咲の本音
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「理玖くんって本当にステキ。明るいし、楽しいし、カッコイイし……。非の打ち所がないね」
ーー場所は、引き続き私の自宅。
狭ぜましいベットで咲と横並びになり、咲は私と同じく天井を向いて横になっている。
目を見合わせなくても、声一つで今どんな表情をして話しているか大体察しがつく。
「え、あれが? 欠点だらけでしょ。チャラいし、馴れ馴れしいし……。ホントに困っちゃう」
「全然そんな事ない。でも、二人はあんなに仲が良いのにどうして別れちゃったの?」
部屋の隅に置いてある間接照明が室内をホンワリと灯す中、咲は不思議そうに問いかけた。
横に目を向けると、間接照明の光が差し込んでいるせいか咲の瞳が潤んで見える。
「色々あってね……」
他人の事情は他人しか知らない。
咲は昼間に急接近した理玖が頭から離れないせいか、別れに納得がいかない様子。
だが、咲は突然ふと何かが思い立ったかのように布団からガバッと勢いよく身体を起こした後、愛里紗へ振り返って笑みを向けた。
「愛里紗と理玖くん、今すっごくイイ感じじゃない? また付き合ってみたら? 私、理玖くんとなら応援したいな」
「……え、私が理玖とまた付き合う? 一度別れたのに?」
「うんうん。二人とも波長が合うし、理玖くんカッコいいし。凄くお似合いだと思う」
咲に言われるまで理玖とヨリを戻そうと思った事は無かった。
だから、いまいちピンとこない。
「仲が良くても付き合うとなればまた話は別なような……」
「理玖くんとなら上手くいくよ! 絶対……。理玖くん、愛里紗のおばさんとも仲が良さそうだし、何より愛里紗自身が楽しそう」
私、理玖と一緒にいると楽しそう?
疑問に思いながらも頭の片隅で思った。
確かに咲の言う通り、夏期講習で再会してから自分の事ばかりじゃなくて理玖の事も考えるようになった。
今は友達として傍にいてくれるけど、もし理玖に彼女が出来たら?
以前と同じように二度と会わなくなっちゃうのかな。
今みたいな楽しい時間を捨てなきゃいけなくなっちゃうのかな。
もしそうだとしたら、理玖と再会する前と同じような生活を送る事が出来るのかな。
最近は一緒に過ごす時間が長くなっていたから、なんかちょっと自信がないかも。
愛里紗は一瞬不安になったが、心を落ち着かせる為に一旦話題を変えた。
「そう言えば、最近彼氏の話を聞かないけど。二人はうまくいってるの?」
「んー……。彼はクールな人だからなかなか思うようにいかなくて」
愛里紗が突然彼氏の話題へとシフトした瞬間、咲は布団を被って頭を枕に落とした。
バサッ……
咲は返事も聞かぬまま愛里紗と反対方向を向いた瞬間、ポツリと呟く。
「愛里紗が羨ましい……」
「えっ、いま何か言った?」
「あ……、ううん。何でもない。おやすみ」
ギリギリ耳に届くか届かないくらい小さな声で言ったそのひとことは、幸せ絶頂期のはずの心に暗い影を落としていた。
 




