぉぉ!」


俺は、間一髪で軽自動車サイズの猪の突進を避けながら、だだっ広い草原の上に鎮座する重苦しい曇天の空に今日何度目か分からない絶叫をぶつけていた。


これが青空だったならギャグシーンの一幕で済んだかなぁ、、、と他愛もない事に思考を巡らせるが、真後ろの脅威は現実逃避を許さない。


直ぐに意識を脚に持っていき、


駆ける驅ける駆ける驅ける駆ける驅ける駆ける!!!


一呼吸分でも止まればその巨躯にブチ抜かれるかなんかして死ぬ。

まだ足の感覚が馴染んでいないが、そんなことを気にしている余裕はどこにもない。


理性が働くより先に本能が「止まるな」と言ってくる。 


「とはいえ体力ももう持たねぇぞ、、、!」


「ヴオオオンッッッッ!!!」 

真後ろで猪の鳴き声が轟いた


命を砕かんとするその咆哮に、足の巡りがワンテンポ遅れる。元の世界での事ではあるが、緩慢に、しかし着実に無駄に、蔑ろにしてきた"時間"は執行猶予を与えない。


このワンテンポが命取りだ。


「ヤバッ、、、あ!?」


ふむ、こうして見るとこの世界もなかなか悪くないな。

瑞々しい緑の空に、まるで青空のような大地。あそこにいる猪など面白い事に空に足をつけているなぁ。

 

あれ?


混迷を極めていた脳が平常を取り戻す。と、同時に高速で頭に血を送りだし、ようやくぶっ飛ばされたことに気がついた。


足が縺れた一瞬の隙を突かれたのか?いやそんなことはどうでもいいここからどうするかだ幸い勢いよくふきとばされたお陰で猪とは距離があるこのまま着地と同時に走り出すか?いや駄目だ着地の時に足が下になってるとは限らないならこのこのまま勢いに任せてとりあえず距離をとるしかないいや着地して体が無事とは到底思えないどうすればいいどうすればいいどうすればいい大丈夫だ落ち着けまだ地面までは距離があるはずその間にぉっ


───視界が深緑でふさがれた。


もう地面に着いたのか!?早すぎる!


この世界の最期の気遣いか、情けか、そこまで背の高くない筈の草原は俺を優しく抱きとめてくれた。


歩みも止まり、思考も止まり、体の節々が炙られているかのように痛みだす。こんな痛みは生まれてこの方味わったことがない。まあ、そもそもこんな命を賭けて行動すること自体一度もしたことがないので、すべての出来事が生まれてこの方味わったことがなくて当たり前である。


「あぁックソッ痛てぇ、最近よく落ちるなぁ、、、大地に、ゲホッ愛されてるんかね」 


軽口で気を紛らわそうとするが、そんな程度で誤魔化されてくれる程の小さな出来事ではない。

もう走れない、直に猪が来るだろう。

あの馬鹿みたいにデカい蹄の土を削る音が段々大きくなってきた。

実際のところは視界は霞んで何も見えない上、激痛が全身に覆い被さっているせいで、聞こえてくる音すら耳鳴りか本当に音がなっているのかも分からないのだが。


唾液と血となんだかよくわからんものが混ざり合った液体が首の下を伝う。気持ち悪い。


「っ、、、」


もう声も出ない。ただ自分のした事の軽慮さを呪うことしか出来ない。その思考すら痛みに絡め取られて上手く稼動していない事がぼんやりとわかる。


それはある意味救いでもあった。


誰が自分の死ぬ姿を想像したいというのだろうか。


"もっと時間があったはず"だとか"こんなことなら現世の方がマシだった"とかいう考えも、もう無かった。


ただ 


「死にたく、、、ない、、、」 


とだけ───


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


春も少しずつ近づいて、心地のいい睡眠、、、もとい惰眠を貪っているところに、


ピンポ〜ン


「宅配でーす」


「来たッ!」


部屋のベッドから飛び起き、板張りの床を裏返すかの如き踏み込みと勢いで駆け出す。もう新しくないこの家は一歩足を叩きつける毎にギシギシと不安になる悲鳴を上げている。


だがそんなことはどうでも良いッ!

私、草原颯人、20年生きて来て、一世一代の大勝負。

まともな飯を食べていないせいでガリガリの体を全力で動かして無駄に長い廊下を駆けていく。

負ければただでさえ狭過ぎる肩身が圧殺or粉砕されて死ぬ!勝てば念願の「アレ」が手に入る!


「とにかく家族の誰かが引き取る前に俺が出なければ!」


「颯人〜?あんまりドタドタやらないで〜。宅配の人来てるからぁ」


廊下に2階にある俺の部屋まで届くように言われた、間延びした声が鼓膜を揺らす。


マズいぞこれは、、、


「ちょっ、母さん!俺が出るかr

「はぁい、すいませんすぐ出ま〜す。風香〜?印鑑持ってきてくれる〜?」


母親がもう玄関まで来ている。

脚の回転を更に上げないと、確実に死を迎えてしまう!

