初デート
咲は長引いたHRによって初デートの時間に遅れがちに。
乗車している電車が自宅の最寄り駅に到着して扉が開くと、焦るあまりに足が絡まって転倒しそうに。
息を乱して人を避けながら階段をリズミカルに叩きつけて駆け上がる。
上った先のフロアに出て改札向こうに目を向けると、彼は駅の窓口の壁に背中を寄り掛からせて小説を読みながら到着を待っていた。
彼はすらりと高身長で黒髪のやや癖っ毛。
下校時の今は学ランを着用している。
身長は180センチ超えで美形だから、見つけるのに時間はかからない。
「いた……。夢じゃない……」
本当に約束の場所に来てくれるなんて夢みたい。
つい先日までは手の届かない存在だったのに……。
咲は拳を胸に当てて一度心を落ち着かせてから彼の元へ駆け寄った。
「翔くん。遅くなってごめんね」
「そんなに長く待ってないよ」
常に緊張感に包まれている咲とは対照的な翔は、無表情のまま小説をカバンにしまう。
翔くんは告白を受け入れてくれたばかりで気持ちに温度差がある。
友達以下から始める彼女生活。
人を好きになるには時間がかかるから、ゆっくり距離を縮めていけばいいよね。
きっといつかは好きになってくれるよね。
今は隣にいれるだけで満足だよ。
モデルと言っても過言ではないほどスタイル抜群で容姿端麗な彼。
一度見たら目に焼き付いて離れられないほど魅力的な人。
「何……。俺に何か用?」
翔の不機嫌な眼差しは、自分の噂話をしている二十代前半の女性二人組へと向けられる。
隣の咲は翔の気を逸らす為に焦って腕を引く。
「噂話なんて気にしないで行こう!」
彼を周囲の目から避けるにはこうする他なかった。
悪い噂をされている訳じゃなかったけど、人の目が気になるのかな。
初デートは失敗しないようにプランを練っていた。
最高潮な時間を最高に素敵な彼氏と過ごしたい。
苦労して彼女の座を得たのだから、ここからが本当のスタートに。