仲良くなった二人
私達は必死にテスト勉強をしてるけど、理玖は帰ろうとしないし、学校は中間テストがないのかなぁ……なんて思いながら、ノートに英単語を繰り返しながら書き綴った。
一方の理玖は、ベッドに背中をもたれかからせてスマホゲームで遊び始めた。
すると、シンと静まり返っている室内に玄関扉が開く音が。
ガチャ……
物音とレジ袋がカサカサと擦れる音が一旦止むと、気配と共に足音が徐々に近づく。
部屋の扉が開くと帰宅したばかりの母は言った。
母親「ただいま、愛里紗。いらっしゃい、咲ちゃん。ごめんね、理玖くん」
愛里紗「ちょっとぉ、お母さん! 理玖に留守番頼まないでよ」
咲「おばさん、お邪魔してます!」
理玖「全然イイっすよ。めっちゃ楽しいから」
愛里紗「理玖ったら、全然帰ろうとしないんだもん。もういい加減帰りなって」
愛里紗は冷めた目つきのまま手でシッシッと追い払う。
理玖「追い出そうとするなって。友達だろ」
母親「愛里紗! 理玖くんにひどい事言わないの。愛里紗の為にお留守番していてくれたのよ」
愛里紗「だって、さっきから邪魔しかしないんだもん」
理玖「……っだから、反省して今は大人しくしてんじゃん」
愛里紗「じゃあさっきの寒いギャグをお母さんにも聞かせてあげれば? 笑ってくれるかもね。何だっけ? 今井くんいま……」
理玖「あぁ、もーいちいち蒸し返すなって。そんなちっぽけな事を根に持つなよ」
愛里紗「ちっぽけなのはどっちよ」
愛里紗達の小競り合いに困り顔の母と咲は、お互い顔を見合わせてクスッと笑う。
ーー勉強に戻ってから10分後。
一度リビングに戻った母は、ケーキと紅茶を三人分持って勉強道具を下げたテーブルに手際良く並べた。
母親「三人で仲良く食べてね。愛里紗、理玖くんと喧嘩はダメよ」
愛里紗「あんなの喧嘩じゃないけどね」
理玖「あざーっす。うわっ、旨そ……。俺、チョコのやつー」
咲「おばさん、ありがとうございます。いただきます!」
母親「じゃあ、ごゆっくり」
母はお盆を下げて部屋を後にする。
理玖はケーキを一口パクリと食べると、先程と同じく軽い口調で、紅茶をフーッと冷ましている咲に言った。
理玖「さっきの話に戻るけど、咲ちゃんの彼氏の名前は何って言うの〜?」
咲「えっ!(その話題は終わったと思ったのに……)」
愛里紗「まだその話? シツコイからもうやめなよ。いい加減嫌われるよ」
咲「……あはは」
理玖はいっぱい話しかけて咲と仲良くする作戦なのかな。
面白ネタを探そうとしているのか分からないけど、さっきとまた同じ話題を振っちゃって。
咲だって返事をするのに困ってるでしょ。
ケーキのお皿が空になってもマシンガントークは止まらない。
お陰でこっちまですっかり寛ぎモード。
咲も楽しそうに喋るから、なかなか勉強に戻れないし。
理玖「咲ちゃんはどこに住んでるの?」
咲「三鷹大平町だよ。知ってる?」
理玖「あー、知ってる知ってる! 魚の街だろ? すげぇ田舎だけど駅前は結構拓けてるよね」
咲「魚の街? 何それーっ!」
愛里紗「漁港があるからって魚の街はないでしょ。それに、案外都会だよ」
最初は口達者な理玖のトークに咲は押され気味だったけど、時間と共に慣れて来た様子。
表情を七変化させながら賑やかに会話を進める二人は、まるで古い友人のように打ち解けている。
学校や地元の話。
それに、髪型一つだって褒め上げる。
惹きつけられるトークに咲の関心が寄せられていき、二人ともすっかり仲良くなった。




