咲の彼氏の話題
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「……でね、いかにもやり手風のキャリアウーマンが彼に『君はモデルに向いてるよ。ちょっと時間ある?』なんていきなり名刺を出してきたの。もー、ビックリしちゃったよ」
「うわぁ、凄いね。咲の彼氏ってよっぽどのイケメンなんだね」
「うん。ちょっと無愛想なんだけど、私にはもったいないくらい素敵な人」
咲は今日も彼氏の事で頭がいっぱいで、晴天下の屋上ランチ中に自慢話。
太陽光を浴びてるせいか、笑顔がより一層輝かしい。
気分が弾んでいるせいか、聞いてる側も幸福度が伝わってくる。
いいな……。
3年間想い続けた人と付き合えるなんて。
告白が断られてもくじけずにアタックし続けて、辛い時期を乗り越えて恋が実ったから苦労した甲斐があったね。
でも、内容から彼氏がモデル並みのイケメンという事までは分かったけど、毎日話を聞かされていても情報量が少なくてさっぱりイメージが湧かない。
咲があまりにもイケメンと繰り返すから、一度でいいから見てみたいな。
普段なら話を聞いても幸せそうだなと思う程度。
でも、あまりにも自慢するからふと興味が湧いた。
スカウトされるほどのイケメンなら写真を見せてもらった方がイメージを膨らませやすいかもしれないね。
だから、聞いた。
「そんなにイケメンなら彼の画像を見せてよ〜。ツーショット写真とか撮ってるんでしょ」
愛里紗はニヤケ眼でそう聞くと、咲の表情は曇る。
「……えっ」
別に無理なお願いを言った訳じゃないし、困らせる気もない。
それなのに、咲は笑顔を消失させて目線を逸らした。
「まだ付き合ったばかりだし写真は撮ってないの。ごめん」
まるで1分前とは別人のような態度に。
あれ……。
一瞬嫌そうに見えたのは気のせい?
でも、本当に嫌なら彼氏の話なんてしないか。
それなら、差し支えのない質問に変えてみよっと。
「そうだよね。まだ付き合って日も浅いしね。ゴメン、ゴメン。……で、彼は何ていう名前だっけ。前に聞いたっけ? 忘れちゃった」
「えっ?! あ……、え……ええっと、しっ……」
「うん。しっ?」
「……違う。今井くん」
「そう! 今井くんって言うんだ」
「う……、うん……」
「モデル風のイケメンの今井くん、早く見たいな〜。写真を撮ったら絶対見せてね!」
「……わかった」
彼氏の話題で再び盛り上がると思ったのに、咲は再び暗い表情に戻る。
実はあまり詮索されたくないのかなぁ、なんて。
歯切れが悪い返事に違和感を覚えたけど、その時はどうして中途半端な態度をとったのか分からなかった。




