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卒業アルバム



そうだ!

確か咲の彼は同じ中学出身。

つい先日写真を見せてと頼んだら付き合いたてで撮ってないと言ってたけど、卒業アルバムなら間違いなく写ってる。



愛里紗は咲の自慢の彼氏を知るチャンスが到来すると、卒業アルバムに興味を湧かせた。


本棚からケースに入ったアルバムを人差し指で手前に引いて取り、エンジ色のベロア素材の中身を取り出してパラパラとページを開く。




えっと、名前はたしか……今井。

変わった名字じゃないから覚えてる。

同じ名字の人がいたとしても、学年に一人か二人くらい。

しかも、モデル並みのイケメンなら写真を見れば一発で見つかりそう。



んー、楽しみ!

彼氏ってどんな人だろう。

芸能人の誰に似てるかな。


もしアルバムを物色してるのがバレたとしても、許してくれるよね。

以前彼氏の写真を撮ったら見せてくれるって言ってたし、彼の顔が見たかったからって白状すればいいよね。




毎日幸せオーラに包まれている咲。

親友だからこそ念願叶って射止めた彼氏が一体どんな人なのかが気になっていて、アルバムを手にした今はまさにその姿を知るチャンスだと思った。


それは、ちょっとした好奇心に過ぎない。




愛里紗がアルバムのページをパラパラめくっていた、その時。

咲はジュースとお菓子を乗せたお盆を片手に部屋の扉を開けた。




「愛里紗、着替え終わった?」




ところが、入室してまず目に飛び込んだのは、中学校の卒業アルバムを開いている愛里紗の姿。

しかも、開いてるのは一番恐れていたクラスページ。

絶対絶命のピンチを迎えると、ハッと目を見開いてお盆をポロっと床に落とした。


ガシャン……


落下したジュースがカーペットに広がった瞬間、悲鳴混じりの声を上げた。




「それはっ……ダメッ!」




逼迫した様子で愛里紗からアルバムを奪い取ると、両手で大事そうに抱きかかえて地べたに座り込んだ。



小刻みに震える指先。

強く抱きかかえられているアルバム。

そして、顔面蒼白のままぎゅっと目を瞑っている。



カーペットに散乱したお菓子と、倒れている空のコップ。

溢れたジュースはカーペットの模様の一部に。



愛里紗は衝撃的な光景に思わず口が塞がった。




えっ、何……。

卒業アルバムを見てただけなのに、どうしてそんなに取り乱すの?

しかも、今まで見た事のない切羽詰まったような表情。


見られたくないページでもあったのかな。




緊迫した二人の間に長い沈黙が続いた後、咲はハッと我に返り恐々とした表情で言った。




「ゴメン……。無理矢理アルバムを取り上げられて嫌な気持ちになったよね。昔の写真は恥ずかしいから人に見られたくなくて」


「……こっちこそ勝手に卒アル開いちゃってごめんね」



「ううん」




咲は力が抜けたようなため息をつくと、ゆっくりと立ち上がってアルバムを本棚に差し込む。

気持ちが渦巻いていた愛里紗は、咲の豹変した姿が暫く頭から離れなかった。


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