第2話 新天地
初夏に来た修道院にもずいぶん慣れました。
毎日快適です。
ですが、、、、さすがに退屈してまいりました。
ジュリにばれたら、自分ばかり休暇はずるい、って言われそう?
朝早くのお勤めの後に、裏の畑とその奥の小さな森を探検してみます。小鳥も鳴いていますねえ、、、、眼は、以前より見えるようになりました。暗くなってから本を読まなくなったことと、まあ、もちろん、山のような書類をさばかなくて済むようになったこと。
やることがないので、ぼおおおっと窓から遠くを見たりしているのが、ことのほか良かったのかもしれません。
皆さんのお顔は、まだぼんやりとしか見えませんが、声で何とか識別は付くようになりましたし。
小鳥の声を聴いたり、葉っぱのさやさやする音に耳を澄ませながら歩いていると、何となく、、、呼ばれた気がしました。こっちだ、と。
前方にぽっかりと明るいところがあります。森は丁度いい日陰なので、白く開けて見えるような、、、、、
何かしら?と、歩いていくと、、、ふいに、森を出てしまいました。
・・・・あら、、、?
平らな、荒れ地のような空間が広がっているようです。
修道院の敷地はホントに広かったのですね。春になったら畑作業もあると聞いておりましたから、その畑なんでしょうか?こんなに広いと、耕すのも大変そうですねえ、、、
私はぶらぶらと散歩を続けました。
*****
第二王女の無能さをカバーするのに、文官をまた3名ほど追加した。
まあ、、、、仕事はなんとか回っている。が、ローラが押さえていた無駄な支出が堰を切ったように、、まさに大洪水だな、、、金が湯水のように湧くとでも思っているんだろうか?この人たち、、、、
それを止める権限は、俺にはない。その気もないし、、、
この分だと、今年、各領地から上げてもらう税金は、上げてもらうしかない。そこは、財務方が何とかするだろう。いつ、気が付くだろうか?気が付かないで終わるかも知れない、、、、まあ、、、いい、、、それはもう、ほんと、どうでもいい、、、
ローラは、無事にこの国を出る手はずになっている。
修道院はドエル帝国との国境沿いに作られており、一度出国して、戻ってくる予定。
あの修道院は、金をちらつかせると、何でもしてくれるのはその道の者には有名だ。表向きは、厳しく、一度入ったら二度と出て来れない、、、、と、言うことにはなっているが。
後は護衛につけたエミルと、現地在住の世話係のマーサが何とかしてくれる段取り。
*****
「はい。ドエル帝国にようこそ!」
「・・・・??」
「お嬢さん、お名前は?」
「あ、、、ローラです、、、あの、、、、」
「はい。では、今日からあなたはハナ。修道服を脱いで、こっちに着替えて。」
「え、、、?はい。」
今日の脱国者は、もっさそうな金髪碧眼の女の子。
逃げ出した子はマーサの家の前を必ず通ることになっているので、着替えさせて、修道院に修道服を届け、
「野垂れ死んでいましたので、埋めて供養しました。」
と言うと、金一封貰える。まあ、、、なんというか、、、修道院も、見て見ぬふりをするが、何かあったときのために、言い訳は欲しい、って感じかな。
だいたいにおいて、お迎えが来ていることのほうが多い。
良家の娘さんやご婦人がほとんどだが、《《訳あり》》、なので、マーサの家の前で何日も野営している人がいたり、豪華な馬車が迎えに来ていたり、、、使用人だったり、恋人だったり、、、まあ、いろいろ。
「あなた、お迎えは?」
「え?お迎え?」
「・・・・・」
たまに、こんな子もいる。
もさもさと着換えて、修道服を几帳面にたたんでいる。
・・・・・家の事情で、迎えが来ない子。
・・・・・やらかしたことが、本当に大変だった子。
マーサは、ローラと名乗ったこの娘を眺めて、壁に張った求人票を一枚とる。
「三食昼寝付き。住み込み可。あなた、体を動かすのは苦じゃないかしら?」
「・・・はい。」
「じゃあ、ここに。地図が書いてあるから、まあ、一本道だし。雇い主はマキシさん。すぐ行ってね。」
「え?、、、、、はい。」
「あ、ちょっと待って!その髪色はまずいわね、、、」
金髪碧眼は、この子が脱国してきたヴォーレ王国の高位貴族の色。瞳の色はまあ仕方ないとして、髪色位は変える必要がある。
マーサは流し場にハナを連れて行って、毛染めをした。元々、草木染に使う安全な染料だが、よく染まる。長持ちするし。
綺麗にこげ茶に染まった短い髪を拭いてあげながら、染料を余分に渡し、月一位に染めるように言う。
「ありがとうございます。」
丁寧に礼を言って、ハナは出掛けて行った。こげ茶の短い髪に、質素なワンピース。後姿を見送る。
さて、頃合いを見て、修道服を届けに行かなくちゃね。
きっちり丁寧にたたまれた修道服を見て、感心する。なかなかいそうでいないわ、、、、