第6話 休暇
ようやく休暇をもぎ取った。
1か月取る予定が、三週間になった。それでもギリギリだ。
主要街道を馬車でかっ飛ばしても、片道1週間かかる。
馬を途中で替えながら、道を急ぐ。ドエル帝国には入国許可を事前に申請してある。
宰相の肩書がつくとかえって面倒なので、ジュリ、観光目的、、、だ。
エミルからの知らせによると、皇弟が入り浸っているらしい。
村長の孫息子も、、、、冗談だろ?
やっとのことでマーサの家に着くと、ハナは、今日は水車小屋当番で、水車小屋にいるらしい。すぐにエミルに案内させる。
「・・・まさか、、、男といるんじゃないだろうな?」
「え?いえいえ、、、皇弟殿下は明後日来るらしいですよ?村長の孫息子は、近くの町まで、みんなに頼まれた買い物に行っています。」
「・・・・そうか、、、、」
「余裕、、、、無いっすね?」
「・・・・・」
水車小屋の戸を開けると、挽き終わった小麦粉を袋に詰めるハナ、、、ローラがいた。
「あら?エールさん?丁度良かったわ!挽き終わったところなの。荷馬車に積んでくれる?みんなに配って回らなくちゃいけないから。」
「ローラ、、、」
後姿が、固まった。
「あら、、、疲れたのかなあ、、、ジュリの声が聞こえちゃった、、、、」
少し寂しそうにそう言うと、ハナは、よっこいしょ、と掛け声をかけて、袋を担ぎ上げる。何気に力持ちだ。エミルが袋を荷馬車に積んだ。
「ローラ!」
「・・・なんか、今日はもうダメみたい。帰って寝るわね。後はエールさんに頼んでもいい?」
ため息をついて、エプロンに着いた粉をぱんぱんと払っている。
「空耳じゃない。俺だ。」
「・・・・・ジュリ?」
「ああ。」
「え、、、と、、、ジュリ?」
「うん。」
「・・・・婚約解消の書類に、サインがいるとか、、、、なの?」
薄暗くてほとんど見えないんだろう、、、極限まで目を細めて、俺のほうを見ている、、、
なあ、、、、そこは半年ぶりの感動の再会なんじゃないのか????
「なんでだ?馬鹿か?」
「あ、、、、本物のジュリだ、、、」
後のことはエミルに丸投げして、マーサの家まで戻る。ローラが世話になっている家には、エミルにお土産を届けさせた。
話すことがたくさんある。なにせ、半年ぶりなのだから、、、、
「・・・・それでね、私、、うっかり犯罪者になっちゃって、、、」
「なんでだ??」
「だって、、不法脱国しちゃったんだ、、、、」
「・・・問題ない。」
粉まみれのローラを風呂に入れて、ざぶざぶ洗い、持ち込んだ寝間着に着替えさせて、短くなったこげ茶の髪を拭く。
もこもこの金髪だったが、、、こげ茶も似合うな、、、、
「ジュリは、、、今はどうしているの?」
「お前がいなくなってから、宰相職を任命された。死ぬほど忙しい。」
ローラをベットに座らせて、隣に座って、髪を整える。
「まあ、、、なるほど。そうよね、、、そうでもしないと、回らないわね、、、」
「・・・・・」
「・・・で、ジュリは、、その、、、、、義妹と、、、ルビーと、、、けっ、、、、」
「け?」
「・・・・結婚するの?」
「は?なんで?」
「・・・だって、、、王配教育は間に合わないと思うわよ?もちろん、、、ルビーに帝王学も間にあわないわ、、、、あなたと結婚するのが一番合理的よね?」
「・・・いろいろ、、、無理だな。」
よしよし、髪は綺麗に整ったな。
顔は、、日に焼けたな、、、持ってきた化粧水をつける。
ローラは、慣れているので、顔をやや上向きにして、目を閉じる。
・・・しみにならなきゃいいけど、、、、
「・・・それでね、、この村に来てね、マキシさんというお宅で、お世話になっているの。ジャガイモとライムギを作っているの。でもね、、、この村自体、高齢化が進み過ぎていてね、、、、」
「・・・それで、農業助成金か?免税セットにしたか?」
「うん。5年間にした。間にあいそうでしょ。」
「ああ。俺でもそうする。」
ローラは、にっこりと笑った。
手を引き寄せて、手に化粧水と、クリームを塗りこむ。荒れてるな、、、
「働き者の手だな。」
「うふふ、、、」
指の一本一本、掌、手の甲、、腕まで、、、いたわるようにクリームを塗る、、、
「ねえ、ジュリ?昔読んだお話みたいに、聖女様が現れて、一面肥沃な土地にしてくれて、緑にあふれる、、、、なんて、、、やっぱり夢なのよね?」
「・・・いや、そもそも、論点がずれているだろう。聖女の力で豊作になっても、収穫する人手がない。そこなんだろ?」
「・・・・そうよねえ、、、、うふふ、、、」
次は足だな。
カサカサだ、、、、並んで座った俺の膝に足を上げさせ、化粧水とクリーム、、、、
沢山持ち込んでよかった、、、、
「くすぐったいわ、ジュリ、、、」
「我慢しろ。」
マーサに運んでもらった夕食を、二人で食べる。
国元から持ってきたワインを一本開ける。
*****
「いつもあんなんなの???あの二人?」
上司から差し入れてもらったワインを開けていたら、客室に食事を運んでいたマーサが、耳まで真っ赤にして戻ってきた。
「うん、、、あれが通常運転。昔から。そうでもしないと、あの子は本ばかり読んで、風呂に入んないし、お肌の手入れもしないから、、、、仕方なく?」
「・・・・仕方なく、、、、?」
「こっちに来てからは、仕事終わるとやることないから、風呂に入ってるみたいだけど。一人で、、、」
「・・・・一人で、、、、って、、、、なんだか、、、ご飯も食べさせていたわよ???」
ワインをグラスに注ぐ。あ、かなりいいやつ。上司、機嫌いいな。
「あの子、8歳くらいの時、世話係の侍女に、風呂に沈められそうになって、、、駆けつけた俺の上司が間に合わなかったら、死んでた。それから、、、、ずっとああしてる。侍女を置かないんだ。」
「うへ、、、その侍女は?」
「聞く?ねえ?聞く??、、、、うちの上司がマジ怒って、、、そいつの首を持って、家族の皆さんが晩御飯食べていたダイニングに、、、何も言わず放り込んだ、、、、、」
「・・・・・」
「それ以降、嫌がらせはないな。俺はそのあとすぐに大公家から派遣されて、護衛騎士になった。表向きは上司の警護だけどね。
まあ、今回のことも、、、、あの子と離されたうちの上司は、実はかなり、、、いや、物凄く怒っているとは思うけど、、、、、怖い、、、、、、」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それにしてもよ?
ねえ、エミル、今晩、私とお風呂入んない?体洗ってよ、、、、ね?」
マーサが首を少しかしげて、上目遣いで俺を見る、、、
ぶはああっ、と、盛大に口に含んだワインを吐き出して、、、、
「え?え?え?まじ?いいの?俺、止まんないよ??」
「・・・・でしょ?普通そうよね?なんなの、あれは?」
「・・・・え、、、、、」
吐き出したワインと、俺のときめきを返してほしい、、、、
「聞く?ねえ?聞く?、、、、16でキス。彼女が18になって、結婚してからやることやる、って二人で決めてるみたいだよ。」
「いや、、、、、それにしたって、、、、、」
「・・・・・・」