ピンポイントな質問
二人が腰を落ち着かせると、ノグはまるで事情聴取を始めるかのように正面の咲の目を真っ直ぐ見つめる。
一方の咲は、後ろめたい気持ちに押し固められていて目線を合わせられない。
「愛里紗と翔の関係、知ってたんじゃない?」
ノグは落ち着いたトーンで話し始めた。
それは、色んな意味がギュッと濃縮された言葉。
咲はピンポイントな質問に対して身体を震わせながら素直に頷く。
聞きたい事が山ほどあるノグ。
不安に溺れている咲。
小さなテーブルを挟んだお互いは、それぞれの想いが交錯している。
テーブルに置かれたままの紅茶を口にする事なく2〜3分ほどの沈黙が続いた。
「愛里紗には言わないで。翔くんの事……」
先に沈黙を破った咲は、恐る恐るとした口調でそう言った。
これが今の精一杯の想いだった。
「……」
「お願い。ノグちゃん……」
まるで人形のような大きな瞳から涙がこぼれて顎に滴らせながら、ノグの瞳を見つめて心情を訴えた。
だが、ノグは愛里紗の想いが頭の片隅にあって、咲の意向を聞き入れる事が出来ない。
「いつから愛里紗と翔との事を知ったの?」
ノグからの質問に、少し言い渋らせるかのように口を結んでシュンと小さく背中を丸めた。
現実からは逃げられない。
覚悟を決めて再び顔を上げると、涙いっぱいのままノグと目を合わせた。
「それは……」
「それは?」
ノグの力強くなっていく口調と目力が怖くてつい口籠もってしまい、発車したはずの気持ちはブレーキがかかり気味に。
だが、翔の件を黙認してもらうには、目の前のハードルを飛び越えなければならないと思った。
「今年の春、愛里紗の家で小学校の卒業アルバムを見たの。愛里紗は好きだった人の話を始めたからどの人かと聞いたら、そこには名字が違う翔くんの姿が。……そこで、愛里紗が好きだった人と、私が中学生の頃から想いを寄せている人が同一人物だって知ったの」
「駒井さんは中学の時、翔と同級生だったんだね。それで、二人はいつから付き合い始めたの?」
「愛里紗の初恋話を聞いてから、翌日に告白して付き合い始めた」
「それは、愛里紗が昔から翔に会いたがってた事を知って?」
「真実を知ってから告白したの」
ノグは素直に打ち明ける咲に対してやりきれない気持ちが充満していくと、テーブルに置いていた拳にギュッと力を込めた。
翔が街から姿を消した後、愛里紗はショックで憔悴しながらも、翔だけをひたすら想い続けていたのを一番近くで見守っていたから。
ガタッ……
「聞いてらんない。あんた、愛里紗の気持ちを知りながら告白するなんて最低だよ」
ノグは腹立たしさを覚えると、キツく睨みながら席を立った。
だが、咲は顔面蒼白になりながらもすかさずノグの腕を掴んだ。
「お願い! ノグちゃん。私の話を最後まで聞いて欲しいの」
咲は今日を逃したら後がないと思い、最大限の力を振り絞りながら思いを伝えた。
「翔くんに思いを寄せてたのは愛里紗だけじゃない! 私もずっと、ずっとずっと翔くんが好きだったの」
頬に涙を滴らせて懇願する咲。
ノグの腕にはギュウッと力が加わっていく。
ノグは切実な思いが届くと、気持ちを抑えて渋々と席に着いた。
「中一の終わりに翔くんと知り合って、中二で初めて同じクラスになったの。実は告白したのは、この前で三回目だった」
「そう……」
咲は中学生当時を振り返りながら胸の内を明かし始めた。
ノグは一つたりとも聞き逃さないように集中して、紅茶を一口ゴクリと飲む。




