理玖の告白
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「愛里紗が好きなんだ。俺と付き合わない?」
ーー梅雨の時期に差し掛かった、曇り空のある日の学校からの帰り道。
自宅近辺で待ち伏せしていた理玖は、少し恥ずかしそうに言った。
その時は背負っているリュックの肩紐が片方ズレ落ちても気付かないほど驚いた。
「嘘でしょ?」
疑うのも無理はない。
理玖と言えば、女子からキャーキャー騒がれるほどのモテ男。
狙っている女子はパッと思い浮かべるだけでもクラスに五人以上いる。
「嘘で告白なんてしないよ」
愛おしそうに見つめてくる瞳でストレートにそう伝えられる。
グループで一緒に過ごした日々は楽しかったし、理玖の優しさも心地良かった。
谷崎くんとの恋を引きずり続けていたけど、理玖のお陰で少しずつ笑顔が取り戻せたのは紛れもない事実。
谷崎くんへの想いは断ち切れた訳じゃない。
でも、その反面いまのままじゃいけないとも思っていた。
周りの人には随分迷惑をかけてきたし、自分自身も前に進まなければいけない。
それに、もしここで断ったとしたら、グループの雰囲気を壊してしまうのではないかとも思った。
だから、私は……。
「よっ、よろしくお願いします」
勢いに任せて頭を下げた。
その時は友達の延長線上として考えていた。
告白なんて一度もされた事がなかったから、緊張で身体がブルブルと震えていた。
「ねぇ、妙に堅くない?」
「そ、そうかな……」
「ま、いっか。お前は今日から俺の愛里紗だからな」
理玖はそう言うと、肩を組んで真横でニカッと笑った。
これが正解だったか分からないけど、彼女になったこの日を境に私達の時計は時を刻み始めた。
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「三組目のカップル誕生だね!」
吉報を伝えられたサオリとユカは、同じグループ内の最後のカップル誕生にパッと目を輝かせた。
「どっちが告白したの?」とか、「どんなところが付き合う決め手だったの?」とか、質問責めに。
歓迎的な空気に飲み込まれてしまったせいか、自分の中に新しい感情が芽生えたような気になっていた。
グループのみんなで同じ塾に通ったり、集団デートをしたり。
最初の頃はみんなと気兼ねなく付き合えるようになったのが一番のメリットだと思っていた。
ところが、私達がカップルになった直後から、みんなの関心がグループ意識から離れ始めた。
私達は思春期真っ只中。
やがて恋人の発展に意識を向け始めていき、固まっていたように思えていた団結力は薄れていき、気付いた時には一組ずつバラバラに行動するように……。
みんなと一緒にいる時は最高潮に盛り上がるのに、理玖と二人きりになると意識し過ぎているせいか呼吸をするのも遠慮がちに。
普段は話し上手な彼も、二人きりの時は口数が減っていた。
二人で帰宅する事が日常化していて、今日も沈黙させまいと思って必死に話題を探しながら家路に向かっていた。
「そう言えば、サオリ達先週の土曜日に遊園地行ったんだって。興奮しながら話してたよ」
「ふーん。お前も遊園地に行きたいの?」
「えっ! ……いや、別におねだり的な意味で言った訳じゃなくて」
「どこか行きたい所があればいつでも言って。俺らも少しずつ思い出作りしていこう」
「あ、うん……」
友達としてのノリと、恋人としての接し方に差を感じた。
乗り越えなければいけない壁だけど、過剰に意識してしまっているせいかぎこちない。
これから先も今のような接し方で交際していくかと思うと不安だった。
すると、歩いている振動のせいか、理玖の手の甲がコツンコツンと二回ほどリズムよく袖口に当たった。
その時は至近距離で歩いているから不意にぶつかった程度にしか思っていなかった。
でも、三回目が当たった瞬間、理玖は手をすくい上げてギュッと握りしめた。
理玖の手は想像以上に大きい。
体温が直に伝わって驚くように顔を見上げると、彼はリンゴのように頬を赤く染めていた。
物珍しい目でじーっと直視していると、照れ隠しをするかのようにプイッとそっぽを向く。
「俺……。マジでお前が好きだから」
耳を澄ませてた訳じゃないけど、車が横切る音や、草木を揺らす風の音に声がかき消される事はなかった。
 




