臆病者の聖騎士見習い(ハイゼルside)①
予科練学校や仲間と居る時に近付くなと言っていたのに突然現れたアユリカにいつも以上に真剣に想いを伝えられたあの後。
走り去る直前に見た、アユリカのあの顔がハイゼルの頭から離れない。
何かを諦めたような、寂しげな……ポム小母さんの家に来た頃のような顔をしていた。
そして足早に去って行くアユリカの背を見つめながら、自分は今、何か大きな間違いを犯したのではないかと焦燥に駆られた。
追いかけなければ。そう思うも、追いかけても自分はアユリカの想いに応えることができない。
追いかけてしまえば、きっと、これまでのままではいられなくなる。
男女の関係ほど不安定で移ろいやすいものはないとハイゼルは幼いながらも両親を見て、嫌になるほどわかっている。
そんな儚い関係にだけは、アユリカとはなりたくなかった。
かといって、どうなってもいいと思う他の女を選ぶ気にもなれないハイゼルである。
結局、ハイゼルはあの日からアユリカの事が頭から離れないながらも、会いにいく度胸もなくて悶々鬱々として日々を過ごしていた。
周りをウロウロしていたキラキラ女子たちを、ハイゼルはすぐに全員蹴散らした。
見習い仲間と付き合うのは勝手だが、二度と俺には近寄るなと彼女たちに言い放ったのだった。
(アユリカのことを地味だとか鏡を見ろだとか、とち狂ったことをほざきやがって)
アユリカに敵意ある目を向けた時点で、彼女たちはハイゼルを敵に回した。
ハイゼルが聖騎士になろうと志したのは全て、アユリカと育ての親であるポム小母さんを守れる男になりかったからだ。
大切な家族である二人を守り、養える男になりたくて、厳しい訓練に耐えているのだ。
八百屋だか万事屋だか知らないし、ミレニィ?いやミリィだったかそんな名前の、以前無理やり頬に口を付けてきた女が泣いて謝ってきたが、ハイゼルは「鼻水を拭いた方がいいぞ」とだけ告げて追い払ったのであった。
仲間たちには「勿体ねぇ」とか「女の子たちが可愛いじゃん」とか「もう仲間に入れてやらねぇぞ」とか言われたが、ハイゼルは「知らん、要らん」と言って悩み事を振り切るように剣を振り回し鍛錬に打ち込んだ。
だが何をしてもアユリカが気になって仕方ない。
そしてとうとう、最後にアユリカと会った次の休みの日に、ハイゼルはポム小母さんの家へと行ったのである。
そこでハイゼルは驚愕の事実を知る事となる。
「おや?ハイゼル坊やじゃないか。どうしたんだい?え?アユリカかい?あの子ならもうこの家には居ないよ。この街にも居ない。家を出て独り立ちしたのさ」
と、ポム小母さんが夕食の鍋をかき混ぜながらら、ハイゼルに対し面倒くさそうにそう言ったのである。
「…………え?アユ……が、居ない……?」
ハイゼルは足元から何かが崩れ落ちる感覚に襲われた。