第20話 さあ、新しく始めましょう。
「エミル、ヘンリー様を頼んでもいいか?私は政務に出る。」
ヘンリー様の熱が下がった頃から、フローレンス様は政務に出だした。
最初が肝心だからな、と、ノリノリで。
ドレスは相変わらず、後宮から持ってきたものを着ている。
側近が、新調しましょうと言ってくれたが、まあ、短い間だから、と。
「短い間、、、、、とは?」
「まあ、、、、半年?遅くても来年の春かな。」
「そうでございますか!」
来年の春には、挙式を上げられるのだろう、と、みんなは解釈したらしい。
冷静に、、、、ヘンリー様の婚約者がどっから湧いてきたのか考えようよ?と、俺は思った。口には出さなかったが。ただ、、、、、彼の女性遍歴は側近の皆様もよくご存じの様で、、、、どこで、どんな女性を口説いているもんだか、、、、まあ、昔のことではあるが、、、、
まず、内政を整える。
彼の側近は、先帝に疎まれた者たちだったが、かなり優秀な人材がそろっていた。身分もはく奪されていたが、それぞれ新しく爵位を贈り、役職に就かせた。
先帝が誅されたときに逃げ出した貴族連中の身分を譲り受けた形かな。
諸侯を集めて、ヘンリー様のもと、忠誠を誓わせる。
軍に赴き、希望退職者を募る。
自分の生地に戻り、農業の手助けをしてくれる者には、退職金をはずむ。
「ヘンリー様は、《《緑の手》》をお持ちだ。この国を一緒に豊かにしような。」
一人一人に、挨拶していた。兵士は、もちろん、庶民、茶髪の者が多い。そんな彼らの手を取るフローレンス様に、みんな歓喜の声を上げた。
そして、、、従属した国の歩兵、、、今までろくに給金も支払われなかった者たちを集める。
「お前たちを国に帰す。給金と退職金はもちろん払う。これからは、自分の国のために働いてくれるか?」
・・・・正直、、、、アール村の大虐殺事件を知っている者たちは、おびえた。
自分たちの国を焼き払えと言われるのではないかと、、、、、
「いろいろ、報告を受けた。君たちの国は、重税にあえぎ、大変だった。ヘンリー様の公社から、備蓄用の小麦を出す。食べても良いし、蒔いてもいい。ドエル帝国の新皇帝陛下は《《緑の手》》をお持ちだ。君たちの国の復興に《《その手》》を使って下さるだろう。」
フローレンス様は国境まで見送りに出た。
知らせを受けた属国の王は、平服して待っていた。
「ああ、顔を上げて。ヘンリーは、そんなことを望んではいない。協力できることはしよう。しばらくの間は、保護国としよう。他国に狙われるのもなんだからな。」
フローレンス様は長い金髪を揺らしながら、からからと笑った。
まだ、外出できないヘンリー様の代わりに、フローレンス様はあちこちを回られた。
軍の再教育も行った。
行く先々で、必ず馬から降りて、人々と話した。
《《緑の手》》を持った、ヘンリー様の話を。
*****
「その、、、、《《緑の手》》とは何のことだ?」
背中の傷に軟膏を塗っていたフーに、ヘンリーが尋ねた。
「ああ、、、ハナ?あの茶髪の女の子が言ってたんだよ。お前は《《緑の手》》を持っているから、守ってほしい、と。」
「・・・ハナが?」
くるくると包帯を回しながら、フーが頷く。
「そう、あの子に頼まれたんだよ。お前を無くしたら、大きな損失になる、とな。」
「そう、、、、ハナ、が、、、、」
包帯を巻き終わったフーが、ヘンリーの手を取って、言った。
「正しい行いをしていれば、正しい人が集まってくる。良かったな。お前の周りにいるやつは、皆、お前が好きだぞ。」
そういって、笑った。
「しばらくの間は、、、私がいるうちは、私がお前を守ってやる。お前の側近もみな、いい仕事をする。お前は、自分が為さなければならないことをしろ。いいな。」
少しづつ、ヘンリー様が政治に参加する。フローレンス様が側に控える。
なんか、、、、、結構、美男美女で、、、背も高くて、、、、似合い過ぎてムカつくね。
フローレンス様は相変わらず、後宮に残されたドレスを着ている。似合うから、、誰もおさがりだとは思わないみたいだ。
俺は、、、いつの間にかヘンリー様の婚約者の護衛、みたいな立場になっているが、、、どうする気なんだろう、この人、、、、、
ヘンリー様は体調が戻られてからは、推し進めていた農業政策に力を入れていた。農業関係の部署を立ち上げて、今はそちらにスタッフも揃い始めた。
全てがうまく回り始めた頃、、、、ヴォーレ国の新女王の即位式と結婚式の通知が届いた。もう、年末近く、、、、式は年が明けて、2月の初め。
*****
「・・・婚約者の方もご一緒に、、、だってさ、、ははっ、」
フローレンスが招待状を嬉しそうに見ている。この人は部屋では、ブラウスにスラックス姿だ。
「あの、、、一緒に、行く?」
「あ?行かないよ?一緒には。他の国からの来賓も来るからな。そんなことしたら、婚約者、確定になっちゃうだろ?お前、、、連れて行きたい奴はいないのか?」
「・・・・・」
「エミルに聞いたぞ。お前、、、ハナが好きだったんだろ?」
「え、、、、、ああ、、、、でも、、、、」
「でも?2年近く一緒にいて、何で何も言えなかったんだ?まあ、、、あの子を連れて行くのは難しそうだけどな。」
「・・・・ハナが、、、あの子の髪が、、、茶色だからか?」
「・・・・は?」
フローレンスは、組んでいた足を下ろして、僕に対峙する。
「お前の、、、、悩んでたとこは、そこ、か?じゃあ、駄目だな。」
「・・・・・」
「ハナ、の好きな男は、ハナの髪色が、赤だろうが青だろうが白だろうが、まったく気にしない。その時点で、お前はもう負けていたんだな。残念だったな。」
「・・・・・」
「どこぞのきれいな金髪の貴族女とでも結婚すればいい。うん。」
「・・・僕の実母は、、、、茶色の髪で、、、農民だった、、、、僕は、、、会ったこともなければ、生きているのかさえも分からない、、、、」
「・・・・それで?でも、その人がお前を産んでくれなければ、お前はいない。帝国民はお前の兄に搾取され続け、飢え死んでいただろうな。お前の実母は、立派だぞ?お前を、みんなに残してくれたんだから。」
そう言うと、フローレンスは隣に座りなおして、僕の頭を抱きしめて撫でてくれた。
「大変だったな。でも、もう、お前には国民も仲間もたくさんいる。いいな。髪色なんて、些細なことだ。ハナは、、、自分の好きな男と結婚するみたいだけど、、、、お前もすぐに、また好きな女が見つかるさ。その時は、髪色や、眼の色を気にしなくていいんだからな。お前が、、、この国を変えるんだから、な?」
母親に抱かれた記憶もない、、、、、でも、、、こんな気持ちなのかな、、、、
フローレンスはいつまでも、僕の頭を撫でてくれた。