第11話 ミドルゲーム
ヴォーレ国内のワイン産地の視察を終える。
お土産にと、ワインもたくさんもらった。
予定していた通り、最後の日は王城での歓迎会となる。
みんなは早めに庶民用の宿に引きこもった。また飲むらしい。
快く視察を許可していただいた国王に礼を述べる。
「ああ、、、かまいません、、、ゆっくりしていってください。」
国王は思っていたより、のんびりとした方だった。
皇后は、色素の抜けた赤毛の髪に、茶色の瞳。
王女も。
「・・・・王女のルビーですわ。殿下、一曲お願いできまして?」
ダンスが始まると、さっそく誘われた、、まあ、もちろん踊るが、、、局長に聞いていた、孫姫、のイメージとはかなりかけ離れているような、、、、
贅を尽くしたドレスに貴金属。頬を染めて、僕を見上げてくる、、、
・・・・・俗っぽいな、、、、
もちろん、にっこり笑う。
それを見て、、、耳まで赤くなる王女、、、、踊りながら聞いてみた。
「姫は、、、御姉妹はいらっしゃいませんでしたか?」
「え?ああ、いたのですが、、、、、思うところあって修道院に入ってしまって、、、」
少しわざとらしいほど悲しげな表情を浮かべる。姉がいた気がするが、、、
まあ、、、、いいか、、、、
「それは、、、申し訳ないことを。姫はお綺麗ですね。婚約者の方は幸せですね。そう、思いまして、、、、妹さんでもいたらご紹介いただこうかと、、、、」
「まあ!うふふっ、、、、」
僕は、、、自分の顔の使いどころは知っている。
先帝にそっくりだと言われているが、、、あまりお会いしたこともなかったが、、、
それよりも、、、出がけに、馬車から見かけた女の子が気になる。
黒髪で、スカーフを巻いていたが、何かを大事そうに抱えて、、、、、足早に駆けて行った。
ハナ?
まさかね、、、、
*****
「では、お土産です。どれでも好きなワインを皆さんで。」
クマの所長が、ずらりと並んだ赤ワインのボトルを前ににっこりと笑う。
我先に、とは行けないので、ヘンリー様が選ぶのを待つ。それから、彼の側近が3名。
「えーわかんないから、何でもいいや。」
そう言って、エールが一本手に取る。
「じゃあ、私はこれ!」
ラベルに目を近づけてよく見た。当たり年の物が何本か紛れ込んでいる。
・・・・この年ね、、、百年に一度の当たり年って言われた奴。気前いいわねえ、、、
やや古びたラベルの物が余っていたのはラッキーだった。
ほくほくだわ。
「・・・・・」
クマの顔は見なくても分かる。悔しがっているだろうね、、、、
みんなそれぞれ、ワインを選んだ。いいお土産が出来たわ!!
「はい、お土産よ。」
「・・・・え、、、これ、、、」
「うふふっ、、、、」
ジュリの屋敷の使用人の通用口から入る。みんなにこにこして知らんぷりをしてくれる。
真っすぐ、二階にあるジュリの部屋に上がる。ほぼほぼ王城に住んでいたが、一応、お屋敷に自室もある。今は、王女の婚約者でなくなったから、ちゃんと自分のタウンハウスから通っている。
エミルは、多分少し遅れてきて、使用人の皆さんと酒盛りをしているはず。
「どうしたんだ?こんなにいいワイン。」
そう言いながら、ジュリが自分でグラスを二つ用意してくれる。
「お風呂は?」
「入ってきた。あんまり早く、出てこれそうになかったから。」
「そう?」
慎重にコルクを抜いて、ゆっくりと注ぐ。いい色だ。
「その黒髪はどうしたんだ?」
「ん?マーサさんにお借りしたの。」
軽くグラスを合わせてから、匂いを楽しむ。
ジュリは、、、、、もう飲んじゃったのね、、、??
「いいワインだ。こんなのをお土産に出したのか?あの熊公?」
「・・・・たまたま、よ?いろんな年のワインから選べたの。」
「・・・・・」
「おいしいね。」
「・・・・いつまでいれるんだ?」
「ヘンリー様が、歓迎会に行っているから、明日はお休み。明後日の朝に出発よ。
局長にもお世話になったわ。うふふ、、、」
「・・・ばれなかったのか?」
「目が、、、、泳いでたわ、、、、ジュリは?明日仕事でしょ?私、夜中に帰るわね。」
「・・・・・休む。」
「まあ、、、、」
「絶対に明日、頭が痛くなるから、休む。」
「・・・・いいワインだから、ならないわよ?」
「いや、、、、休む。」
ジュリが変なことを言うので、笑ってしまった。
コートを脱がされ、スカーフとかつらも外された。履いてきた編み上げブーツも脱がされて、用意してあった寝間着に着替えさせてくれる。
「それでね、、、、」
二人で布団に潜り込んで、視察旅行の話をする。
「・・・ロジー伯領を通ったときに、街道を閉鎖してたわよ。まだ、生き埋めになった人が見つかっていないから、外部の人を入れないんだって。」
「ふーーーーん、、、」
「で、街道を通る荷馬車の数を寝ながら数えてたんだけどね、1時間で20台。多いわね?」
「・・・・・」
「やはり、ジュリの読み通り、動いてるわね、あの鉱山。」
「・・・・・」
「どうする?」
「ああ、、、どうもしない。あちらが仕掛けてくるのを待つ。」
「・・・・そう?」
「それよりな、、、」
ジュリが私の動かしていた僧侶[ビショップ]の駒を持ち上げた。
「この駒に、ピンクのクイーンが食いついたらどうする?」
「・・・・まあ、、、、あの子は綺麗な男の子が好きだから、、、、無くもないかしらね?
これは、、、、、中盤で大波乱??」
ローラはくすくすと笑った。
「そう、、、、この駒なら、この国は安泰だわ。」
「・・・・・おい。」
「うふふっ、、、、でも、《《この駒の国》》が終わっちゃうのよね。戦うのも嫌だし。私が取ろうかしら?」
「・・・・・」
「ああ、無理ねえ、、、、やはり、」
と、言って、ジュリが持っていた僧侶[ビショップ]の駒を相手方に戻す。
「この駒にしかできないことがあるのよね。働いてもらうわ。」
「何度も言うが、、、慎重にな。」
「はい。ジュリもね。さ、明日早いから寝ましょ?」
俺たちは、いつものように二人で丸まって眠りについた。
長年、こうしているので、、、、いつの間にか一つになっているんじゃないかと思う。