昼下がりのお喋り
「仕方ないから一度だけ許してやることにした」
「「えっ、」」
とある日の昼下がり。
イリナとセィラはまた店を訪れ、惣菜を買ったついでに店内のテーブル席でお喋りが始まった。
ちなみに今日イリナが買い求めた惣菜はイワシとオリーブのオイル煮で、セィラが購入した惣菜は林檎がアクセントのフレッシュリーフサラダだ。(毎度あり)
そしてお喋りのお供にと注文したカルダモン入りのコーヒーをブラックで飲みながら、冒頭の言葉を告げたのはイリナである。
その言葉に以前のようにまた声を揃えて驚いたアユリカとセィラ。
その反応は至極当然と肩を竦めるイリナが二人に言う。
イ・「どうやらね、アイツは媚薬を盛られたみたいなの」
ア、セ・「「えっ、」」
イ・「飲んだ酒の中に知らない間に混入されたみたいで。酒瓶と一緒に小さな薬瓶も転がってたからおかしいと思って調べてみたのよ。そしたらそれが即効性の媚薬だったとわかって……」
セ・「じゃあ浮気はその薬物のせいだったということ?」
イ・「まぁ……そうなる、かな。媚薬が原因だうがヤっちゃっことは確かなんだけどね……」
ア・「でも、許すことにしたんですね」
イ・「なんだかそれで別れたら負けたような気がして悔しくなっちゃって……ま、あの女は許せないから、指紋がベッタリ付いた薬瓶と一緒に自警団に告げ口してやったけどね」
ア・「じゃあ薬瓶が証拠品となって捕縛されますね」
イ・「うん。ざまぁみろだわ。……あとアイツがずっと泣いててね……私に捨てられたら死んでしまうって……泣いて泣いて、可愛いの」
セ・「それで絆されちゃったのね」
一瞬脳内に、
「そらヒモが捨てられたら言葉通り生きてはいけんわな」という誰か(読者)の声が聞こえたような気がしたが、あまり聞き取れなかったアユリカである。
イ・「まぁ初犯だし?本意ではなかったようだし?私にメロメロだし?一回くらいは許してやってもいいかな~なんて。まぁ……惚れた弱みよね」
そう言ってイリナはコーヒーをぐびっと飲み干した。
そしてカップを置いて、セィラに視線を向ける。
「貴女のところはどうなのよ?まだあのブラコン義妹は居座ってるの?」
イリナの言葉に今度はセィラが肩を竦めた。
「先日、みんなに店で会ってから2日後に帰ったわ」
「良かったわね、新婚家庭なのに義妹にウロウロされるって、不気味じゃない」
「不気味……」
アユリカは言い得て妙だと思いつつ、ちらりとセィラの方へと視線を向ける。
セィラは困った表情で笑みを浮かべていた。
「でも、ラペルはそう思ってないみたいで……」
「セィラさんはちゃんと自分の気持ちを彼に伝えてるの?夫婦の時間を大切にしたいからあまり家に来ないようにと義妹さんに伝えて貰ったら?」
イリナがそう言うと、セィラはさらに困り顔になる。
「それとなくやんわりと言ってみたの……せめて滞在はひと月に一度、長くても二泊三日程度にして欲しいって……」
その言葉にアユリカは引っ掛かりを覚え、セィラに尋ねた。
「毎月来てるのが驚きなんですが……それでいつもはどくらいの頻度で居座る…コホン、滞在するんですか?」
「いつもだいたい月に二度ほど来て、一週間は居るわね……」
「それって月の半分は家に居るってことじゃないですか!」
「ないわーー……」
アユリカとイリナの反応にセィラは大きく嘆息する。
「私もそれが異常だとようやくわかってきたわ……まぁ私は勤めがあるから日中は家にサーニャさんと居なくて接点を持たなくていいというのが救いね」
「自分の家なのにおかしくない?ていうか旦那、妹だからって甘やかしすぎよ」
「大病を患った期間が長かったから、甘やかす癖がついてるみたいなの。それしてそれを変だとは思ってないみたいなのね……」
「カーーッ!妹が妹なら兄も兄なわけね!」
「困りましたね……」
その後もなんとか打開策はないものかと三人で頭を付き合わせて考えるものの、東方の言葉で言う“三人寄れば文殊の知恵”とはならなかった。
が、セィラの妊娠が判明することにより、事態はさらに深刻さを増すのであった。
セィラとイリナのお話。
書いてみたい案件ではあるものの、タイトルをつけてヒロインとして描くほどでもないなと思い、登場人物として書かせて貰うことにしました。
一作品で三度美味しいと思ってお付き合い頂けますと幸いです。
アユリカとセィラとイリナの行く末を、見届けてやってくださいませ。
そしてそろそろ、奴が出てくるんじゃないかな~?