閉ざされた世界の外へ
高等部の談話室で、1074番が1070番と1073番を呼び出した。
「この世界は、やっぱりおかしいと思う。」
1070番と1073番は互いの顔を見合わせる。
「外で何を見たの?」1070番が問いかける。
1074番は、自分が見た外の世界をありのまま伝えた。
街を走るバスや車、人々の自由な服装、様々な店が並び、子どもも大人も自由に買い物を楽しんでいる。花や本を売る小さな店もあれば、見たこともない乗り物が行き交う。
私たちイハが取り残されているのでは?
イハの能力をいいように使われているんじゃないか?
1071番と1072番は本当に自爆死んだのだろうか…
そんな疑問が、1074番の心に芽生えた。
イハは特別だ。生まれもった奇跡の力で守らなければいけない。
それが運命――でも、逃げる選択肢もあっていいはずだ。
「外は…そんな世界なんだ」1070番が肩を落とす。
「イハってなんなんだろうな」1073番がつぶやく。
1070番は黙ったまま天井を見つめ、やがて小さく息を吐いた。
「……私たち、本当にずっとここに閉じ込められていいのかな?」
1073番は指を組み、少し俯いている。
「でも、外に出られたとして、何が待っているかわからない。安全かどうかも…」
1074番は手を強く握りしめ、二人を見渡した。
「でも、ここで与えられた通りに生きるだけの人生でいいのかな?
1071番も1072番も、あのまま死んだって本当なのか、もう一度確認したい!」
互いに目を合わせた1070番と1073番。やがて1073番がゆっくり頷く。
「……わかった。考えてみよう。どうやって外に出るか、どうやって真実を確かめるかを。」
1074番の胸は高鳴った。これまで抑えていた希望と恐怖が入り混じる。
「じゃあ…脱出計画を立てよう。少しずつ、慎重に。」
談話室には、緊張感と決意の沈黙が満ちた。
小さな革命の火種が、今、静かに燃え始めていた。
・・・・
あれから数週間にわたり計画を練った。
1073番が机の上に地図やメモを広げる。
「まず、外に出る方法を考えよう。」1073番が指を差す。
「施設の構造は複雑だけど、見張りのルートや警備の時間帯は覚えている。
あとは、私が外で見た街の情報をどう活かすかだ。」1074番が答える。
1070番は眉をひそめる。
「警備の巡回は夜間が一番手薄だった。もし夜を狙うなら、移動手段も必要になる。
外に出た後も、安全な場所を確保しなきゃならないし。」
1073番が地図をさす。
「監視カメラの位置や扉の開閉パターンを調べてきた。
1074番の情報と合わせれば、ルートの目星はつけられるかもしれない。」
1074番はうなずき、地図の上に赤いペンで線を引く。
「ここが正門、あの建物の影を使えば死角になる。外に出たら、通りを右に曲がって、見た小さな店の裏手に隠れられる。通りにはバスや車が走っていて、もし見つかっても紛れ込みやすい。」
1070番が息を呑む。
「なるほど……外の街は本当に、私たちの想像以上に自由なんだ…」
1073番が手を組み直す。
「でも、計画は慎重に進める必要がある。焦れば失敗する。
まずは下見から始めて、警備のパターンを正確に把握するんだ。」
1074番は決意の目で二人を見つめる。
「やってみよう。希望を手に入れるために。」
恐怖ではなく、決意の重みを帯びた沈黙だった。
ー脱出の日ー
1070番、1073番と秘密裏に打ち合わせを重ね、脱出のチャンスを狙った。
「みんな、準備はいい?」1074番の声に、1070番が力強く頷き、1073番も鋭い目で答える。
脱出は計画通りに進むかに思えた。
しかし、廊下の先で警報が鳴り響いた。
「なんで?! 計画がばれたの!?」1070番が叫ぶ。
「走るぞ!」1073番の声に、三人は非常口へと駆け出した。
だが、その先には1068番と1069番が立ちはだかっていた。
「どこへ行くの?」1068番の冷たい声。
二人は私たちの行動を最初から監視していたのだ。
先輩たちはイハの力で抑えにかかる。
1074番は、二人より能力が強いため、必死にシールドで防ぐ。
しかし後ろから警備員が迫り、腕を掴もうとしたその瞬間、1073番が1074番を強く押した。
「お前だけでも…! いけ!!!」1073番が叫ぶ。
「くっ…!」1074番は涙をこらえ、目の前で捕まっていく仲間を見送るしかなかった。
1074番は必死に出口を目指した。
心臓が早鐘のように打ち、呼吸が荒くなる。足音と警報の音が、廊下にこだまする。
「絶対に…外に出る!」
自分に言い聞かせながら、シールドを張り続ける。
敵の攻撃が何度も迫るが、1074番の能力はまだ衰えていない。
廊下の角を曲がると、外への非常口が見えた。
鍵は壊れている。手を伸ばしてドアノブを握る。
しかし、その直前、後ろから叫び声が聞こえる。
「止まれ、1074番!」先生たちの声だ。
迷いを振り切り、全力でドアを押し開く。
学校から出た後も、全速力で走り続けた。学校から外世界までは距離がある。
しかし、学校を出た瞬間、彼らは追ってくることはなかった。
外の世界の入り口にいる警備員をイハの力で眠らせ、無事入ることができた。
冷たい夜風が顔を打つ。
街灯に照らされた道路、行き交う車、バスの音、人々の笑い声。
夜なのに、人々は自由に歩き、今を楽しんで生きている。
「自由になれたのかな…?」
1074番は深呼吸し、夜の空気を胸いっぱいに吸い込む。
目に映るすべてが、閉ざされた学び舎とはまったく違った。
しかし、安心する暇はなかった。
いつまた捕まるか分からない。
なにより、1070番と1073番を助けなきゃ…!
「必ず…二人を助ける。そして、この世界の真実を確かめる。」
闇夜に紛れながら、1074番は街の中へ歩を進めた。




