一年とちょっとぶりの再会
「…………ハイゼル……?」
「……久しぶり……」
「え?どうしてこの街に?」
突然、ハイゼルが惣菜屋ポミエに現れた。
アユリカは驚き過ぎて二の句が継げずに瞬きを繰り返すばかりである。
ハイゼルは少し、いやかなり気まずそうに頭をわしわしと掻いていた。
一年とちょっとぶり。
久しぶりに見る彼は以前より更に背が高く、体格も立派になっていた。
そして何より……
「聖騎士の装束……それを身にまとっているということは、無事に聖騎士になれたんだね……おめでとう。え?十八で資格を取得れたの?すごくない?聖騎士の称号を?ハイゼル、頑張ったのね……!」
突然の出来事に驚き戸惑うも彼が夢を叶えたことへの喜びが勝った。
そんなアユリカを見て、ハイゼルは一瞬大きく目を見開き、そして一瞬くしゃりと顔を歪める。
だが直ぐにまたいつもの表情に戻り、静かな声で礼を言った。
「……ありがとう」
そんなハイゼルを見て、アユリカは密かに安堵していた。
(良かった。ハイゼルを見ても辛くない。
あんなに胸が痛んで苦しかったのに、今はわりと平気だわ……)
やはり離れて正解だった。
これなら元の幼馴染として接することができるだろう。
「でもどうしてここに居るの?ポム小母さんに聞いたの?」
アユリカがそう尋ねると、ハイゼルはこくんと頷いた。
「ポム小母さんと約束したからな……最短で聖騎士になれたら、アユの居場所を教えるって……」
「え?なぜそんな約束を?それでわざわざ聖騎士になったと報告に来てくれたの?」
「こ、」
「こ?」
「この街の国教会の支部に配属になったんだっ……副司教様の護衛騎士として」
「まぁ!副司教様(どんな人かは知らないけど)のっ?すごいわハイゼル!」
「あ、あぁ……ありがとう……」
「?」
どうしたのだろう。
ハイゼルの様子がおかしい気がする。
なんか歯切れが悪いというか?
しおらしいというか?
いつもの調子と全く違う。
せっかくアユリカが昔と変わらず接することができるようになったのに、なんだか彼の方が挙動不審だ。
まぁ振った相手に久しぶりに再会して気まずい思いをしているのだろう、とアユリカは思った。
「でもすごい偶然ね。配属となった支部が私が住む街だったなんて」
「あ、あぁ……いや……」
「でも安心して!もう私、ハイゼルに気持ちを押し付けたりなんて絶対にしないから!……その、以前はごめんね……自分本位に恋愛感情をぶつけて。ホントに子どもだったと反省しているの」
「い、いや、子どもだったのは俺の方で……」
「心配しないで。これからは元の幼馴染として適切な距離で接するから!ハイゼルもそれを望んでいたものね!」
「いや、そのことなんだがっ……」
「だからこれからはまた《《ただの》》幼馴染としてよろしくね!」
「いやあのアユリカ……」
ハイゼルを前にしても心乱されることなく接するようになれたことが嬉しくて、アユリカはつい矢継ぎ早に言葉を重ねていく。
合間にハイゼルが何か言いたそうだが、アユリカは彼を安心させたくてとにかく話し続けた。
アウアウと口篭るハイゼルを見て、彼らしくないなと思いつつも、店に客が来たのでそちらの接客を優先させて貰った。
アユリカは仕事中であるし、騎士服を着ているということはハイゼルも仕事の途中に立ち寄っただけだろうから。
案の定、アユリカが客の相手をしている間に「……また来るよ」と言ってハイゼルは去って行った。
◇
「ああぁぁぁ……!俺は何をやっているんだっ……!」
アユリカが働く惣菜屋ポミエを出てすぐに路地を曲がり、そこでハイゼルは頭を抱えて蹲った。
「アユにちゃんと謝って謝り倒して、なんなら土下座して許して貰うんじゃなかったのか俺っ!」
さすがに店で土下座をするのは迷惑でしかないので、場所と時間を変えるために食事に誘おうと思っていたのに、サクサクと告げられるアユリカの言葉に打ちのめされているうちに機会を失ってしまった。
久々に顔を見たアユリカ。
この一年で彼女は信じられないくらいに大人びて、そして綺麗になっていた。
自立し、懸命に働く中で成長して、成人らしくしっかりとした女性になったのだろう。
だけど以前と変わらない、あの屈託のない笑顔。
その笑顔を見れて嬉しいはずなのに、ようやく会えて嬉しいはずなのに、その眼差しに以前のような恋情がのっていないことがわかり、それがショックだったのだ。
わかっている。
それもこれも全て、自分が愚かで、子どもで、臆病で、何もわかっていなかったからだ。
「今さらどの面下げて……だよな……」
今、ハイゼルの耳に「それな!」という誰か(読者)の声が聞こえたような気がしたが、絶賛打ち拉がれ中の彼はそれどころではなかった。
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アユリカのターン!
これから無自覚にハイゼルの心を抉ります。
次回、ハイゼルsideです。
ポム小母さんとの会話。
この一年とちょっとの彼の軌跡に触れます。