より一歩一歩に力を込めていく。より家の悲鳴が大きくなる。悪い!今度心を込めて掃除するから!今だけは許してくれ。


「ちょっと兄貴!うるっさい!」


不機嫌極まりない怒号が、階段を下ろうというところで耳を突く。

風香も母さんと一緒にいるのか

ほう、わしに死ねというんじゃな!


待ちに待った「アレ」、「かけひき(限定版)」。パッケージ表のムフフな絵柄を裏切らない勝利演出と、それに反しためちゃくちゃ強いcpuのストイックさが話題を呼んだ格ゲー。

ただ、うちは俺以外ゲームをしないので、そんなことは誰も知らない、つまり見つかったら表だけで判断されて大変な事になる。家族会議必至。俺引きこもりだし。


引きこもりの家庭内ヒエラルキーの低さたるや尋常ではない。ゲームを買っただけでも相当嫌な顔をされるのに、エロゲーときたら想像するだに恐ろしい。

しかも、絶賛反抗期中の妹、風香まで居ると来た。

ただでさえ最近は当たりが強いのにそんなことになったら次の日には料理に毒でも盛られている。


そんな焦りから、

「あっ!?」

階段を踏み外した。


いや、踏み外したという表現は正しくない。

どちらかと言えば、階段から飛び降りたという方が正確だろう。


ただ、俺に飛び降りるつもりがなかったことを除けば。


勢いをつけすぎた体は一切の制御を受け付けず、ただただ落ちていくことに全力を注いでいるようだった。


だが、その行為を受け入れる訳にはいかない。このまま落ちて、もし骨折でもしようものなら、ただの引きこもりから、エロゲーの為に骨折までした馬鹿にクラスアップしてしまう。そんなことになればもうこの家には居られない。


「俺はまだ自立するつもりはねぇぇぇぇ!」


酷すぎるセリフを吐きながら、なんとか綺麗に着地出来ないか試みる。 

捻り、曲げ、足を下に、つま先、かかと、膝を揃え、着地と同時に体から衝撃を逃せるように構える。五点接地というやつだ。

やったことはないけど動画で見たことあるし、多分出来るんじゃなかろうか。


、、、というのはネットに入り浸っている者によくある勘違いで


グキッ


「ぐあっ、ぐぅぅ、いっづッぅ!」


当然と言えば当然な結果といえる、が同時に最悪な結果でもある。俺は美しい一直線な体勢で地面に着地し、威力を逃せずに膝やら腰やらが折れたんじゃないかという位のダメージを負った。思わずその場に崩れ落ちる。切り揃えられていない無精ひげが床を掃除する。


俺がそんな馬鹿をやっている間にも母さんは荷物を受け取っていて、風香はこっちを睨んでくる。階段から直ぐの玄関を眺める事しか出来ない、、、わけじゃない!


「やっ、やめろおおおおお!見るんじゃねぇぇぇえ」


俺は渾身の叫びをあげる。絶望と痛みも相まって死にかけの老人のような掠れた声しか出なかったが。願いは届いたッ!


母さんが段ボールを開ける手を止めた。


「なぁに隠してんだよ!」


風香が横から取って開けようと手をかける!

間に合わない、、、!


「颯人?床に何かした?」

「兄貴、、、なんだそれ」


終わった。終わってしまった。

風香のヤツめぇぇぇぇ、一生恨むぞ!

畜生!もう今、家にトラックが突っ込んできて異世界にでも行けたらなぁ!

、、、床?

なんか光ってない?今へたり込んでいる床が


え?


よくある魔法陣の見た目を呈した光が俺の足元を囲んでいる。その光は煌々と、俺の薄く髭を生やしたままのパッとしない顔面を照らしていた。どうなっているのか確認するために、殴られるような痛みに悶えながら這い出そうとする。


魔法陣はまるで意思があるかのように、俺が魔法陣から抜け出すより先に輝きを増して、光線を鳥籠のような形に形成する。それは美しかった。だがその美しさは、死刑囚に最期の晩餐を出すような手向けと同じようなものかと思えるような不吉なものでもあった。


まぁ、その餞別も殆ど見られなかったが。

俺は輝きが増すとほぼ同時に思考が吹き飛んで視界が真っ白になっていた。気絶をした事は3徹した時位なものだが、今回はそれにかなり近しい状況であった。


「はぁぁぁぁ!?ここ何処だよぉぉぉぉ!?」

眩しさに目を眩ませながら目を開けると、俺は全然知らない場所に来ていた。 いつか教科書で見たような、荘厳な雰囲気を湛えているステンドグラスや、正にRPGとかライトノベルで出てくるような優しそうな神父さま。そして、そこが教会であること、その規模を示すべく鎮座している宣教台。

それらが平然と、ここ5年位家から10歩と出たことのない引きこもりの目の前に存在し、異質なのはこちらであると言わんばかりの堂々さで佇んでいる。


そして、周りには自分より少し若いだろうかといった感じの子供達がいる。特筆すべきは、状況ではなく、その容貌である。ケモミミといいますか、獣人といいますか、やけにもふもふしている子供も中に点在していた。


浅い知識の上ではあるが少なくとも、自分の知っている中ではこんな種族の人間はいなかったはず。


これらの要素や、転移前の状況を統合すると、なるほど


───つまり、ここは異世界ということになる。

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