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アユリカの心情

「アユ、買い出しか?荷物持ちに着いて行くよ」


「ハイゼル、今日はお休みなの?」


「ああ。俺は副司教様付きだからな。副司教様が私用でたまに休まれる日は漏れなく非番になるんだ」


「そう。でも悪いわ。せっかくのお休みなんだから家でゆっくりするか、やりたい事をすればいいのに」


「アユを手伝う事が俺のやりたい事だ」


「……」



懺悔と告白された日から、

ハイゼルはぐいぐいアユリカに構うようになった。

毎日惣菜を買いにくるのはもちろん、休みの日にはこうやって開店前からポミエに来ては、あれこれアユリカの手伝いをしようとする。


ハイゼルが予科練学校に入学する前のような関係に戻れて、嬉しいような戸惑うような。

片想い(ではなかったが)期間が長かった上に失恋したと思っていただけに、アユリカは複雑な気持ちになってしまう。


(私は……どうしたいのかしら。自分でもよくわからないわ……)


今の状況が嫌なわけではない。

ハイゼルに好きだと言われて嬉しくないわけがない。


だけど独り立ちをして、精神的にも自立してからというもの、以前の自分が如何(いか)に子どもじみていたのかがよくわかる。


ある意味恋に恋していたところもあると、冷静に自分を客観視できるようになっていた。


(まぁそれでも彼の顔を見たら、やっぱりまだ好きなんだと気付かされたんだけどね)


以前のような盲目的に恋心を募らせるようなことはないが、それでもやっぱりハイゼルが好きなんだとアユリカは思う。


それなのに素直になれない自分がいる。


諦めた恋が今さら追いかけてきた事への戸惑いが隠せない自分がいる。


あんなに一緒だったのに。

それがある日ハイゼルは突然離れていき、そしてアユリカを遠避けた。


その事を悲しみ、涙したかつてのアユリカが(ヘソ)を曲げているのだ。


そんなアユリカの心情がハイゼルにも伝わっているのか、彼は決してそれ以上踏み込もうとはしなかった。


外側から真綿で包むように。直接アユリカには触れずに、付かず離れず側に居るといった感じである。



そんなアユリカとハイゼルを、イリナもセィラも生暖かく見守っているようだ。


ポミエに頻繁に現れるようになった新人聖騎士の存在は瞬く間にご町内の知るところとなった。

そして当然、興味を示したイリナとセィラに根掘り葉掘り訊かれたわけなのだが。


アユリカが単身この街に来た詳しい理由もそれで理解した上で、イリナとセィラはアユリカの思うままに行動したらいいと、今の複雑な気持ちを肯定してくれた。


セィラの夫ラペルも聖騎士であるので、ハイゼルの国教会支部での仕事ぶりの話も聞かせてもらったりする。


ハイゼルはまだ年若い新人騎士でありながら、古いしきたりや習わしなどを重んじる。

そこが副司教にとても気に入られ、重用されているのだという。


(私もハイゼルも、育ての親は古の魔女の孫だもの。そういったものを蔑ろにはしてはいけないと教えられて育ったんだものね)


騎士としての腕っぷしだけでなく副司教のお気に入りともなると、やはり支部の中でも注目度は高いらしい。


そのため将来有望な結婚相手として、支部に勤めるメイドや女性事務員たちからの熱烈なアプローチを受け始めているそうだ。


「気が済むまでとことん振り回してやるのもいいと思うけどね。でも意固地になって機を逃して、それで一生後悔するようなことにだけはならないように気をつけるのよ」


と心配したイリナにそう言われたものの、まだ当分は素直になれそうにないとアユリカは思うのだった。


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