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臆病者の聖騎士見習い(ハイゼルside)②

「小母さんっ……アユが独り立ちって……!」


最後に会ったアユリカの様子がいつもと違っていたことが気になったハイゼル。

ようやく迎えた休日にポム小母さんの家へ帰って見れば、そこで驚愕の事実を知らされたのであった。


ハイゼルとアユリカの育ての親であるポム小母さんが何でもない事のようにシレっと言う。


「言葉のまんまさ。仕事のために独立してよその街へ移り住んだのさ」


「そ、そんなまさか……先日会ってまだ数日しか経ってないのに」


「すぐに決まってすぐに発ったからね」


「俺は何も聞いてないっ……」


「あんたにとってアユリカは幼馴染なんだろう?その程度の関係であれば、わざわざ学校に知らせを届けるまでもないじゃないか。こうやって私が伝えるだけで充分だよ」


「だ、だからと言って……!……まぁいいよ。今さらごちゃごちゃ言っても仕方ない……それで、アユはどこに移り住んだの?」


「なんであんたに教えなきゃいけないのさ」


「えっ……?なんでって……じゃあ逆になんで俺に教えてくれないんだよ」


「アユリカはあんたを忘れるために距離を置くことに決めたんだよ?それなのに居場所を知ったあんたが会いに行ったら意味がないじゃないか」


「俺を……忘れる……?距離を、置く……?な、なんで、どうして……」


「それをあんたが望んだんじゃないのかい。あんたが共に育った幼馴染以上の関係になりたくないとあの子を遠避けたんだ。だからアユリカはあんたの意を汲んで、あんたが望む関係に戻れるように離れたんだよ。まずは物理的な距離を置いて、徐々に心も離していこうと」


「心を、離す……?違う、俺は……そんなつもりでは……」


呆然と立ち尽くすハイゼルを、ポム小母さんは翠色の瞳でじっと見つめる。


「ハイゼル、あんたはアユリカをどうしたいんだい?いつだったか急にあの子を遠避けるようになったよね?それなのにあの子が離れていくことを受け入れられない、自分の目の届くところにいないと落ち着かないなんて、身勝手すぎやしないかい」


「…………っ、」


「まぁ大方、アユリカを失うことを恐れるあまりあの子を遠避けたんだろうけど。それじゃ意味がないんじゃないのかい?……結果、あの子はあんたの前から消えた。それがあんたの望みだったというのかい?」


ポム小母さんの言葉に、ハイゼルは鉛を飲み込んだように気持ちになる。

それは重く心に沈んで、身動きすら取れないような感覚に陥った。


しばらく立ち竦んでいたハイゼルが、ようやく押し出すように苦しげな声を吐き出した。


「じゃあ……どうすればよかったんだ……俺は……。アユと憎しみあって別れるようなことになったら、きっと……きっと俺は耐えられない……」


その言葉を聞き、ポム小母さんは呆れ顔で鼻から息を大きく吐き出す。


「バカだねぇ……。どうして別れるとかダメになるとか、残念な結果になるとしか考えられないんだよ。まぁまだ青臭いあんたなら仕方ないのかもしれないけどね」


「だって……」


「まったくもう!何をそんなに怯えてるんだい!とんだヘタレ野郎だね。私はあんたをそんなヘタレとんちきに育てた覚えはないよ!」


「でも、俺は……怖いんだ……あいつを失うのが……」


「もう失ってるじゃないか」


「うぐっ」


「自分の親が啀み合っていく様を間近で目の当たりにしてきたから仕方ないとは思うけどね?でもさ、考えてご覧よ。親のことを悪く言って申し訳ないけど、アユリカはあんたの母親のように旦那がいるのに他の男と遊ぶようなタイプだと思うかい?」


ハイゼルがぶんぶんと頭を振る。


「じゃああんたは?この先、もしアユリカといい関係になって、あの子を裏切るような真似をするつもりなのかい?」


ハイゼルはまた頭を振る。


「じゃああんたの親のようにはならないだろう。それに、別れを前提としてばかりで考えいるけどね、別れなければ一生あの子と一緒に居られるんだよ」


「一生……一緒に……」


考えもしなかったことだ。

関係が始まればいずれ終わりがくるとばかり思っていた。

別れることがなければ、世にいう“死が二人を分かつまで”共にいられるのだ。


ずっと目の前に広がっていた霧が晴れたような心地がした。


そんなハイゼルの様子を見て、ポム小母さんは眉尻を下げて小さく笑う。


「ま、だからといってあんたにアユリカの居場所を教える気はないけどね」


「な、なんでだよっ!!」


ポム小母さんの小さな家に、ハイゼルの情けなくも大きな声が響いた。






◇───────────────────◇




ハイゼルsideあともう一話続きます。

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