見つめていたノグ
ーー今日から10月。
朝、教室に一歩足を踏み入れると……。
昨日まで真っ白のシャツ色に染まっていた教室内は、今日から紺のブレザー色に。
暗く染まった教室内は一気に季節感が増していた。
窓の向こうの景色は、衣替えと共に秋が深まっている。
着慣れないブレザーが窮屈に感じなくなり始めた、三時間目が始まる直前。
隣のクラスの木村が、バタバタと足音を立てながら私達の教室に入って来た。
「駒井。悪いけど、英語の教科書貸してくんない? 今日忘れちゃってさ」
木村がいつものように咲との間に割り込んでくる。
咲は毎度の事ながら仕方ないなと言ったように眉を下げて、机から英語の教科書を取り出して木村に差し出す。
「いいけど、ちゃんと返してね。五時間目に使うから」
「悪りぃな」
木村は受け取ると、照れ臭そうに頭をかいて教室へと戻って行った。
咲に彼氏がいる事も知らずにアピールを続けて、かわいそうだと思うけど仕方ない。
「木村って、他に教科書借りる人いないのかなぁ」
耳を赤くして走り去る後ろ姿を見ながらそう言うと、咲はニッコリと微笑む。
「私がいつも貸してるから借りやすいんじゃないかな」
木村がこんなに頻繁にノートや教科書を借りに来ても、咲は文句一つ言わずに貸してしまう。
でも、残念ながら気持ちには気付いてない様子。
木村の恋は一方通行だけど、彼は彼なりに今日も一生懸命だった。
「明日は金曜日だから一緒にテスト勉強をしようよ。明日うちに泊まりに来ない?」
「うん、行く行く!」
「勉強で分からない箇所があったら教えてね」
「私がわかる範囲ならいいよ」
教室内で何気ない会話をしていた時、廊下側から突き刺さるような視線を感じた。
吸い込まれるように目をやると、そこにはノグが切ない目つきで私を見つめている。
「ノグ……?」
バッチリ目が合った瞬間ひとり言のようにポツリとそう呟くと、彼女はひと声かけるどころかハッとした表情を見せて逃げるように立ち去った。
ノグは話をしに来た訳ではなさそうだし、何かを伝えに来た訳でもない。
何かを訴えるような目に違和感を覚えた。
「ノグ、どうしたんだろう。私に何か話があるなら言いに来ればいいのに」
と、振り返りざまにそう言うと……。
「……」
咲は明るく話していた先程とは打って変わって、目線を落として暗い表情を覗かせた。
「咲、どうかしたの?」
「ううん、どうもしないよ」
何かを訴えるように私を見つめていたノグ。
そして、ノグが来た途端笑顔が消失した咲。
二人の異変は一目瞭然だったけど、その原因が見出せなかった。




