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イハ1074番ー最強守護神ですが何か?私は自由に生きるー  作者: 木蓮


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8/9

逃れられぬ規律

脱出に失敗した1070番と1073番は捕えられ、冷たい鉄の牢獄へと放り込まれた。

高等部の地下に、こんな場所があったことに二人は驚いた。


石と鉄に閉ざされた狭い空間。窓はなく、湿気と錆の匂いが漂う。

水滴が天井から落ちる音が、規則的に時を刻むように響いた。

光はほとんど届かず、時間の感覚はすぐに失われていった。

静寂だけが、二人を包む。


「くそ……しつこいやつらだ!」

1073番が拳を握りしめ、鉄床に叩きつけた。


1070番は何も言わず、ただ天井を見つめる。

その瞳には虚ろな影。諦念が静かに広がっていた。


「1070番、大丈夫か?」

1073番が声をかけると、首を横に振るだけだった。


牢獄での日々は、規則と洗脳の繰り返しだった。


毎朝、同じ鐘の音で起こされ、同じ言葉を唱えさせられる。

「思考を捨てよ。自由は罪。外には地獄が待つ。」


声を出さなければ、容赦なく鉄棒が振り下ろされる。

反復教育――それは心を削り取る儀式だった。


1073番は「イハの力」に守られ、洗脳の効きは鈍い。

だが隣の1070番は、日に日に弱り、言葉も表情も削がれていった。


――1074番のことは一切答えなかった。

彼女が必死に逃げた理由。

それを口にすれば、自分たちの抵抗は意味を失う。

それが恐ろしかった。


1074番の存在はイハにとって至宝。

そんな彼女が逃げたこと自体が、イハにとって許されない損害だったのだ。


二週間後。

二人は「規律を守った」として牢から引き出された。


問い詰められた1074番の行方について、二人は答えない――

正しくは、知らなかった。


牢の外には、二人の先輩が待っていた。

1068番と1069番だ。


疲れ切った1070番は、抑えていた感情を爆発させる。

「……あの時、どうして止めたんですか!」


その声は怒りではなく、洗脳に削られた心の悲鳴に近かった。


沈黙の後、1068番が突然1070番を抱きしめた。

「あなたたちを……失いたくなかったの……」

震える声でそう言い、堰を切ったように泣き出した。


彼らはこれまで、多くの仲間が脱走を試み、殺されていく光景を何度も見てきた。

その惨状は、記憶に深く刻まれている。


1069番は深く息を吐き、静かに告げる。

「……事情を説明させてくれ」


四人は、高等部の談話室へと歩を進めた。


談話室に入ると、空気は牢獄とは別の意味で重かった。

机と椅子が並ぶだけの部屋だが、そこに座る二人の先輩から放たれる気配に、1070番と1073番の胸は締めつけられる。


1069番が口を開いた。

「……お前たちはまだ知らない。

 この組織イハには、“逃げた者”に対して決して揺るがないルールがある」


その声は冷たく、だが隠しきれない悔恨が滲んでいた。


1068番が震える声で続ける。

「逃げた者は、必ず殺される。……例外はない」

彼女の瞳は涙に濡れ、遠い記憶を思い出している。


「かつて、私たちの同期も……自由を夢見て外に出ようとした。

 でも、捕まったその日のうちに“公開処刑”されたの」


1070番は息を呑む。

「……なんで、そこまで……」


1069番は拳を握り、机に叩きつけた。

「見せしめだ!

『逃げても無駄だ』『自由は罪だ』――そう思わせるために、奴らは仲間を見殺しにしてきた。

 俺たちも何度も……その光景を見せつけられてきたんだ」


1068番が言葉を継ぐ。

「だから、止めるしかなかったの。

 私たちは、あなたたちを……処刑台に立たせたくなかった」


両手で顔を覆い、嗚咽をこらえる。


1069番の声は、低く震えていた。

「ただ、今回は違う。お前たちは“処刑されなかった”。

理由は一つ――1074番だ」


彼は二人を見据える。

「1074番が逃げた。それは組織にとって致命的な損害だ。

 だから、すぐに殺さず“囮”として生かしている。

 お前たちが生きている限り、1074番は必ず戻ろうとするから。」


1073番もだが、特に1074番は歴代最強と言われている。

イハ同士の戦いでは、彼女の力で校舎が壊れる可能性もある。


「どちらにせよ組織も、今は血眼で1074番を探しているだろうな」


沈黙が広がる。

牢獄での洗脳よりも残酷な現実が、二人の胸を貫いた。


冷たい時計の針の音だけが、談話室に響く。

1069番が続けた。

「この組織から逃げ出すことなんて、本来は不可能だ。

 俺たちが生き残ってきたのは、ただ“従った”からにすぎない。

 裏切れば、皆殺しにされる……抗う力なんて、俺たちにはなかった」


1068番は俯き、膝の上で両手を強く握りしめる。

静かな絶望が、瞳に宿っていた。



1073番は声を荒げた。

「でも……それじゃあ! 俺たちは一生、この牢獄に飼い殺しにされるだけじゃないか!」


1068番は震える声で答える。

「……でも、きっと1074番ならって……期待しているの。

 私たちが果たせなかった“自由”を、きっと……」


言葉は震え、涙に溶けていく。


こうして二人の先輩は、裏切れない苦しみと、かすかな希望を胸に抱いていることを明かした。

その真実を知った1070番と1073番の胸には、怒りとも悲しみともつかぬ感情が渦巻いた。


1073番は、先輩二人が高等部に上がってから、やけに雰囲気が変わったことを思い返した。

「……あの変化は、組織の残虐な規律を知ったからなのかもしれない」と、胸の奥で感じた。


二人は互いを見つめ、言葉にならない思いを胸に押し込める。

その先に、まだ見ぬ希望が待っていることを、信じるしかなかった。

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