第1話 初手
「この駒は、、、逆に使えるかもね?」
「相手のキングにすり寄る駒でもか?」
何時ものように、第一王女の寝室で、ボードゲームが始まる。
くすくすっ、と楽しそうに笑って、王女が僧侶[ビショップ]の駒を動かす。
「そうね、、、近い将来、クイーンは取られちゃうわよ?」
「・・・・だろうな、、、、」
「そうなると、こっちのキングは好き勝手に動き出すでしょ?ビショップは保険をかけるでしょうね?」
「・・・・多分な。まあ、どうでもいいが。」
「あちらのキングの威を借りて、こちらのキングを取りに来るわね。」
「・・・・だろうな。」
「持ちこたえられる?」
「・・・ああ。ナイトは動かない。これはクイーンのナイトだ、、、、、キングのナイトではないからな。」
「うふふっ、、、、」
「ああ、、、、ただ、、、相手のキングはでかいぞ?力で攻められたら応戦するのか?」
「できれば、、、、その前に手を打ちたいわね?」
「相手方の僧侶[ビショップ]か?」
「・・・・使うしかないわよね?使えるかしら?まあ、結果はどうあれ。」
金色の、綿あめみたいなもこもこの髪を、ゆっくり撫でる。
夜更けまで、王女の部屋からはくすくす笑いが聞こえた。
仲のいいこって、、、、護衛を務めるエミルは、つい、もらい笑いをする。
*****
まあ、お話ではよくあるパターンなんだろうけど、、、
追放されました。
北の果てにある、厳しいと評判の修道院送りになり、髪を短く切り、修道女見習のお洋服を貰い、お勤めをします。掃除したり、洗濯したり、神に祈ったり、、、、
ご飯がもらえなくなるわけでもなく、部屋も一人一部屋、破格の待遇です。
私としては、、、、16年間生きてきて、初めての夏休み、と、言った感じです。
ジュリは、、、詰めが甘いと、怒っているかしら?
何せ、夜はすることがないので、眠ってもいいので。ま、朝はその分早起きですが。
規則正しい生活で、健康になった気がします。
髪も短いので、すぐ乾くし。
・・・・ジュリが、、、毛量の多かった私の髪を乾かすのは、大変そうでしたから。
そう、短くすればよかったんですねえ、、、、
お洋服も簡素なもので、軽いし、苦しくもないし、快適です。
修道院に入るときに、贅沢品認定された眼鏡も取り上げられたので、まあ、ぼやあっとしか見えませんが、聖書を読むくらいなので、それはそれで快適です。知り合いもいませんし。
ジュリには、、、夜、いつまでも本を読んでいると叱られましたねえ、、、
こんなにのんびりとした日常を下さった神に、感謝を捧げますわ、、、、
*****
「ジュリアン・・・お前は、、、、第一王女との婚約は解消された。代わりに、、宰相職が任命された。」
国王に呼ばれていた父が、戻ってきたとたん、、、第一声がそれ。
「は?」
「第一王女は、北の修道院送りになった。第二王女とあの婚約者では、政治が回らないからな、、、、考えたな、、、、」
「・・・・・父上、、、もう少し、僕が理解できるように話してもらえませんか?」
「・・・・・ああ、、、王位継承の資質に問題ありと判断されて、第一王女は追放。お前との婚約は解消。で、第二王女が2年後に王位継承することになるから、、、お前が政治をどうにかしろ、ってことじゃないだろうか?」
「・・・ローラが?資質に問題?」
「まあ、何でもいいから、とにかく第二王女を王位に就かせたい勢力が頑張ったんじゃない?決定だ。アウロラ姫は、もう馬車で移送されている。」
「・・・・・早いな、、、」
「反対勢力が騒ぐ前に、手を打ったんだろうな。この国、終わりかもね。」
「・・・・父上、、、、」
「まあ、お前の頑張りにかかってるんだ。頼んだよ。」
そう言って、父は僕の肩を叩くと、酒でも飲むかあ、、、と呟きながら僕の執務室を出て行った。
僕は大公家次男。姉一人。5歳でローラの婚約者になり、程なく王配教育が始まった。
先生は当時の女王。ローラのおばあさまだ。
一つ違いのローラと、切磋琢磨?まあ、ライバル同士、みたいな感じで勉強し、剣術の練習もし、社交も、、、、何もかも一緒に学びながら育った。元々、ハトコ同士なので、恋愛感情はこれと言ってなかったが、あいつが18になったら結婚するんだ、と、漠然と、、、、当たり前のことのように思っていた。
それが、、、、、
追放か、、、、
まじで第二王女を即位させるつもりか?
あの、努力嫌いなわがままな妹が、まともに政治が出来るとは思えない。
そいつの選んだ、顔だけ良い婚約者も、、、、、まあ、、、、
あ、、、、それで、俺が宰相か?
あいつが修道院にいるうちは、かえって安全だ。
護衛騎士もいるし、修道女しかいないわけだし、、、、
でも当然だが、俺からの護衛もつけておく。控えていたエミルを呼び入れる。
「ローラの所に行ってくれる?何かあったらすぐ知らせて。後は、、、、また知らせる。」
「・・・・はい。」
あいつは人の苦労も知らないで、いたってのんびり暮らしているらしい。
早寝早起きで、色つやもよくなったようだと、報告が上がってきた。
ちょっと、ほっとする。
髪は短く切られてしまったらしい。
金色の綿あめみたいなもこもこの長い髪が、、、
眼鏡も取り上げられたらしい、、、
・・・誰かを見るときに、目を凝らして、至近距離で見つめているんだろうか?
あ、まあ、修道女しかいないし、、、、
どこでどんな情報が洩れるか分からないので、報告書は燃やす。
「ジュリアン様も、あんなにもっさいお姉さまがいなくなって、せいせいしていますでしょ?」
もくもくと仕事するしかなくなった俺は、そんなふうに見えるらしい。
ローラと一緒にこなしていた仕事を、事務官に振ったり、第二王女からサインをもらったり、、、、手間だけ増えた、、、、
執務室がむせ返るほどの香水の匂い。まだチビのくせに。まあ、ローラと同じ年だが、、、、じゃらじゃらつけた指輪は、サインの邪魔だ。きっちり結い上げた髪と、みっちりの化粧。フリフリのドレスは、朝、昼、夕、晩、と、着替えている。まあ、、、、王族の、、、王女なら本当はこうなのかもな、、、、匂いにゴホゴホ咳き込みながら、とりあえず、、、、窓を開ける。
「え?まだあるの?あんたがサインしといてよ??」
・・・・・まあ、、、、、頑張ろう、、、、、