一冊の卒業アルバム
「コレ見てもいい?」
同じ高校に通う親友 咲がピンッと指をさした先は、昨日から机に開きっぱなしにしている小学校の卒業アルバム。
今日は下校後に泊まりに来ていて、ベッドに腰を下ろした際にたまたま目についた様子。
「見てもいいけど……。ちょっと恥ずかしい」
「大丈夫、大丈夫! ……で、愛里紗は何組だったの?」
「もー、他人事だと思って。二組だよ。六年二組」
咲はアルバムを中央テーブルに置いてから座ってページをパラパラとめくる。
「あったあった! 江東 愛里紗。これだっ! うわー、愛里紗は昔から全っ然変わってないね。そのまんま」
「おかしいなぁ~。その頃から比べるとセクシーになってるはず」
「待って~! どの辺がセクシーになったのぉ〜? 私に言ってごらん」
「あはは、やめてよぉ」
私達はアルバムを見ながらキャーキャーとじゃれ合って、たわいもない話を続けた。
ーーしかし、この瞬間から運命の歯車が狂い始めていた。
いや、正しくは自分の知らないずっと昔から……。
咲は高校一年生から二年間同じクラス。
少し癖っ毛で鎖骨までの栗色の髪。
前髪は短くて斜めに流している。
まつ毛が長くて色白。
ほんのりピンクなほっぺはまるでお人形さんのよう。
甘えん坊な性格は、男子からは好意があると度々勘違いされてしまうほど。
私自身も優しくて可愛らしくてお人形さんのような咲が大好きだ。
ーーそう、今でも忘れられない。
あの日が来るまでは何も疑わずに過ごしていた。
彼女が裏切りさえしなければ。
誤魔化し通し続けていてくれれば。
急に素直にならないでいてくれれば……。
静かに眠り過ごしていた心は呼び覚まされなかったかもしれない。




