第14話 終盤
春の軍の遠征訓練は、今年は北東部地区になった。
ドエル帝国の皇弟殿下からの要請に伴い、昨年新しく整備した北部の街道の視察も兼ねている。そこから、東に広がる山脈での山岳訓練が組まれた。2か月。大遠征だ。もちろん、全て出かけてしまうと国防に係わるので、半分ずつ。
軍を率いるのは例年だとローラと俺だが、今はそうもいかないので、昨年から軍の副官が率いることになっている。今から兵士たちは縮み上がっている。そう、、、、半端なく厳しい方だから。
「これはこれは、、、宰相殿、何用で?差し入れか?」
「・・・・・姉上、、、、、」
副官の執務室を訪ねると、第一声が、、、それか?
俺の姉、フローレンスは、、、、名前だけは儚げでかわいいんだが、、、、この人に俺はありとあらゆることで、、、、剣術なんて論外、、、、勝てたことがない。
早くから騎士になり、軍に入り、、、、上り詰めた。
今の長官はもう60過ぎだから、この人が長官まで上がるのは時間の問題か、、、本人は自由にしたくて、副、が付くほうが良いらしいが、、、、、、
「なんだ?」
姉は、一本に無造作に縛った金髪を揺らし、足を組みなおすと、緑の瞳でじっと観察するように俺を見る。
「北東部での演習ですが、、、、、、」
*****
「この夏に、領主会議が開かれます。次期国王を決めるために。そこで、、、」
ロジー伯がにやにやと笑う。好きになれないな。こいつは。まあ、いいが。
「現国王の、自分の立場をわからせてやりますよ。根回しはばっちりしましたし、、、へへへ、、、、」
「そうか。頼もしいな。お前は国王の器だな。」
かけらも思っていないが、、、にっこり笑ってやる。
「そこで、皇帝陛下の書簡を頂きたいのですが、、、この私を、ヴォーレ国の王にすると。みんなひれ伏すでしょう。目に浮かぶようです。ぐふふっ」
「ああ、そんなことか。たやすいな。すぐに用意しよう。」
こいつの筋書き通りに行こうが行くまいが、どうでもいい。
王が、、、トップがぐらついている国を手に入れることなど容易い。いざとなれば、軍を動かして押さえてしまえばいい。
こいつが王になったとしても、、、やることはさほど変わらない。そうやってこの帝国を大きく、強くしてきた。別に、今すぐ、どう、ってことではないから、こいつの話に乗ったふりをしている。小物の考えは浅いなあ、、、それに踊らされるような国なら、逆に容易い。
*****
「なあ、マーサ、、、、」
今日はブルーベリーの苗木を、希望する村民の家に植え付けに回っている。
ここのところ、あちこち忙しく飛び回っているヘンリー様も、今日は珍しく作業を手伝っていた。
俺はリヤカーを引きながら、並んで歩くマーサに聞いてみた。
「・・・あの二人、どう思うよ?」
「は?二人って、、、ハナと?ヘンリー様?」
「ん。」
「ないないない、、、大体相手はこの国の皇帝の弟さんだよ?身近すぎてつい忘れそうになるけど、身分が違い過ぎるでしょ?それに、ハナの従兄弟、ジュリ、だっけ?あの子と恋仲なんじゃないの?」
「ハトコ、な。うちの国、いとこ同士では結婚できないから。でもさ、でもさ、、、どうなの?2年も一緒にいたら?なんか、話も合うし。」
マーサは呆れたように俺を見た。
「エール?いい?茶色の髪は、、、、この国の貴族は、人間扱いしないのよ?知ってた?茶髪の段階で、、、まあ、絶対に正妃はないし、表舞台には出れない。ハナの本来の髪色を知らないあの方が、ハナに惚れることはあり得ないわ。まあ、あの方は、、、いい人だし、農民にも親切だけどね。また、別の話よ。」
ハナとヨナスとヘンリー様、三人で楽しそうに話しながら前を歩いていく。
俺は、、、、ヨナスを呼んで同じことを聞いてみた。
「なあなあ、、、、どう思う?お前はいつも3人で一緒にいるだろ?」
「ああ、、、ハナさんは、あの黒髪の人、ジュリさん、一択だと思いますよ。僕は、、、ジュリ、って、ヴォーレ語の定冠詞かと思ってましたもん。」
「は?」
「ハナさんに何か話しかけるでしょ?そうすると、、、、、そうね、ジュリ、それはね、ジュリ、ああそうね、ジュリ、やっぱりね、ジュリ、、、、、、、、もう、、、、」
「・・・・・ああ、、、、、」
「僕だってハナさんが好きだったけど、ジュリって、人の名前だと解ったときに、諦めましたから。」
「え?ヨナス?ヨナスも?」
「も、、、、って、、、、ヘンリー様は、どうですかねえ、、、、」
「え?」
「え?」
マーサまで振り返る。
「あの方は、、、、どうですかね?以前は、、、色々と女性と遊んだみたいですよ、この国では有名でしたから。でも、ここ5年くらいは真面目に働いているみたいですし。そんな方が、、、見つめて、頬を染める???ありえない。初恋でもあるまいし。でも、、、そうですね、、、、いざとなったら、髪色なんてどうとでもなりますから。」
「・・・・・」
ヘンリー様に近所の子供が走ってきて、その辺で摘んだ花を差し出している。
しゃがんで子供と同じ目線でそれを貰う彼は、とてもうれしそうだ。
ああ、いいなあ、
一枚の絵の様だ、とエミルは心配事を忘れて微笑む。




