恋
ーー新学期が始まってから数日経った、9月上旬のある日。
授業の合間の休み時間に友達が内緒話をするかのように手を添えてきたので、何かと思って興味深く耳を貸すと……。
「あーりん、谷崎の事好きでしょ」
心に秘めていたはずの想いは、何故かお見通しに。
友達はニヤケ眼で反応を見ているが、正直者は嘘をつけない。
「えっ、えっ……」
「そんなに真っ赤な顔して動揺してるって事は……。まさか気持ちがバレてる事に気付いてなかった?」
「えっ、あの……。えっ!」
「あはは、あーりんって分かりやすすぎ」
友達に気持ちが見透かされていて恥ずかしかったけど、自分自身まだ気付いてなかった。
以前から谷崎くんに好意を持っていたけど、それがまさか恋だったとは……。
ーー同日の五時間目の学活の時間。
担任は黒板にカツカツとチョークの音を立てながら、一班から六班までの班を順番に書いていく。
全て書き終えてチョークを置くと教卓に両手をついた。
「今月末は待ちに待った修学旅行です。今から自由班を決めましょう。班は人数が平等になるようにクジ引きで決めます。一班は大体五〜六人程度ですね」
「えーっ! クジかよ〜」
「好きな者同士のグループでいいじゃん」
「俺は丸井と同じ班になりたくねーよ」
「鈴木。俺と一緒になるのを嫌がるなって」
谷崎くんと同じ班になれば話せる機会が更に増える。
ご飯だって一緒に食べれるし、グループ写真だって一緒に撮ってもらえる。
私達、同じ班になれるかな……。
教室内でたらたらと不満が飛び交う中、愛里紗は心の中で翔と同じ班になるように懸命に祈る。
だが、神様に祈ってるのは自分だけじゃないとも思った。
クジは廊下側の一番前の人から引いていく事に。
愛里紗は二班の名前欄に翔の名前が入った事を確認。
紙袋は回りに回って自分の番になり、祈りながら手を突っ込む。
ガサゴソとよ〜くかき混ぜて一枚引いた四つ折りの小さな紙をゆっくり開くと、二折目のところで透けた横線が一瞬見えたので顔が綻んだ。
ところが紙を広げてみるとそこに書いてあった数字は……。
【三班】
ガーン……。
思いっきり期待外れ。
うっすらと横線が見えた瞬間、谷崎くんと同じ二班かと思って喜んじゃったよ。
さすがに私ばかり幸運は続かないか。
すっかり意気消沈した愛里紗は、担任に自分の班を報告する為にクジを引き終えた人達の列に並んだ。
……が、その時。
背後から誰かがヒソヒソと小声で話している会話が耳に入った。
「良かったぁ。同じ班だったよ」
「やったじゃん!」
「……うん。私、修学旅行で頑張って告白しようかな」
教室内がガヤガヤと騒がしかったので振り返ってみても誰が告白話をしていたのかは分からない。
修学旅行と言えば、6年間の小学校生活の行事の中でも一大イベントだもんね。
凄いなぁ。
私なんて告白する勇気すらない。
もし、告白が失敗して谷崎くんにフラれてしまったらと思うと、同じクラスだから次に教室で会った時に気まずくてどう接したらいいのかわかんないよ。
それに、神社にも遊びに行けなくなっちゃうし……。
でも、好きな人と偶然同じ班になった子は一体誰に告るつもりだろう。
勇気があるなぁ。
羨ましい……。




